第16話 初めてのダンジョン

 イリーシャの両親と親交が深かった冒険者のアルムから話を聞くため、ドミニクたちはダンジョンへと向かう。


 ソリアン地方には全部で五つのダンジョンが確認されているが、ここにあるダンジョンはその中でもっとも規模が小さいとされている。


「見つけるのにそれほど時間はかからないと思うな」

「それほど大きくないって話だしね」


 すでに何度もダンジョンを訪れた経験のあるドミニクとアンジェはいつもと変わらない様子だったが、これが初めてのダンジョンとなるイリーシャとエヴァは興奮気味だった。


「いやぁ、実に楽しみじゃのぅ」

「うん!」


 まるでリゾート地にでも行くかのように浮かれるふたり。


「いや、そんないいところじゃないですよ?」

「分かっておる。しかしのぅ……楽しみじゃ♪」

「楽しみ♪」


 ドミニクが促すも、エヴァとイリーシャの浮かれぶりは止まらない。

 そうこうしているうちに、ダンジョンの入口へと到着。

 周囲にはこれからダンジョンへ挑むと思われる冒険者たちが、準備やミーティングなどで集まり、賑わいを見せていた。

 すると、彼らの視線がドミニクたちに注がれる。


「おいおい、女と子連れで来ているヤツがいるぜ?」

「へへへ、ピクニック気分か?」

「せいぜいモンスターに食われないよう気をつけることだな」


 大体そんな反応だが、これは仕方がないことだとドミニクは想っていた。もし、仮に自分が彼らの立場だったなら、「なんだ、あのパーティーは!?」という反応になるだろうと思っている。


 だが、実際の戦闘力は相当なものだ。

 ドミニクは霊竜エヴァを憑依させることで強化され、竜人とエルフのハーフであるイリーシャも文句なく強い。


 だから、周囲の目は気にせず、そのままダンジョンへと入っていった。


「ほうほう、ここがダンジョンとやらか……なかなかいい雰囲気ではないか」


 ダンジョンへ入るなり、その空気を気に入ったエヴァから喜びの声が漏れる。


「さて、とりあえず奥を目指して進むか」

「そうね」


 ドミニクたちはアルムがいるとされるダンジョン最奥部へ向けて進む。

 その途中で、


「うわああああああああ!」


 突如、男の叫び声が轟く。


「出たか」

「モンスターじゃな!」

「え、えぇ、たぶん」

 

 興奮度が最高値に達したエヴァは早口でまくし立てる。

 声のした方へ視線を移動させると、そこには三匹のオオカミ型モンスターに襲われて逃げ惑う冒険者たちの姿があった。


「ブラック・ウルフか……厄介な敵だな」

「強いのか?」

「素早い上に、牙には猛毒があるんです。相当な実力者でない限り、戦闘は避けた方がいいですね。たぶん、このダンジョンの中でも最上位に位置するモンスターですよ」


 本来、ドミニク(生身)レベルでは絶対に戦ってはいけない相手。

 しかし、今はこれまでと状況が違う。


「よし、ドミニクよ――派手に暴れてやろうではないか」

「まあ、このまま放っておくわけにもいきませんしね」


 詐欺師ペドロを捕まえた時のように、霊竜エヴァがドミニクに憑依。

 霊竜としての魔力を自在に操れるようになったドミニクは剣を手にするとブラック・ウルフの前に立ちはだかった。


「お、おい! よせ! 殺されるぞ!」


 逃げていた冒険者のひとりが忠告するも間に合わず。

 

「ガアッ!」


 ブラック・ウルフが一斉にドミニクへと飛びかかる。

 冒険者たちは目を背けたが、勝利を確信しているアンジェやイリーシャは動じない――結果はふたりの想定通りとなった。


「でやあっ!」


 強力な魔力を帯びた斬撃。

 その威力は凄まじく、一振りですべてのブラック・ウルフを蹴散らした。


「「「何ぃっ!?」」」


 強敵とされるブラック・ウルフと軽々と倒したドミニクに、冒険者たちは驚愕。

 とりあえず、これからは真っ当な冒険者パーティーとして見られることにホッとするドミニクであったが、まずはやるべきことがある。


「あ、あの」

「! な、なんでしょうか」


 命を助けられた冒険者たちは背筋をピシッと伸ばして答える。


「アルムという冒険者を捜しているんだけど……どこにいるか知らない?」

「はっ! お答えします!」

「…………」


 冒険者たちの対応を見て、真っ当冒険者どころか、変な方向に進み始めているのではないかと少し不安になるドミニクだった。

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