第11話 屋敷探索

 詐欺師ペドロを自警団へ引き渡した後、ドミニクたちは旅支度を整えて再び屋敷へと戻ってきた。

 その際、ドミニクは虹魔鉱石はよく似た外見の偽物も多いことを知らせる。ドミニクが発見したのはどうもそっちのようだった。偽物の存在を知らずに大騒ぎしたものだから、ペドロも騙されたというわけだ


 アンジェがお昼寝中のイリーシャを起こすのに四苦八苦している中、ドミニクはエヴァに旅の目的絡みでの確認を行っていた。


「イリーシャの両親を捜すってことですけど、何か手掛かりは?」

「ない」


 清々しいまでの即答だった。


「……それじゃあ捜しようがないじゃないですか」

「しいて言うならテーブルの上にある絵じゃな」


 やはりか、と思いつつ、ドミニクは絵を手に取った。

 森の中で仲睦まじく微笑み合うふたりの男女。

 ひとりは竜人でひとりはエルフ。

 見慣れないカップリングではあるが、ふたりともとても幸せそうに微笑んでいる。


「……夫婦仲は良好のようですね」

「その頃は、な」

「不穏なこと言わないでくださいよ……」


 とりあえず、これをいろんな人に見せて情報を集めるところから始めよう。ドミニクは絵をカバンにしまうと、手持ちの武器やアイテムを確認する。その様子を眺めていたエヴァが口を開いた。


「武器やアイテムなら、この屋敷にもあるぞ」

「えっ? そうなんですか?」

「地下室に腐るほどあったのぅ。ほれ、こっちじゃ」


 この屋敷に地下室があるというのは初耳だった。

 しかし、そこに武器やアイテムがあるというなら有効活用させてもらうつもりでいる。何せドミニクは万年貧乏の底辺冒険者。タダで手に入るならなんでも利用したい懐事情があったのだ。


 エヴァの案内で訪れたのは長い廊下の途中にある壁の前。


「ここじゃ」

「いや、『ここじゃ』って……ただの壁じゃないですか」

「仕掛け扉じゃよ。そこにあるランプを押し込んでみるがいい」

「どれどれ――わっ!」


 エヴァの言った通り、それはランプを押し込むことで壁が引きさがり、奥にある扉が姿を見せる仕掛けとなっていた。


「こ、こんな扉が……」

「前の家主の趣味か知らんが、割とこういう部屋が多いんじゃよ、この屋敷は」

「へ、へぇ……」


 思えば、この屋敷も立地条件含めかなり謎が多い。

 ギルドなどで屋敷の情報を集めれば、何か手掛かりが得られるかもしれないとドミニクは思った。


「この階段をおりた先にアイテムが保管されておる」

「わ、分かりました」


 昼間だというのに薄暗い地下室。

 どこからか、ピチャピチャと水の滴る音が聞こえる。


「ここだな……」


 ようやくそれらしい部屋にたどり着き、中を確認してみると、


「うおっ!?」


 思わず驚きの声をあげ、一歩後退。

 そこには、ドミニクの想像を超えた宝の山が待っていた。


「な、なんなんだこの部屋は……どれもこれも入手難度AからSクラスの超お宝ばかりじゃないか」

「そうなのか? ワシにはいまいち価値は分からぬが……なんとなくお主の役に立ちそうというのは伝わるな」

「役に立つなんてレベルじゃないですよ……」


 ここにあるアイテムをすべて売り払えば、それだけで本物の虹魔鉱石の売却価格を余裕で上回れそうだ。

 

 ――だが、


「……ここのアイテムや武器を使うのは、少しためらわれますね」

「なぜじゃ? どれも貴重な物なんじゃろう?」

「でもこれ、ひとつひとつを大切にガラスケースへしまって保管してあります。すでに効果は切れていますが、魔力のついた護符まで貼られて、厳重に守られていたみたいです。主がいなくなってどれくらいたったか分かりませんが……少なくとも、とても大事にしていたんだなっていうのは伝わります」


 ただのコレクション――と、呼ぶには愛情が深い気がする。

 どういう意図をもってアイテムたちを大切に保管していたのか、その点についても、調べてみる価値はありそうだ。


「なら、ここのアイテムは使わんのか?」

「とりあえず、前の主人がどんな意図をもって保管したのか分かるまでは、そのままにしておこうと思います。もしかしたらまだ存命で、何かしらの理由で否応なく手放さなくなってしまったって事情があるなら、このアイテムだけでもお返ししたいなと思って」

「お人好しじゃなぁ、お主は。それでよく冒険者が務まるのぅ」

「あんまり務まっていないのが現状ですけどね」


 ドミニクは苦笑いを浮かべる。

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