第5話 潜むモノ
※次回より、ストック切れるまで毎日朝8:00に投稿していきます!
「お邪魔しまーす……って、ここはもう俺の家なんだから、そんなこと言わなくていいじゃないか」
「ごちゃごちゃ言っていないで早く入ってください」
玄関先でのひと悶着を終えて、ドミニクとアンジェは屋敷内を進んでいく。
そこで、またしても驚きの光景を目の当たりにした。
「あ、あの、ドミニク……ここってずっと無人だったんですよね?」
「ペドロって人からもらったメモによるとそうだね……」
ドミニクがズボンのポケットから取り出したペドロのメモ。それを見ると、確かに長年無人であったことが記載されていた。
だが、ふたりはとてもじゃないがその情報を信じることができなかった。
なぜなら、
「なら――どうしてこんなに綺麗なんですか……?」
埃ひとつ落ちていない床に、汚れのない窓。
長い廊下に等間隔で置かれた調度品の数々は、まるで博物館の展示品のようにピカピカだった。
明らかに、生活感がある。
長年放置されていたら、もっと荒れ果てているはずなのに、今も上流貴族が生活をしているような雰囲気で満ち溢れていた。
ある意味、幽霊とかが潜んでいそうな廃屋よりも怖い状況だ。ペドロからすれば、こんな不気味な物件はさっさと片づけてしまいたいと思ったのだろう。
「そのペドロという人は、あなたに人が住んでいる豪邸を売ったんじゃないのですか?」
「だったら鍵を持っているのは不自然だろう?」
「そ、それもそうですね」
だが、アンジェがそう疑ってしまうのは無理もないことだ、とドミニクは思った。それくらい、この豪邸は綺麗だったのだ。
恐る恐る廊下を進むふたり――と、ある部屋の前を通った時、
「うん?」
ドミニクの足が止まる。
「な、何ですか? 私を怖がらせて抱きつかせようとして足を止めたと――」
「違う! ……今、この部屋の中から物音がしたような……」
「はあ!? なんで私たち以外誰もいないはずなのに物音がするんですか!?」
「落ち着け。……誰かいるかもしれないってことだろ」
そう言うと、ドミニクは部屋のドアをゆっくりと開ける。あまりにも躊躇なく開けたものだから、アンジェは止める暇さえなかった。
極力物音を立てず、開けたドアの先へ視線を凝らす。
どうやらそこは応接室のようで、部屋の中心には向かい合うように大きなソファが設えられている。
そのソファが視界に飛び込んできた時、
「なっ!?」
ドミニクは思わず叫んだ。
原因は、ソファの上に横たわり、「くぅくぅ」と小さな寝息を立てて眠っている十歳前後の少女にあった。
「お、女の子!?」
「こんな森の奥にある屋敷に女の子がひとりで……?」
あり得ない状況に固まるドミニクとアンジェ。
すると、さらにあり得ないことが起きた。
「やれやれ、とうとう見つかってしまったか」
自分たちと少女以外には誰もいないはずの部屋に響き渡る老婆の声。
それは口から放たれている言葉というより、頭に直接語りかけられているような感覚であった。
そういったことから、ドミニクは自分だけにしか聞こえていないのではないかと思ったのだが、アンジェも似たような反応を示していたことから、お互いにこの謎の老婆の声が聞こえているのだと認識した。
「む? 思ったよりも取り乱さないのじゃな」
「ああー……えぇっと、どちら様ですか?」
「ここの家主じゃが?」
「「家主!?」」
姿なき家主の言葉に、ふたりが揃って大声をあげると、
「ふあぁ……?」
ソファで寝ていた女の子が目を覚まし、むくっと上体を起こした。その時、少女の姿を改めて見たドミニクは我が目を疑う。
女の子の頭には角が生えていた。
雄羊の角がごとく歪に曲がった角だ。
さらに、耳も普通の人間のものとは異なっている。
細長いその形状は、まるでエルフ族のようだ。
総合的に判断するなら、「角の生えたエルフ族」ということになるのだが、ドミニクもアンジェもそんなエルフが入るという話は聞いたことがなかった。
ふたりが呆然としていると、目をこすっていた少女と目が合う。
「? 誰?」
カクン、と首を傾げる少女。
果たして、その正体は――
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