第12話 出発前夜
屋敷に隠されていた謎のお宝の山。
その正体が分からない以上、手をつけるのは避けた方がいいと判断したドミニクは、アンジェにもその旨を伝える。これに関してアンジェは、
「まあ、それが無難ね」
と、理解を示した。
その日は結局いろいろな準備に追われて一日が終了。
とりあえず、生活に必要な寝室やキッチンなどは使える状態にあったため、掃除などは不要だったのは助かった。今後の方針を固めつつ、ドミニクたちは夕食を取ることに。
「よっと」
料理担当はアンジェ。
炎が出る魔鉱石の上で、フライパンを華麗に操る。
「上手……」
「慣れた手つきじゃのぅ」
その様子を興味深げに眺めるイリーシャとエヴァ。
「あの……集中できないからあっちで待っていてもらえます?」
「む? そうなのか? 仕方あるまい。向こうで待つとするかのぅ」
「残念……」
トボトボとドミニクの座っているイスへ歩いてくるふたり。
「じゃ、じゃあ、こっちは食卓の準備をしようか」
「しょくたくのじゅんび?」
イリーシャが可愛らしく首を傾げる。
「食器を出したり、テーブルを拭いたり、ね?」
「分かった。頑張る」
フンス、と鼻を鳴らして食器棚へと駆けていくイリーシャ。当初は少し壁を作っているようにも見られたが、今やその頃のぎこちなさは消え去り、ドミニクとアンジェにとても懐いている。
「お主たちといることは、あの子にとって好影響のようじゃな」
祖母であるエヴァも、明るくなってきたイリーシャの姿に頬を緩めていた。それから、ドミニクとイリーシャのふたりで食卓の用意をしていると、
「できたわよ~」
料理が盛られた大皿を持って、アンジェがキッチンから出てくる。
「それはなんという料理じゃ?」
「うーん、これは私オリジナルの料理だから……名付けて、《肉と野菜の炒め物》! って、ところかしら」
「そのまんまのネーミングだなぁ」
「何か不満でも?」
「い、いや、不満なんてとんでもない! いい匂いがしているし、早く食べたいよ!」
「もう……」
アンジェは頬を膨らませながらも、料理をテーブルへと置く。
途端に、食欲をそそる匂いが部屋いっぱいに広がった。
それからは楽しいディナータイム――と、なるはずだったが、イリーシャがまったくテーブルマナーを知らず、料理を手づかみで食べ始めてしまったのでドミニクとアンジェは大慌てで止める。霊竜エヴァは人間の食事におけるマナーを知っていなかったため、教えることができなかったのだ。
「ふーむ、人間とは厄介な生き物じゃなぁ」
「食べづらい……」
「これから何かと人前に出ることが増えるからね。今のうちからしっかりマスターしておかないと」
「そうよ、イリーシャ」
ドミニクとアンジェに諭されて、イリーシャはフォークとナイフを使って食事をする。
最初こそぎこちなかったが、段々と使い方を覚え、十分も経つ頃にはもう違和感なく使いこなしているようだった。
「の、呑み込みが早いなぁ」
「まあ、ワシの孫じゃからな」
自慢げな祖母エヴァ。
この辺は孫を溺愛する人間のお婆ちゃんと変わらない。
一方、孫娘イリーシャはもくもくと一心不乱に食べ続ける。
「よっぽどお腹が空いていたみたいね」
アンジェがクスッと笑うと、それまで忙しなく動いていたイリーシャの手が止まる。
「ご飯がおいしいのはもちろんだけど……たくさんの人と食べるのは初めてだったから……」
「「あっ……」」
知らず知らずのうちに、イリーシャの触れてはいけない部分に触れていた。
ふたりは一瞬押し黙るも、このままではいけないと努めて明るく振る舞った。
「じゃあ、これからは俺たちと一緒にご飯を食べような、イリーシャ」
「いいの?」
「もちろんよ。ね? エヴァさん」
「むしろワシからお願いしたいくらいじゃよ」
「なら、決まりだ」
こうして、この家での最初のルールが決まった。
《食事はみんなで楽しくとる》
これはしっかり守っていこうと誓うドミニクとアンジェだった。
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