第9話 対峙
「何しに来たんだ……?」
酒に酔い、意識が朦朧としているドミニクと屋敷の売買契約を結んだ男――ペドロ。
そのペドロが、大勢の仲間を率いてドミニクとアンジェの前に立ちはだかる。
ペドロは飄々とした態度で語り始めた。
「いえね。詐欺被害に遭ったので、その仕掛け人にキッチリ賠償していただこうかと」
「詐欺被害? 賠償?」
それはむしろこっちのセリフだ、とドミニクは思った。
一体、ペドロはなんの話をしているのだろう。
そう思った次の瞬間、ペドロは胸ポケットから取り出した物を地面へと叩きつけた。
「これが何か――分かりますよねぇ?」
丁寧な口調の中にハッキリとにじむ怒気。
ドミニクは視線を叩きつけられた物へ移し、驚く。
「それは……虹魔鉱石!?」
投げつけられたのはだまし取られた億を超える価値があるという虹魔鉱石であった。
「我々に偽の虹魔鉱石を掴ませるとはねぇ……」
「偽物?」
そんなまさか、とドミニクは虹魔鉱石を拾い上げるとカタログを広げた。どう見ても、そのカタログに載っている虹魔鉱石とまったく同じ物に見える。
「確かに外見はそっくりですがねぇ……中身が別物なんですよ」
「そ、そんな……」
「そういうわけでねぇ、我々としてはこの偽物を渡して屋敷をかすめ取ろうとした君を訴えるつもりでいるわけですよ」
「っ!?」
あまりの暴論に、ドミニクは言葉を失った。
そもそも、あの屋敷についても、ペドロたちが意識のないドミニクを相手に無理やり結んだものである。そのくせ、石が偽物と分かったら詐欺被害で訴えるというのだ。
「めちゃくちゃですよ!」
呆然としているドミニクを置いて、アンジェが抗議の声をあげる。
「おやおや、こちらは正当な主張をしているまでですが?」
「どこがですか! 酔ったドミニクを相手にだまし取るようなマネをして、しかもそれが偽物と分かったら訴えるなんて……何考えているんですか!」
「……ふぅ、理解していただけませんか」
ペドロがパチンと指を鳴らすと、背後にいた取り巻きの男たちの目の色が変わった。
まずい。
ドミニクは直感で事態が急転したことを悟り、剣を取る。
「言葉では理解していただけないようでしたので……体に教え込んであげましょう。幸い、あなたは実に教え甲斐のある体をしている」
「へへへ」
取り巻きのひとりが、アンジェの腕を乱暴に掴む。
「い、痛いです!」
「安心しろ。そのうち気持ちよくなるからよ」
「おい見ろよ! こっちにはデカい羊がいるぜ!」
「女だけでなく飯まで手に入るとはなぁ」
ランドは武器を持った男たちに囲まれて身動きが取れない状況に陥っていた。
下卑た笑みを浮かべる男たち。
そこへ、
「やめろ!」
剣を抜き、男へ向かっていくドミニク――が、
「失せな!」
渾身の一撃は難なくかわされ、逆に強烈なパンチを左頬に食らう。
「ぐあっ!?」
その場に倒れ込むドミニク。
側頭部に走る鈍痛。
それが引き起こす頭痛と目眩に足元がふらつく。それでもなんとか立ち上がって、再び剣を構えた。
「おお、タフだねぇ」
ドミニクを殴り倒した男はアンジェから手を離し、ドミニクへと近づいてくる。
その時だった。
「なんじゃ。お主弱いのぅ」
目の前を霊竜エヴァが通過する。
どうやら、ペドロたちには見えていないようだ。
「とっととこいつらを倒して町へ向かうぞ」
「それができたら苦労しませんよ」
「……そのようじゃな。うむ。仕方がない」
そう言うと、霊竜エヴァはドミニクへと近づき――その体がピッタリと重なり合った。
「なっ!?」
「ワシは霊体じゃからな。霊とは透けるのが相場であろう?」
「た、確かにそうですけど……」
「それに、こうなった方がお主にもメリットがある」
「メリット?」
「何をごちゃごちゃ言ってやがる」
野太い男の声に、ドミニクはハッとなる。
今はそれどころじゃなかった。
「こいつで大人しく眠ってな!」
男は力を込めた右ストレートを放つ。
それをドミニクは――
「っ!」
バシッと片手で受け止めた。
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