第13話 旅立ちの日

 夕食後、ドミニクたちは談笑を楽しんで就寝。

 これから自室として扱う部屋の広さは、これまで住んでいた家よりもずっと広かった。


「これまでの生活空間が一部屋に負けるか……」


 その事実を知った時、もはや苦笑いしか浮かんでこなかった。


  ◇◇◇


 翌朝。


「う~ん……朝か」


 広い部屋に大きなベッドで寝たためか、非常に目覚めがよかった。

 着替えを終えて廊下に出ると、キッチンを目指す。そこではすでにアンジェとイリーシャが朝食の支度をしていた。


「おはよう。早いね、ふたりとも」

「おはよう……」

「おはよう。って、ドミニクが遅いんですよ」


 と言いつつも、ドミニクの分の朝食も用意してくれているアンジェ。今朝のメニューはサンドウィッチのようだ。

 霊竜エヴァも合流し、サンドウィッチを頬張りながら今日の動きを再確認する。


「とりあえず、まずはギルドで聞き込みをしていこう」

「両親が冒険者なら、誰か知っているかもしれないものね」


 冒険者を生業としているなら、ギルドとの関係は必要不可欠。

 おまけに竜人とエルフのカップルというとてつもなく目立つ組み合わせと来ている。

 なので、各地のギルドを訪ねてあの絵を見せれば、きっとすぐに情報は集まるだろうとふたりは考えていた。


「そう簡単に見つかるかのぅ」


 一方、イリーシャの祖母である霊竜エヴァは心配な様子。


「大丈夫ですよ。きっとすぐに見つかりますって」

「そうですよ。意外とこの町のギルドで有力な情報をゲットできたりして」


 楽観的なドミニクとアンジェ。

 ――が、ふたりはすぐにこの時の態度を改めることとなる。


  ◇◇◇


 ジョネスの町――冒険者ギルド。


「うーん……知らんな」

「見たことねぇな」

「すまない。心当たりがないよ」

「他を当たんな」


 まさかの手掛かりゼロだった。


「かれこれ三十人くらいに聞いたけど……誰も知らないとは」

「もしかしたら、この大陸以外のギルドだったりして」

「それだと長旅になるな……」


 頭の片隅には置いていた可能性。

 しかし、いざそこまで遠出となるとかなりの覚悟がいる。


 ――だが、


「…………」


 落ち込むイリーシャの顔を見ていると、そうも言っていられない。

 

「……とにかく、近くの町のギルドから当たっていこう」

「それがいいわね」

「苦労をかけるのぅ」


 周囲の目には映らない霊体状態のエヴァがふたりへ声をかけた。


「問題ないですよ。長距離移動ならランドの出番ですし」

「そのランド……イリーシャはすっかり気に入ったみたいね」


 アンジェが言うと、全員の視線が同行しているランドへと向けられる。そのランドの背にはイリーシャがチョコンと座っていた。


「まるでお人形さんみたいね~」


 イリーシャの頭を撫でながら、アンジェが言う。イリーシャも悪い気はしていないようで、嫌がる素振りを見せず、目を細めて受け入れていた。

 アンジェはすっかりイリーシャのお姉さん気取りだ。


 全員のモチベーションが回復したところで、ドミニクたちはジュネスの町を出て次の目的地を目指す。

 歩くこと約三十分。

 たどり着いたのはジュネスよりも小さな《オルイ村》という場所。

 ここを選んだのには訳があった。

 周囲が森に囲まれたここは、山菜などの採集クエストがメインで行われている。冒険者の中には戦闘を避け、採集クエストを中心に稼ぐ者もいるため、もしかしたら、この絵の背景である森に心当たりがある者もいるかもしれない。


 そんな期待を抱いてギルドへと向かう。

 ギルド――というよりは村の寄り合い所という感じで、ジョネスの町みたく「いかにも」という風貌の冒険者はいなかった。


「あぁ……ちょっと失敗だったかな」

「ま、まあ、ダメ元で聞いてみれば?」


 アンジェに言われて、ドミニクは一番近くにいたおじいさんへ声をかける。


「すいません。ちょっといいですか?」

「あえ? なんだって?」

「ちょっと聞きたいことがあるのですが」

「あぁ……今晩は魚かぁ!」

「…………」


 ダメだ。

 会話が成り立たない。

 と、その時、


「あらあら、ごめんなさいねぇ」


 ひとりのおばちゃんが乱入してきた。


「おふたりとも冒険者?」

「え、えぇ」

「残念だけど、ここにはあなたたちが得意にするようなクエストはないのよ」

「い、いえ、俺たちはこの人たちの情報を求めて来たんです」


 この人なら話が通じると思ったドミニクは絵を見せる。が、


「ごめんなさい、心当たりはないわ」


 残念ながら空振りに終わった――と、思っていたら、


「でも、この絵……ソリアン地方で描かれたみたいね」

「えっ!? なんで分かるんですか!?」

「背景にある花よ」


 おばちゃんが指差したのは特徴的な形状の花びらだった。


「これってね、ソリアン地方にしか咲かない花と言われているの。見た感じ、どこかの庭園というわけじゃなくて自生しているみたいだから、そうじゃないかなって」


 これは大きなヒントだ。


「ソリアン地方か……」


 こうして、ドミニクたちの次の目的地が決まったのだった。

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