第17話 冒険者アルム

 冒険者たちからアルムの情報を集めつつ、奥へと進んでいくドミニクたち。

 道中、モンスターが出現して行く手を阻んだが、そこは霊竜憑依状態のドミニクが次々に蹴散らしていき、概ね問題なく進めていた。


「そろそろ最奥部に到着だけど……」

「なんじゃ、もうか?」


 憑依している霊竜エヴァは物足りないようだが、これまで最奥部になど来たことがないドミニクは、すっかりその雰囲気におされていた。


 一方、イリーシャが迷子にならないよう手をつないでいたアンジェは、何かを発見してドミニクたちを呼ぶ。


「ねぇ、ドミニク。あそこにテントがあるんだけど」

「! きっとそこにアルムさんがいるんだ」


 ドミニクたちは大急ぎでテントへ。

 すると、


「あれ? こんなところに人がいるって珍しいっすね」


 テントから出てきたのは若者だった。


「あ、あれ? アルムさんって……君?」

「いやいや、アルムさんは俺の師匠っすよ。俺は弟子のトミーっす」


 どうやらお弟子さんらしい。

 

「私たち、アルムさんにお話が聞きたくてここまで来たんだけど……今どこに?」

「師匠ならそろそろ戻ってくるはずっすけど――あ、来たっすよ」

「えっ? ――うわっ!?」


 弟子のトミーが指差した方向には、巨大な魚を担ぐひとりの初老の男性がいた。ゆっくりとこちらへ歩いてくるその人物こそ、


「あれが師匠っす」

「あ、あの人が……」


 ドミニクたちが捜していた冒険者アルムであった。


「あん? トミー、誰だ、そのふたりは?」

「師匠を訪ねてきた人たちっすよ」

「俺を? ――っ!?」


 アルムは来客であるドミニクたちを一瞥すると、担いでいた巨大な魚をポイッと放り捨てて走り寄る。

 その目的は、


「お、おめぇ! もしかしてギデオンとヴェロニカの子か!?」


 イリーシャだった。


「や、やっぱり分かります?」

「ああっ! もちろんだ! あのふたりの面影がバッチリある! おお……懐かしいなぁ!」


 感動のあまり撫でまわすアルムと、そこから逃れようとするイリーシャ。

 

「あの、アルムさん」

「なんだ?」

「実は俺たち……その子の両親を捜しているんです」

「!?」


 ピタッとイリーシャを撫でていた手が止まる。


「あのふたりを捜しているのか……」


 神妙な面持ちとなったアルムは、手近な岩に腰を下ろして深く息を吐いた。


「それで俺のもとを訪ねてきたってわけか。……期待させておいて申し訳ないが、今のふたりの居所については見当もつかねぇ」

「そうですか……」

 

 落胆するドミニクたちだが、これは半ば想定内のこと。何せ、ふたりがこのダンジョン近辺にいたのはもう何年も昔のこと。さすがに近況は知り得ないだろうと覚悟をして挑んでいたのだ。

 ――ただ、


「なら、ここから次はどこへ向かったか、言っていませんでしたか?」

「それなら分かるぞ。あいつらは北にあるダンジョンに向かった。そこを拠点に活動している《銀狐》って冒険者パーティーに誘われたんだ」

「銀狐……」


 かなり有力な情報だ――と、思ったのだが、


「もっとも、すでにそこも抜けてまたフリーに戻ったと風の噂で聞いている」

「そ、そうなんですか」


 膨らんだ期待は一瞬にしてしぼんでしまった。

 が、少なくとも、ふたりがその《銀狐》なる冒険者パーティーに所属していたことは確かなようなので、そのパーティーのメンバーから話を聞ければ現在地について何か分かるかもしれない。


「まあ、一歩前進ということじゃな」

「そうみたいですね」

「うん?」

「ああ、いや。こっちの話です」


 霊竜エヴァは、ドミニクとアンジェとイリーシャ以外にその姿は見えない。人前で話す時には注意しないと面倒なことになりかねいのだ。


「さて、腹減ったろ? 飯でも食っていけよ」

「えっ? いや、そんな――」

「食べる!」


 ふんふんと鼻息を鳴らしながら、イリーシャが元気よく挙手。


「だっはっはっ! いいぞ、嬢ちゃん! そうこなくっちゃよ!」


 豪快に笑い飛ばすアルムを見て、ドミニクとアンジェはやれやれと肩をすくめ、食事の誘いを受けたのだった。

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