第10話 霊竜の力

 ペドロの配下が放った強烈な一撃。

 さっきは軽々と吹き飛ばされたドミニクであったが、今度はそれを難なく受け止めた。


「何っ!?」


 さっきとはまるで違うドミニクの姿に、男たちだけでなくアンジェ、さらにドミニク自身でさえ驚きの表情を浮かべていた。


「ほれ、次にやることはなんじゃ?」


 頭の中へ直接語られているような感覚――その声はエヴァのものだった。

 次にやること。

 そう問われたドミニクは、拳を受け止めている手に力を込める。


「ぐわっ!?」


 途端に、男は苦悶の表情を浮かべた。

 押している。

 そう確信したドミニクは腕を振って男を吹っ飛ばした。


「くっ! 何をしているのですか! さっさとその男を捕えなさい!」


 ペドロが声を上ずらせながら指示を飛ばす。

 それを受けた男たちは一斉にドミニクへと襲い掛かった。

 多勢に無勢。 

 ひとりを相手にするのでさえやっとの実力だったドミニク――だが、霊竜エヴァと一体になった今は、たとえ何人来ようが負ける気は一切しなかった。それくらい、強大な力が体の底から溢れ出ているのを感じているのだ。


「はあっ!」


 迫り来る男たちを剣技でなぎ倒していくドミニク。さらに、


「こいつを使ってみてはどうじゃ?」


 エヴァの言葉が何を意味しているのか、すぐに分かった。

 これまで一度も使ったことがないアレをやってみろと言うのだ。


「やるぞ……」


 意識を集中し、全身をまとうそれを具現化するイメージを固めていく。

 やがて、ドミニクの剣に大きな変化が表れた。


「な、なんだ!? ヤツの剣が炎に包まれていく!?」


 ドミニクを囲むひとりの男が叫ぶ。

 この想定外すぎる事態に、それまで飄々としていたペドロもとうとう本格的に焦りだしていた。


「バカな!? なぜヤツが魔法を使える!? 魔力も乏しいし、何より魔法を扱う技術など皆無のはずだ!」


 事前にドミニクがどういう冒険者なのか調査済みのペドロにとって、起きてはならない事態が発生した形になる。

 一方、ドミニク自身も己の身に起きている事態に驚きを隠せなかった。


「これは一体……」

「お主にはイリーシャの両親捜しをしてもらなくてはいかんからのぅ。ほんのちょっとじゃが力を貸してやる」

「ほんのちょっと……?」


「ほんのちょっと」で片づけていい魔力ではないのだが、ここはエヴァの言葉に甘えようとドミニクは剣を構え直す。


「黒焦げになりたくなかったらアンジェを放すんだ」

「むぐっ!?」


 先ほどの力を目の当たりにしている男は怯む。


「何をしている! いけ! 高い金を払って雇っているんだ、しっかりと働かないか! それとも契約違反で訴えられたいのか!」


 しかし、雇い主であるペドロはそれを許さない。男たちも、ペドロが本気で訴えるつもりでいるのは理解しているが、


「じょ、冗談じゃねぇ……」


 それでも命は惜しい。

 目の前の男から放たれる異様な魔力。

 それを肌で感じた男たちの戦意はすっかり消え去っていた。


「わ、悪いが、今回の仕事は下りるぜ!」

「お、俺もだ!」

「俺も!」


 次から次に武器を捨てて逃げだす男たち。

 ペドロは引きとめようとするが、誰もその言葉に耳を傾けなかった。

 そして、とうとうペドロ以外に誰もいなくなってしまう。


「さあ、どうする?」


 アンジェとランドを自分の背後に回し、剣先をペドロへと向ける。あとがなくなったペドロは逃走を図るが、

 

「ドミニク!」

「はい!」


 ドミニクは再び魔力を剣へ込める。

 すると、燃え盛っていた炎は光のロープへと姿を変え、ペドロを縛り上げる。


「ぐっ!?」

「これで終わりだ、詐欺師ペドロ。おまえを町の自警団へ突き出す」


 恐らく、ペドロの慣れた手口からして被害者はドミニクだけではないだろう。追及をすれば余罪がたんまりと出てきそうだ。取り巻きを率いて好き勝手やって来たが、それも今日で終わりになる。


「ありがとう、ドミニク!」

「まあ、初陣にしては上出来じゃな」

「あ、いや、その……ま、まあ、みんな助かってよかったよ」


 褒められ慣れていないドミニクは大きく動揺する。

 同時に、霊竜エヴァの驚異的な力に驚かされるのだった。

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