第3話 治療薬の材料集め

~ カレク湿原 ~


「まずは”ツルリン”の『紫の実』だったな」


 ”ツルリン”とはカレク湿原に現れる植物タイプの魔物である。


「そうだけどお兄ちゃん、確か普通の実ではなかったはずよ」

「そうでござる。辛い実?いや、不味い実?だったでござるな」

「渋い実だ」

 

 ギルドナが大丈夫かお前らという目で見てくる。


「確か長く生きている”ツルリン”からだけ採れるものだといっていたわよ」


 若い”ツルリン”からは甘い実しか取れないらしく、しかし薬になるのはそれが熟しきってから出てくる苦み成分らしいのだ。


「歳をとった”ツルリン”と言われてもなぁ」


 カレクにはすでに数人の兵士がアルドたちと同じ目的で”ツルリン”を狩っていた。ただ誰もその”ツルリン”の生存年数などわからないらしく、狩ってはその実を食べて判断しているようだった。


「確かにこれは手こずりそうだ」


 アルドがその光景にため息を漏らす。


「お兄ちゃん、あれはどう?ちょっとシオシオしてるよ」

「アルドあれはなかなかの艶ものですぞ」


 フィーネやサイラスが指さした”ツルリン”たちを兵士たちが倒していったが、どうやらその顔を見る限り、違っていたらしい。


(うん。見た目じゃ全然わからない)


 そうするとやはりユニガンの兵士たちがやっているように、片っ端からやっつけていくしかないのだろうか。


(でもそれだと、あとあとますます長生きした”ツルリン”がいなくなってしまって将来困ることになるのでは……)


「リィカ」

「わかってマス。今”ツルリン”をスキャニングしていマス」


 目をチカチカさせながら返したきた頼もしい回答に、アルドがほっと胸をなでおろす。


「デマシタ。付いてきてくださサイ」


 リィカの後ろについて走る。


「スキャニングの結果。どうやらあそこにいる”ツルリン”が、ここら辺では一番長く生きている個体のようデス」

「よしあいつをやっつけるぞ!」


≪ 戦闘 ≫


「どうだ、念のため少し食べてみるか?」


 やっつけた”ツルリン”がいくつか落とした紫の実を拾い上げながら、アルドが仲間たちを振り返る。


「拙者はリィカどのを信じているから大丈夫でござる」

「私も嫌よ、アルドが試しなさいよ」


 その明らかに兵士たちが口にしていた実より、毒々しい深い紫色をした実を見ながらサイラスとエイミはきっぱりと断りを入れる。


「……そうだな。オレもリィカを信じてるぞ」

「アルド」


 大丈夫と言おうとした時、後ろから名前を呼ばれ振り返る。


 ブシュ!


 何かを握りつぶしたような音とともに、顔中にベトベトした液体がかかったのがわかった。


「なっ、なんだ!わっ!苦っ!苦いー!!」


 慌てて顔をぬぐう。


「よし。問題ないようだ」


 涼しい顔でギルドナが残りの実を拾い始める。


「ギルドナっ!?」

「アルドさん大丈夫です。これらの実は苦み成分99.9パーセントデス」

「リィカ、そういうのはもっと早くに教えて欲しかったよ」


 フィーネとエイミとサイラスがそんなやりとりを笑って見ている。


「さあ次に参るでござるよ」


~ ルチャナ砂漠 ~


「相変わらず、暑いなっ……」

 

 サンサンと降り注ぐ太陽を遮るものがなにもないルチャナ砂漠。


「次、なんだっけ?」

「確か珍しいキノコだったはずよ」

「怪しいキノコだ」

「このさい名前などどちらでもよいでござるよ。それよりこんなところに本当にキノコなど生えてるでござるか?」


 だいぶ投げやりな口調でサイラスが頭から水をかぶりながらぼやく。


「サイラス、水は大切に使えよ」

「拙者、水分がなくては干からびてしまうでござる」

「…………」


 確かにこの日差しは蛙の体にはだいぶきついものがあるだろう。


 ──数時間後。


 だいぶ歩いたがキノコどころか、植物っぽいものの影すら見当たらない。


「自生しているキノコの反応はこの先一キロ先までありまセン」

「場所間違ったのかな、それともキノコじゃなかったとか」

「先生は生えてるとは言ってなかったと思うよ、なんかよく落ちてるって言ってなかったかな?」


 フィーネの助言はありがたいが。結局はこの見渡す限りの砂漠で落ちてるものを探すのは、逆に自生しているものを探すより難しい気がした。


「落ちてるって……」

「どうする、一度確認しにユニガンに戻るか?」


 みんなの足取りがどんどん重たくなるのは、このいちいち絡みつく重たい砂のせいだけではないだろう。


「ちょっとみんなあれを見て!」

 

 一度帰るかそう言いかけた時、エイミが何かを指さして叫んだ。


「あれはまさか!」

「形、色、大きさ、間違いありまセン。ナオ・セーナ先生が話してイタ情報と88パーセントの確率で一致していマス」

「普通のキノコだとばかり思っていたから」

「下ばかりみていたでござるよ」

「まさか、あんなところに生えているなんて」

「だから怪しいキノコだったのか」

「皆さん感想はいいデス。早くしないと見失いマス」


 照り付ける太陽、舞い上がる砂煙。そこ中を悠然と歩いている”重装マッシュ”その頭に、ナオ・セーナが言っていた特徴とよく似た形のキノコが生えていた。


「よし。追いかけるぞ!」


 最後の気力を振り絞りみんなで”重装マッシュ”を追いかける。


≪ 戦闘 ≫


「どうだリィカ?」

「はい、90パーセントこれで間違いないと思われマス」

「100パーセントではないのか?」

「情報が不足していマス。ノデ」

「そうだな、とりあえず、もう次に行こう」


 サイラスが空になった水筒を振っているのが見える。

 このままではみんな本当に干からびてしまうかもしれない。確信にも似た気持ちでアルドはそう言った。


~ ゾル平原 ~


「次は”ダンシング”から採れる『オドリ草』だったな」

「場所はここで合ってるのか?」


 いままでのものと時代が違うのにギルドナが疑問を投げかける。


「『オドリ草』なら”ダンシング”から採れるから合ってるはずだけど」


 しかしアルドはそんなことはこれっぽちも気にしていないみたいだ。


「アルド、ちょっと待って違うわよ。『オドリ草』じゃなくて確か『オドッテ草』よ!」

「アルドさんもエイミさんも違いマス。正確にはナオ・セーナ先生は『超オドッテ草ッス』って言ってまシタ」

「……」

「……」


 皆お互いの顔を見詰める。


「アルドが説明を最後までちゃんと聞かないで飛び出すから」


 エイミがため息をつく。


「だって、『オドリ草』だと思ったんだから仕方ないだろ」


 アルドが口を尖らす。


「まぁ名前から『オドリ草』の一種であるのは確かだと思うから、”ダンシング”が進化した魔物かもしれないわね──」


 それならばやはり時代はユニガンと同じ時代にいる植物系の魔物の可能性が高い……そうエイミがいいかけた時。


「”ツルリン”の実が年とともに変化したように。”ダンシング”の踊り方によって『オドリ草』ではなく『超オドッテ草』に変化するのかも……」


 ギルドナの独り言に「きっとそうだ!」とアルド指をさす。


「そんなデーターありまセン」

「データーが取れてないだけかもしれないだろ」


 しかめっ面のアルドをよそにフィーネは冷静に「他に『超オドッテ草』に関連しそうな情報はないんですか?」とリィカに質問する。


「──スミマセン。『超オドッテ草』に関するデータは記録にありまセン」


──≪ユニガン風邪≫の材料の一つのはずなのに、その情報が一つもないなんて。


 フィーネとエイミが顔を見合わせる。


「やっぱりおかしいわ。アルド」そういいかけたエイミの声にかぶさるように、


「なら決まりだ、とりあえず持って帰ってナオ・セーナ先生にみてもらえば白黒つくはずだ」


 アルドの張り切った言葉が重なった。


「お兄ちゃん」


 フィーネが兄の暴走を止めるようと手を伸ばしたが、その手をエイミが握る。


「エイミさん」

「あきらめましょう。アルドが一度いいだしたら聞かないのはよくわかってることじゃない」


 肩をすくめてやれやれというジェスチャーをみせる。


「ほら、エイミとフィーネも早くいくぞ!」


 そうと決まれば、よく踊っている”ダンシング”を探さなければ。張り切った子供のように先頭を歩き出す。そんなアルドをフィーネとエイミはやれやれという顔で追いかけた。


「改めて見ると」

「なんだかみんな同じようでいて」

「少しづつ動きが違うわね」

「でもだからといって、こやつだといえるやつもいないでござるな」

「リィカ」


 アルドが最後の頼みとばかりにリィカを見る。


「速さ、動き、テクニック、総合評価で算出しましたが、とびぬけている個体は見つかりまセン」

「…………」

「ん~ここにいないだけなのかな」

「やっぱり、前提が違うのかもよ。お兄ちゃん」


 フィーネの言葉にアルドがここにきて少し動揺の色を見せる。


「とりあえず、一番素早い動きをしているやつを狩っていくでござるか?」


 サイラスが元気そうなのを選んでいると。前を歩いていたギルドナの声が聞こえた。


「アルド、あれを見ろ!」

「あれはっ!」

「凄いわ!」


 ギルドナの指さす先をみて、アルドとフィーネが感嘆の声を上げる。


「見事でござる」

「速さ、動き、テクニック、どれをとっても高得点デス」

「確かに──!」


 サイラス、リィカ、エイミも感心したように頷く。


 小高い丘の上。いままで見てきた”ダンシング”たちが路上パフォーマー、粗削りなストリートダンサーだとするならば、そうここはダンス会場。選ばれた者たちしか踊ることが許されない、切れ切れの動きと生き生きとしたダンス。しかしその”ダンシング”たちでさえ、本物のダンサーの前では彼を輝かすためのただのバックダンサーでしかなかった。


「あいつに間違いないな」


 満場一致で頷く。


「みんな行くぞ!」


≪ 戦闘 ≫


「よしこれで材料は全部手に入ったぞ」

「ようやく薬がもらえるでござるな」

「早く帰りましょう」

「あぁ」


 すべての薬の材料を手に入れ、アルドたちは、再びユニガンの地を目指すたのだった。


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