第2話 ユニガン風邪
~ 王都 ユニガン ~
ミグランス王のお膝元、国立劇場も所有するミグレイナ大陸で一番華やかで活気に満ち溢れている王都、ユニガン。
ミグランス城が燃え落ちた時も、幾度とない魔獣やオーガと戦い時でさえ、消えることのかなった住民たちの熱い活気が、今はどこに消えてしまったのか、どんよりとこの曇り空のように、街も静かに暗い影だけを落としている。
「お兄ちゃん……」
たまにすれ違う人も、うつむき加減にアルドたちと目を合わせようともせずに、早足に家路を急いでいる。
その不気味な雰囲気にフィーネがアルドの裾をギュっと掴む。
「いつもと様子が違いすぎるわね」
エイミが顔をしかめる。
「見るでござる、あそこだけ人だかりができてるでござるよ」
サイラスの指の先に確かにそこだけ人が集まっている。
「行ってみようお兄ちゃん、どうしてだかわかるかも」
「あぁ」
それは人の列だった、何人かの兵士が、住人たちを誘導して列に順番に並ばしている、その列は赤い十字架模様のかかれた白いテントの中に続いていた。
テントの中には数名の白衣をきた男女が忙しそうに動いている。
「もう大丈夫だから、あとはゆっくり家で休んでください」
「熱は?咳はいつごろからーー」
「次の人、あなた顔が真っ青よ。ちょっと兵士さん、立ってられなさそうな人を見たらベットに誘導して頂戴」
白衣の女性が、近くにいた兵士に指示を飛ばす。
「どうやら臨時の病院みたいでござるな」
「薬も配っているみたいだぞ」
「一応なんの病気の薬を配っているのか確認しないと」
そういうと、列を整理していた兵士の一人にエイミは声をかけた。
「やっぱり≪ユニガン風邪≫だったわ」
しばらくして、まあ予想通りだったわ。という顔でエイミが戻ってくる。
どうやら、≪ユニガン風邪≫の流行真っただ中の時代にアルドたちは来てしまったようだ。
「それならそれでちょうどいい、オレたちもこの列に並ぼう」
アルドたちが列の最後尾に並んでからしばらくすると、兵士たちが人数を数えだした。そしてアルドたちの少し前の人物のところまで数え終えると、それ以降の人々に向かって口を開いた。
「すみません。薬がもうなくなってしまいました。次の分がいつできるかはわからない状態です。薬ができるまで出歩かず家でしっかり休んでお待ちください」
怒号が飛ぶかと思ったが、そんな気力もないのか、みな静かにゴホゴホ咳をしながら去っていく。
「どうしよう、薬もうなくなっちゃたみたいだよ」
「とりあえず、一度話を聞きに行こう。もし材料がないだけなら──」
みんなが頷くのを確認し、アルドたちは帰っていく住民たちとは反対にテントの方に歩みを向けた。
「あのすみません。ナオ・セーナ先生ですか?」
フィーネが兵士や他の白衣の男女に何やら指示をだしている眼鏡の男に声をかける。
「そうですが。なんでしょうか?薬なら申し訳ありませんが、もうなくなってしまいました」
「それはわかってます、次はいつぐらいにできるんですか?」
「すみません、それはお答えできません」
「作るのに時間がかかるのですか?」
「いいえ、材料さえそろっていれば半日もかからないのですが……」
ナオ・セーナが言葉に悔しさをにじませる。
「その材料集めオレたちにも手伝わせてくれませんか」
フィーネに代わって言葉を発したアルドをチラリと眼鏡越しに見る。
「一般の方には危険です」
「大丈夫でござるよ、拙者たちこう見えてかなり強いでござるから」
喉を膨らませながらテントに入ってきたサイラスを見て、ナオ・セーナがぽかんと口を開ける。そしてぼそりと思わず呟いた。
「解剖したい……」
サイラスがビクリとアルドの背に隠れるように一歩下がる。
「いや、失礼。つい」
慌てて言葉を取り消すように両手を胸の前で激しく降る。
「…………」
「…………」
「──それより本当ですか、確かに今は猫の手も借りたい状態なので、手伝ってくれるというのなら、お願いしたいです」
「あぁ、俺たちも貴様の作っている薬が今すぐ必要なんでな、何を集めてくればいいか早く言え」
ギルドナがまるで容疑者に自白を迫るかのような勢いで訊く。
「もうほとんどのものは集まっているんです、ただちょっと厄介なものがいくつかあって……兵士たちも探しに行ってくれてはいるんですが、まだ見つけられてないみたいで、だから君たちにもそれをお願いしたいと思います」
「大丈夫です。必ず取ってきます」
アルドが真っすぐにナオ・セーナの目を見ながら言った。
「わかりました、どうかよろしくお願いします」
こうしてナオ・セーナは三つの材料を集めて来るようにアルドたちに依頼をだしたのだった。
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