第14話 遠征

※次回より少し更新速度が落ちます。





 イリーシャの両親を描いた絵に隠されていたヒント。

 偶然にも、それを発見したドミニクたちは、最初の目的地をソリアン地方に決め、遠征に出る準備を始める。


「ソリアン地方へ行くなら泊まりになるわね」

「ああ。それも、いろいろと調べて回るなら長期的ってことになる」


 そうなってくると、問題なのは旅費だ。

 向こうでもダンジョンやクエストはあるので、仕事自体には困らないだろう。それに、両親が冒険者をしていたなら、ダンジョンに潜っている他の冒険者たちに情報を求めてもいい。まさに一石二鳥だった。


  ◇◇◇


 翌日。


 遠征用の荷物をランドに乗せて、出発準備は完了――と、思いきや、まだやるべきことが残っていた。


「エヴァさん」

「任せるがいい」


 ドミニクがエヴァにお願いしたのは、家を守るための結界魔法。これを張っておけば、不法侵入される心配もない。おまけにその相手が霊竜となれば、防御力はきっと相当なものになるだろう。


 一度、エヴァを憑依させてペドロたちを追い払ったドミニクには、その魔力が持つ強大さを文字通り身をもって理解している。


「ねぇ、アンジェ」

「何、イリーシャ」

「ソリアン地方ってどれくらい遠いの?」

「そうねぇ……大体丸一日はかかるかしらね」

「なんじゃ。思ったよりもずっと短いのぅ。一年くらいはかかると思っておったが」

「さすがにそれはないですよ」


 寿命の長い竜人との感覚の違いに、ドミニクは思わず苦笑い。

 気を取り直し、ドミニクたちは結界を確認し終えるとソリアン地方へと旅立った。




 道中、ドミニクとアンジェはエヴァから息子である竜人ギデオンについて話を聞いた。

 何かと喧嘩の多かった親子らしく、言い争いは絶えなかったという。

 その主な原因はギデオンの夢にあった。

 ギデオンは閉鎖的な文化を持つ竜人の生活に飽き飽きしており、冒険者として暮らすことに強い憧れを抱いていた。

 竜人である自分たちがそのような生活を送れるわけがない。

 当時、そう考えていたエヴァはギデオンの考えを真っ向から否定し、ふたりはよく衝突していたのだ。


「しかし、ギデオンがいなくなってから、少し考えが変わった。他種族との交流も、悪くないと思えるようになったのじゃ。まあ、決定的にそう思うようになったのは、お主たちと過ごしてからじゃがな」

「そ、そうだったんですね」


 孫娘であるイリーシャのための両親捜し。

 だが、ギデオンを捜しだすことは、母のエヴァにとっても大きな意味を持つ。きっと、再会して謝りたいと思っているのではないか、とドミニクは想像していた。


 途中、景色のいい小高い丘の上で昼食をとり、さらに進む。

 渓谷を越えて橋を渡り、林道を抜けたらいよいよ目的地のソリアン地方へと入る。

 その頃には、すでに周囲が薄暗くなり始めていた。


「うーん……町へ行っても、宿の確保は難しいかな」

「じゃあ、今日はここでキャンプね」

「それしかないな。ランドの荷物からテントをおろすよ」


 これもまた想定内。

 ドミニクは簡易テントふたつを手際よく設置し、その間、アンジェはイリーシャと共に料理を作る。


「じゃあ、アンジェは野菜を切ってくれる?」

「任せて」


 ふたりは協力して料理を作りあげていく。

 メニューはふかしたイモとスープ、それに干し肉という組み合わせだ。


「おーい、テントできたぞー」

「こっちもできたわ」

「完成……」


 夕食の準備も整ったところで、早速いただくことに。


「それにしても長い移動だったなぁ……明日の朝が怖いよ」

「さすがに筋肉痛が酷そうね」


 人間であるドミニクとアンジェは肉体が悲鳴をあげるだろうと戦々恐々。

 だが、人間よりもずっと高いスペックを持つ竜人とエルフのハーフであるイリーシャに疲労の色はまったくない。なんだったら、夜通し歩き続けても息ひとつ乱さないだろう。


「すまないな、イリーシャ」

「ごめんなさいね、私たちがもっと動ければいいんだけど……」

「そんなことな」


 体力がないことを謝るドミニクとアンジェであったが、謝られた方のイリーシャは気にしていないようだ。


「みんなとこうしているのも楽しい」


 干し肉を挟んだパンを食べながら、イリーシャは嬉しそうに言う。

 その言葉を受けたふたりは、俄然ヤル気をみなぎらせるのだった。

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