第92話 イベント戦でも勝つ気でやろう

「おおおおおおぉぉ!」


「あらあら、すさまじい殺気ですわぁ」


 ブリュンヒルトを前にして、俺は初っぱなから雷神モード全開になる。

 体の周囲に稲妻が走り、バチバチと音を立てる。


「ふっ!」


 一足で距離を詰め、高速の突きを放つ。


「はあっ!」


 が、しかしこれは防がれる。

 ブリュンヒルトの持つ槍グングニル・ノイエスは俺の突きなどいともたやすく防ぎきる。


 更に、ブリュンヒルトの周りの蒼炎が襲いかかる。

【フレム・オブ・レイジ】

 攻撃力を増加させ、なおかつ強力な飛び道具を生み出すスキル。


 大聖堂でやり合った時と同様、厄介だな……。


「ならこっちもいくぜぇっ!」


 蒼炎が向かってくるが、構いはしない。

 全速力でやつとの距離を詰める。俺がやつに対抗できるとすればスピードだ。

 圧倒的なスピードで上回り、剣で至近距離まで行く。あれほどの大槍ならば、近づかれるとやりづらいはずだ。

「ふふ……」


 ブリュンヒルトの笑み、

 蒼炎が肌に触れる――――


 ――――ことはなく、稲妻で相殺する。


「あらあら、まさか蒼炎を防ぐ手立てがあったとは」


 意外そうな顔をしているが、その余裕をぶち抜いてやる。

 俺は速度重視に威力を落とした【ゴッド・グラン・ジャッジメント】を発動する。

 狙うはブリュンヒルト――ではなく、彼女と俺の間の空間。

 上級魔法による範囲攻撃を、めくらましのためだけに惜しみなく使う。


 そして光が辺り一面を包むと同時にブリュンヒルトの側面に回り込む。

 剣を思い切り握りしめ、斜め上から斬りかかる。


「――――っ!」


 余裕の表情から一変、真剣な顔になるブリュンヒルト。

 さすがはアスガード最強の戦乙女。これほどの速度で攻撃してもしっかりと食らいついてくる。

 やつは俺の剣による一撃を蒼炎でカウンターしようとしている。


 わかってるさ、反撃されそうになることくらい。

 大聖堂の戦いで、俺の極神としての魔力に反応してカウンターを決めてくるって学習したからな。

 だから、魔力を消費して稲妻のオーラを放出して、蒼炎対策にしてるんだぜ!


 稲妻は青い炎の壁を食い破り、わずかな隙間を生み出す。

 そこに剣を通し、思い切り剣を振るう。


 ここだぁ!


「うおおおおぉぉ!」


「ぐうぅっ」


 手応えあり!


 深追いせず一端後ろに下がる。


 見るとブリュンヒルトの腕に切り傷が出来ている。そして瞬きする間に傷は再生していた。

 なるほど、どうやら完全な無敵というわけじゃないらしい。

 やつは何らかのスキルか魔法で一瞬で再生するほどの治癒能力を得ているようだ。

 それがあたかも攻撃を受けても傷がつかず、無敵に見えているだけだったのか。


 今の一撃でわかった。

 再生はするが、傷自体は与えることが出来る。

 つまり、強力な攻撃を直撃させれば勝てる可能性はある。

 今はそれに賭ける!



「ふ、ふふ……」


 声が、漏れる。


「ふふふ……」


 戦乙女の口から、楽しそうな笑い声が。


「あはは……あはははっ」


 何が楽しいのか、声は次第に大きくなる。


「うふふふふ! あっははははは! 素敵、素敵ですわ! やはりあなたは素晴らしいですわ、雷神様ぁ! 主の力を色濃く受け継ぐあなた様だからこそ、ここまでの力を発揮できるのですねぇ! 欲しい、欲しい、欲しい! その権能、スキル! 我がアスガードに是非とも欲しくなりますわぁ! うふふふふ!!」


「き、斬られて喜んでやがる……マゾかこいつ」


「あら不思議ですか? 神の力を好みで味わったのですよ、喜んで当然ではないですか! 神の奇跡を己の体で直に感じるなんて幸福な人が、いったいこの世にどれだけいるのでしょう?」


「そこらの魔物なんかしょっちゅう味わってるぜそんなの。それに、追加注文承ってるから是非ともどうぞ!」


「ッッ!!」


「【ブリッツ】!」


 雷神の力で【マサンダ】に風魔法の力を合成し、雷を収束させて貫通力を高める。

 これを【ブリッツ】と名称づける。

 ブリッツを右手から打ち出し、再び蒼炎の壁をぶち破る。


「またも私の炎の壁を簡単に破るなんて! 雷の力、驚嘆しますわ!」


「ダホが……」


 俺が新たに生み出した雷魔法ブリッツの特性。

 それは消費魔力は中級魔法レベルだが威力は上級並だとか、炎の壁を突き破る貫通力だけが売りじゃない。

 魔力を使えば使うほど、魔法を放出し続けること。それこそ、ブリッツ最大の特徴だ。


 他の魔法はゲームで例えると、MPを五〇使って威力一〇〇の魔法を出して終わりだった。

 しかしブリッツは、MPを五〇使って威力一〇〇の魔法を出した後に、MPを消費し続けることで魔法を出しっぱなしに出来るのだ。


 要するに、炎の壁を貫いた後でも俺の魔法は続いている。


 そう、今まさにブリュンヒルトの胸に直撃したように、この攻撃は魔力を使い続ければ例え相手の攻撃を相殺しようと、相手に直撃しようと止まらない。


「く、あああああぁぁぁぁ!!」


「おおおおおおぉぉぉ!! くらいやがれええええぇぇ!!」


 ブリッツはブリュンヒルトノ体を捉えたまま放出し続け、彼女を数十メートル後方まで吹っ飛ばす。

 木々が倒れ、大きな道が出来たかのように視界が開ける。


「ま、尻に火がついたらやるのがこのトール様ってやつだ。無敵じゃなく再生だと分かればダメージは通るしそこまでこわかねぇ!」


 ここで手を緩めないのが重要だ。

 俺は毎度油断しているつもりはないが、ダメージを与えた後に反撃を食らうことが多い気がする。

 今回はそんなことが起きないように攻撃を続行し、反撃の隙を与えない。


「【ブリクスト】!」


 空いた左手で炎と雷の魔法を合成した俺独自の魔法【ブリクスト】で追撃を試みる。

 この魔法は熱線を照射して、熱戦が通過したところに爆炎が巻き上がる魔法だ。

 某ドラゴンをクエストするゲームの、ギラギラにまぶしい魔法を想像してもらえるといいだろう。


 吹っ飛んだ先のブリュンヒルトのいる場所をブリクストが通過し、炎が大きく燃え上がる。


「はぁ……はぁ……どうだ、少しはダメージが残ったか?」


「いいえ、いいえ。それしきの攻撃では私に傷一つ残すことは叶いません」


「ちぃ……」


 燃え落ちた木々の先、岩盤に押しつけられたブリュンヒルトは立ち上がり服の汚れを払う。

 その姿は攻撃を受ける前と変わりなく、彼女の言うとおり傷一つありはしなかった。


 チート野郎め、これじゃあじり貧だな。


「こちらも行かせて貰います……目標補足。神罰対象に認定。投擲開始。殲滅開始。【パニッシュメントランス・シン】!」


 ブリュンヒルトがグングニル・ノイエスを持って大きく助走を付ける。

 そして、勢いよく槍を投擲した。

 槍は炎を纏い、渦を作りながら直進する。


「これは大聖堂で見た技! だが威力はあの時の数倍もありそうだ! 今度は素手で掴むなんて無茶な真似は出来そうにないな、なにせ炎の渦で槍本体が見えないんだから!」


「神罰術式の一つ、私のとっておきです! さぁ、この技をどう掻い潜りますか!」


 なるほど、やつのとっておきの技か。

 それも納得、なにせ逆巻く炎の渦は木々を一瞬で灰にして周囲一帯を更地にしている。

 俺の攻撃でただでさえ木が無くなっていたというのに、これでは完全に更地だ。


 たった数回の攻撃の応酬でこの被害。

 俺とやつの戦闘の規模を嫌と言うほど実感させる。

 さすが、この世界でも上位の実力者だとでも褒めてやりたいところだ。


 だから、俺のとっておきも見せてやる。


 懐から得物のない柄を取り出す。

 そして、柄を握りしめて魔力を通す。すると柄全体に青い光のラインが走る。


 刮目しろブリュンヒルト。

 これがお前の言う雷神の力の一端だ。

 さあ神器よ起きろ、お前を目覚めさせるにふさわしい相手がそこにいる。


「起動せよ――全てを毀す暴威の槌ミョルニル!」


 得物が無かった柄に、光の頭部が形成される。


 これこそ俺の自慢の武器、ミョルニルだ。

 破壊というイメージを形にした、一撃必滅のとっておきだ。

 あまりに強力すぎるから、王都での闇ザコ戦以来使うのを控えていた。


 だが、今こそ再び使ってやる。この破壊の一撃を!


「【雷神戦槌トールハンマー】!!」


 青く、蒼い炎の渦の中心点と雷の槌が激突する。

 そして、一瞬拮抗したが、次の瞬間に炎の渦は霧散した。

 ブリュンヒルトの神罰術式とやらを、俺のとっておきが打ち破ったのだ。


「なん、ですって……!」


 自信の最大の一撃を難なく打ち破られて、流石のブリュンヒルトも呆気に取られる。


「刮目しろよ戦乙女、これがレプリカだのノイエスだのを使ってるお前と、本物の力の差だ!」

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