第7話 少女イリーシャの秘密

 詐欺に遭って購入してしまった謎の大豪邸。

 そこに住みついていたのは霊体となったドラゴンのエヴァと、その孫娘のイリーシャであった。


「くあぁ~……」


 お昼寝タイムに入ったイリーシャは大きなあくびをし、目じりに涙をためてアンジェの太ももに身を委ねていた。


「よほど気持ちのいい太ももなのじゃろう」

「そ、そうなんですか……」

「ドラゴンのワシにも分かる。お主の太もものムチムチ具合はクセになるじゃろうな」

「その言い方やめてくれます!?」

「…………」

「ドミニク! 何見ているんですか!」

「えっ!? あ、べ、別に……」


 咄嗟に視線をそらすドミニクだが、ついさっきまでそのムッチムチの太ももに目は釘付けだった。


 それがバレて、アンジェの視線が痛く突き刺さるため、ドミニクは話題をそらそうと「コホン」とわざとらしい咳払いを挟んでから語り始める。


「あの、エヴァさん」

「なんじゃ?」

「あそこで寝ているイリーシャは――何者ですか?」


 その問いに、エヴァは一瞬言葉に詰まる。

 ドミニクが聞こうとしていること――その本質が見えていたからだ。


「……さて、どこから――いや、どこまで話したものかのぅ」


 ニュアンスを微妙に変えて、困ったような声になるエヴァ。しばらく黙っていた後、ある一点を見つめだす。ドミニクとアンジェの視線もしぜんとそちらへと向けられた。

 そこはテーブルの上。 

 何やら一枚の絵が飾られているのだが、そこに描かれていた人物ふたりを目の当たりにしたドミニクが声をあげる。


「このふたり……人間じゃない」


 そう。

 ひとりは竜人と呼ばれる種族で、もうひとりはエルフだ。

 外見年齢は人間で言うところの二十代半ばほど。

 どこかの森で書かれたと思われるその一枚には――ふたりの子どもだと思われる赤ん坊も描かれていた。


「ま、まさか……ここに描かれている子どもって……」

「そこで眠っておるイリーシャじゃ」

「えっ!? 本当ですか!?」

 

 驚くも、膝でイリーシャが寝ているため動けないアンジェ。そのアンジェに変わって、ドミニクがテーブルの上に飾られている絵画を手にする。縦十五センチ、横十センチほどの紙に描かれているふたりはとても幸せそうな笑みを浮かべていた。

 竜人とエルフ。

 ふたりの間に生まれたイリーシャは、両親からその特徴を受け継いでいたのだ。


「……うん?」


 そこで、ドミニクは気づく。


「あの、エヴァさん」

「なんじゃ?」

「ここに描かれている人たちがイリーシャの両親だと言うなら……この竜人の男性はエヴァさんの――」

「バカ息子のギデオンじゃ」


 言い切る前に、エヴァが答える。


「正真正銘の大バカ野郎じゃよ、あやつは!」

 

 急にエヴァの態度が変わる。


「誇り高き竜人の一族に生まれながら、冒険者を目指すとか言って勝手に家を出て……挙句、エルフの嫁をもらってしかも勝手に孫まで作っておったとは!」


 親ならではの怒りが爆発する。

 どうやら、イリーシャのことでひと悶着あったようだ。


「じゃあ、イリーシャ父親の――ギデオンさんって、今はいないんですね?」

「うむ。嫁のヴェロニカと一緒に冒険者稼業をしておるよ。まったく、可愛い娘を置いてまで世界中をほっつき歩くなんて……ワシからすれば想像もできんことじゃ」

「ま、まあまあ」


 ご立腹のエヴァをなだめつつ、ドミニクは情報を収集。


「ひょっとして……霊竜としてこの地にとどまっているのも、イリーシャが心配だから?」

「お? なかなか鋭いのぅ、坊主」


 霊竜エヴァに褒められて、素直に喜ぶドミニク。

 と、その時、


「そういえば、お主たちの仕事はなんじゃ?」

「えっ? あ、ああ……息子さんの話をした後でなんですが、俺は冒険者です」

「私は冒険者に売る情報を集める仕事をしています」


 俺とアンジェは自分たちの仕事を竜人でも分かりやすいように告げた。


 特にドミニクは、エヴァの息子がやっている冒険者稼業なので、エヴァから反感を買うかもしれないと戦々恐々。だが、実際は理解を示してくれたようで、「そう心配するでない」と優しく声をかけてもらう。


「ひとつ……お主たちに頼みたいことがあるのじゃ」


 改まって、エヴァはドミニクとアンジェにそう切り出したのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る