第4話 王子様と魔女

 鹿葦津かあしつ高校の生徒には、『人魚姫』の他にも有名人がいる。実はその一人が僕だ。

 結構ツッコミ所が満載の異名も賜ってるんだけど……その異名こそが『魔女』。アンデルセン童話の『人魚姫』において、人魚姫から声を奪った者。

 確かに一時期『天草あまくさ氷雨ひさめ玲風たまかぜさんに声を出さないよう命令している』みたいな根も葉もない噂があったけれど……今もその噂の延長線上にいるのかもしれない。


「よ、氷雨」

「おはよう武志たけし


 そんな『噂』を気にしないのが、僕の親友の小鳥遊たかなし武志たけし。朝早くから学校に登校している運動部の一人で、『魔女』なんて呼ばれる僕の、同性唯一の友人。

 僕は本当に友人は少ないから、武志のような気を許せる友人は貴重であり、尊ぶべきものと思ってる。


「今日も玲風さんはお休みか」

「うん。まだ微熱があるみたいだから、様子見だけどね」

「そっか」


 先日の出来事を思い出し、苦笑してしまいそうになるのを抑える。いつものように上履きに履き替えた武志と並んで、僕は教室へと向かう。

 僕に挨拶する前に買っていたのであろう温かい飲み物を両手で包みながら、武志は聞いてくる。


「そういや今日も入ってたのか?」

「やる側は飽きないのかなーって思うけどね」


 入ってたよ。そう言って武志に見せるのは、先ほど僕の下駄箱に入っていたラブレター……ではなく、罵詈雑言の書かれた手紙。

 内容自体はありふれたモノで、面白味は皆無。書いてあることも毎日同じであるため、送られてくるようになってきて一週間もした頃からは、一応中身を確認してゴミ箱へ捨てている。

 ユーモアの欠片もないし、はっきり言うと『つまらない』手紙だからね。


「今日も同じ内容だよ。『魔女は邪魔』だっけ?」

「覚えてないんかい」

「最近は流し読みだからね」


 だって、ユーモアの欠片もない、はっきり言ってつまらないような手紙だよ? 読む気などあるわけがない。内容とて僕を貶すようなものだし、読むのは気が狂った人間くらいだ。


「それに、僕が『魔女』っていうのもおかしいし」

「あー、まあ確かに」


 武志は曖昧に返事をする。

 彼は僕と同じ中学に通っていた。だからこそ、彼は知っている。

 思い出すのも嫌になるような胸糞悪い事を、知っている。

 だから、僕はいつも思う。


 ──魔女は君たちだろう? って。

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