第18話 ドミニクの悩み

 アルムとその弟子のトミーと食事をする中で、ドミニクは自身の冒険者生活を振り返っていた。

 と言っても、それほど語ることがあるわけじゃない。 

 採集クエストを繰り返し、冒険者でありながらも安全な道を進んでいた。そんなドミニクには、アルムの語る冒険者としての経験談が眩しく思えた。


「…………」

「どうかしましたか、ドミニク」


 浮かない顔をしていたドミニクを心配して、アンジェが声をかけた。いつもなら「なんでもない」と誤魔化すところだが、


「いや、アルムさんの話を聞いていると、俺は冒険者としてまだまだなんだなって思って」


 自信を失ったことも手伝ってか、自然と本音が漏れた。


「ははは、そりゃそうだろう。おまえとワシじゃキャリアが違う。ワシがおまえさんくらいの時は、その日の飯代さえろくずっぽ稼げない能無しだった」

「! そうなんですか!?」


 今の豪快なアルムからは想像もできなかった。


「何事も経験よ。失敗は多くのことを教えてくれる……失敗から学べばいいんだ。そうすればそのうちいろんなことができるようになる」

「アルムさん……」


 アルムからの言葉を受けたドミニクは奮い立つ。

 今でこそ、霊竜エヴァの力を借りてモンスターを倒しているが、それはきっと孫のイリーシャの両親捜しをしているということで協力を得られている。

 もし、イリーシャの両親の所在がハッキリとすれば、きっと霊竜エヴァの持つ強大な力は離れていくだろう。


 そうなった時、自分は再び冒険者として再起できるのか。

 あの力がなくなったら、以前よりも弱体化していないか。


 ドミニクの頭にはその懸念があった。

 それでも、今のアルムとの会話で、その懸念はほとんど解消した。


「……まあ、マイペースに行きますよ」

「それでいい」


 冒険者としての心得――と呼ぶには大袈裟かもしれないが、少なくともドミニクのこれからに大きな影響を与える出会いであったのは間違いなかった。


  ◇◇◇


 アルムとトミーに別れを告げたドミニクたちはギルドへと戻ってきていた。


「結局、アルムさんたちと話をしていただけで、報酬は得られなかったなぁ……」

「しょうがないですよ。その分、イリーシャのご両親について、新しい情報が手に入ったじゃないですか」

「そりゃそうだけど……」


 次の目的地は北のダンジョン。

 そこを活動の部隊としている冒険者パーティー・《銀狐》と接触し、次にイリーシャの両親がどこへ向かったのか、その情報を得なければならない。


「そこまではなんとかなりそうだけど……向こうに着いたら情報収集も兼ねてまずダンジョンいかないとまずいな」

「ですねぇ」

「まあ、そう暗く考えるな! なんとかなるじゃろ!」


 資金のやりくりに唸るふたりを見て、エヴァがお気楽な発言。

 

「討伐クエストとやらはモンスターを蹴散らせばよいのじゃろう? ワシの力をドミニクが使えば大概のヤツはイチコロじゃ」

「それは自覚しているんですけどねぇ」

「それならば存分にワシの力を使うといいぞ」


 鼻を鳴らし、胸を張るエヴァ。

 ドミニクとアンジェは思わず笑ってしまう。


「ありがとうございます、エヴァさん」

「なんの。それより、ワシの可愛い孫娘がそろそろおねむの時間のようじゃ」

「おっと、通りで静かだと思った」


 目がトロンとして今にも眠ってしまいそうなイリーシャを、ドミニクはおんぶして運ぶことに。


「あのまま歩かせておくと転びそうだったしね」

「すまんのぅ」

「ふふ、そうしていると、本当の親子みたいですね」

「親子か……せめて兄妹にはならないかなぁ」


 そんな会話を繰り広げながら、ドミニクたちは宿屋へと戻っていった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る