第3話 空の精霊と人魚姫

 ──告白。その行為に、僕はどれほどの勇気が必要なのかわからない。けれどわかるのは、僕が彼女……『人魚姫』玲風恵衣さんに告白されて、その告白を無下に、断るとも頷くともせずに、保留したことだけ。

 そして──


「え? 風邪ですか……はい。わかりました」


 玲風さんが、風邪を引いたことだ。



■■■■


 幸いにも、大事には至らなかったようだ。病院にも連れていったようで、結果は風邪。医師からは『体調を崩しやすい時期だから──』とのことらしい。

 そのことを玲風さんのお母さんから聞いて、僕は玲風さんの部屋の前……。

 ちょっとだけ、来たことに後悔はある。あんなことがあったばかりだから、顔を合わせるのは気まずい。けれどここでこうして葛藤しているのも、怪しまれるに違いない。

 僕は意を決して玲風さんの部屋を四回ノックする。


「玲風さん。起きてる? 天草です」


 反応あった。僕の名前を出したら、ガタンッと、倒れるような音がした。心配になった僕は、断りも入れずに扉を開ける。あんまり良いことではないけれど、何かあったら大変だから。


「玲風さん大丈夫?」

「……ぁ」


 カーテンが閉められた暗い部屋の中。部屋の主である玲風さんはベッドにもたれ掛かる様子で、カーペットに座っていた。


「天草くん……」

「お邪魔してます。玲風さん……風邪、平気?」

「……っ!」


 僕が近づくと、玲風さんは猫のように素早い身のこなしでベッドの隅へと逃げる。


「取って食おうなんてしないから、安心して? 今日はプリントと──」


 異常に警戒心の高い玲風さんに、僕は預かっていたプリント類。特に授業で使う、扱っていくプリントを部屋の真ん中にあるローテーブルに置いておく。


「課題プリントが主で、配布物はこれといってなかったよ」

「ぁ……あり、がと……」


 あんまり長居も良くないだろう。僕は鞄を持って立ち上がる。


「玲風さん。昨日はチョコありがとうね。とても美味しかった」

「……うん、よかった……」


 驚きながらも玲風さんはどこか安堵した表情をしている。

 ……それに、何故か罪悪感も、感じてしまう。


「告白の返事は……ホワイトデーまで、待ってて、くれませんか? その時に、答えるからさ」

「……うん」


 僕は自分の優柔不断さに苦笑しながら、玲風さんの部屋から出る。

 またね。そう言おうと振り返ると、目の前に玲風さんがいた。


「ち、ちょっとだけ……いいですか??」


 困惑している僕にそう断って、玲風さんは抱きついてくる。


「待ってるね。


 そう言う彼女は、笑いながら泣いていて、僕は罪悪感を禁じ得なかった。

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