後日談 心配性な人魚姫・上

 ──最近、恋人の様子がおかしいように思う。

 というのも付き合いはじめて早いところで数週間経ったある日からのことだ。僕と恵衣さんはそれまで、付き合う前のように毎日を過ごしていたのだけれど……。


「う、腕を組んでも、いい……?」


 と、恥ずかしそうに顔を真っ赤にして、そんな可愛らしいことを聞いてきたり。


「も、もっと近づいても、いい?」


 と、休み時間の短い間、肩が触れる距離で一緒にいたり。


「あ、あ~ん」


 と、お昼のお弁当を食べさせてくれたり。

 正直、可愛すぎて理性が持たない。何度か襲いかけたし、抑えるのも限界が近い。

 ──ということを、体育の少し空いた時間に武志と話したわけだけど。


「何その惚気。恋人のいない俺への当て付け?」

「いや単純に悩み、かな」

「そうか惚気か」


 一人納得した様子で頷く武志。とりあえず聞き耳を立てていた他の男子からも舌打ちされたとを明記しておく。


「でも本当にわからないんだよね。付き合い始めてから確かに距離は近くなったけど、あんなにグイグイくることは無かったんだ……というかグイグイこられるとヤバいって示してたし」

「お前の言い方が悪かったんじゃね?」


 ほら、お前の表現って癖が強いし。と笑いながら言われた。

 確かに先生方からもそういうことは言われるけど……そんなに分かりにくいのかなぁ?


■■■■


 放課後。今日も今日とて、僕は恵衣さんと共に帰路につく。

 寒さも和らいできたこの頃。恵衣さんと手を繋いで歩くと、本当に時間を忘れてしまう。もっと長く共にいたい、そう思うのは僕だけではなく、恵衣さんも同様であると最近知った。


「ひ、氷雨……くん、今日はお泊まりしても……い、いいですか?」


 いつもの別れ道。恵衣さんは強い意思を瞳に宿して言う。

 スキンシップが激しくなってきていたからか、はたまたいつかは来るかと覚悟をしていたためか、そこまでの驚きはない。それに交際のことは、恵衣さんの親御さんも、ウチの親も認めているモノだ。お泊まりの一つや二つくらいなら全然問題にはならないのだけれど、こうして律儀に聞いてくるところもまた愛おしい。


「恵衣さんならいつでも歓迎だよ」

「っっ……そ、そういうのは、心臓に悪い、です」


 恵衣さんは耳まで真っ赤にして抗議するけれど、微笑ましく可愛らしいその姿は、やはり威厳やそれに類するものはない。


「ごめんごめん。じゃあ、一緒に帰ろう」

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