第20話 新しい旅の仲間
宿屋の馬小屋で寝ていた謎の少女。
声をかけて肩を揺すってみたが、まったく起きる気配がない。
ドミニクはランドに見張りを頼み、その間に店主を呼んできた。もしかしたら、ここの宿屋の子か漏れないと思ったが、当ては外れた。
「知らない子だなぁ……」
宿屋の店主はそう言って首を傾げた。
とりあえず、あのまま放置しておくわけにもいかないので、ドミニクはその子を背負って宿屋ロビーにあるソファへと移動させた。
その間も少女はまったく起きる様子がなく、すぅすぅと小さな寝息を立てている。
「誰なんだろう……」
改めて、ドミニクは少女の顔を見る。
外見からして、恐らく年齢は十三、四歳といったところか。
寝息に合わせてわずかに揺れる長い紫色の髪をツインテールにまとめ、動きやすそうな服装から貴族などの方面とは違うようだ。しかし、寝顔だけ見ても、そう勘違いしておかしくないくらい愛らしい感じのする少女だった。
最初は虐げられていた場所から逃げだしてきたのではと疑ったが、手足に傷はなく、また肌ツヤもよかったため、その線は薄いだろうと考えた。
その時、
「おはようございま――って、どうしたんですか、その子?」
身支度を整え終えたアンジェとイリーシャ、そしてエヴァがやってくる。
まだ眠いのか、イリーシャは目をこすりながらもアンジェの右手をギュッと握っており、エヴァはアンジェの右肩にとまってソファで寝ている少女を見つめている。
ドミニクはすぐに事情を説明。
「う、馬小屋で寝ていたって……」
アンジェの表情が引きつる。
普通ならば宿屋に泊まるところを、少女はしなかった――いや、きっと資金的な問題でできなかったのだろう。
そうこうしているうちに、
「う、うぅ……」
少女が目を覚ました。
「うにゅ……」
寝ぼけ眼をこすりながら、辺りを見回しているうちにドミニクと目が合う。それからしばらく動きがなくて――
「あっ!?」
悲鳴にも似た声をあげると、少女は一目散に店の出口へ走り去ろうとする――が、
「そう慌てるでない。事情くらい話していかんか」
エヴァが威力を最大まで抑えた風魔法を少女の足元へと放つ。それが原因で足がもつれた少女は盛大に転んでしまった。
「だ、大丈夫か……?」
ドミニクとアンジェが駆け寄って少女を抱き起す。
すると、
「ご、ごめんなしゃい~」
突如、少女は泣き出してしまった。
「あ、安心してくれ。俺たちは君の敵じゃない」
「そうよ。あなたをいじめたりなんてしませんから」
ドミニクとアンジェが優しく話しかけると、少女は涙を止めた。
それから少し落ち着かせて少女から事情を聴くことに。
ちなみに、イリーシャはまだ眠いようで、エヴァが井戸のある宿屋の裏庭へと案内し、そこで顔を洗うことに。
「お騒がせして申し訳ありませんでした……」
深々と頭を下げた少女はシエナと名乗った。
山間にある小さな農村の出身であったが、どうもそこが野盗の襲撃に遭い、村人たちはほとんど殺されてしまったという。シエナの両親も、娘を逃がすために野盗たちを引きつけていたとのことだが、恐らく――
「ひ、ひどい……」
アンジェは青ざめ、ずっと逃げ続けてボロボロになったシエナを抱きしめる。
人情に厚い宿屋店主の厚意により、風呂と食事、さらには新しい服まで用意してもらったシエナは、ドミニクたちに深く感謝した。
しかし、問題はこの後だ。
住む場所と両親を失くしたシエナをこのままにしておくわけにもいかない。
そこで、ドミニクはある提案をする。
「シエナ。君が安息の地を見つけるまで、俺たちと一緒に来ないか?」
「えっ!?」
「いいんじゃないでしょうか? あちこち飛び回る予定だから、そのうちいい場所が見つかるかもしれません。もちろん、あなたの考えを最優先させますが」
この提案に、シエナは、
「い、行きたいです! 連れて行ってください!」
即答。
こうして、ドミニクたちの旅に新たな仲間が加わったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます