第25話 事件に巻き込まれ、首を突っ込む
突如現れた金髪碧眼の少女。彼女は俺に兄を助けてくれと請う。
急な出来事で混乱していた俺だが、彼女の話を聞くことにした。理由は、彼女が切羽詰まった表情をしていたからで、人助けもたまにはいいだろうという気持ちからだった。
少女の格好はボロ布を羽織ったような、とても普通の生活を送っているとは思えない格好だ。
そんな女の子を放っておけるだろうか、いや放っておけない。俺にだって最低限の情はあるのだ。
別に、彼女の胸に惹かれたわけではない。それだけは言っておきたい。
「それで、君の兄がどうしたんだって? 君の格好を見た感じ、言っちゃ悪いが奴隷かそれに類する身分だと察するよ。で、そうなると兄もおそらく同じ境遇なんだろう。そんな人間が、必死こいて往来を走って、知らない人間に助けを請う。只事じゃないよな、これは」
「は、はい……。その通りです。私も兄も、この街に住む豪商に買われた奴隷です」
おお、勘があたった。俺の洞察力も中々いい線いっているんじゃないか?
とはいえ、喜んでいられない。なぜなら、彼女が言うように彼女たち兄弟の主人がこの街の豪商だというのならば俺達が首を突っ込むのは好ましくない。
だって、俺達はミズガルズ王国からこのヴァナハイム共和国に同盟を申し込むために送られた使者だ。この国の代表と話をする前に、首都で問題を起こしたら交渉もクソもない。それくらいはアホの俺でも分かる。
彼女がスラム街で暮らす子供とかなら、まだ話は簡単だったんだが。
「ルビィ、俺達はこの国に交渉に来たんだよな。今、騒ぎを起こす訳にはいかないよな」
「う、うん……。でも、とおくん……助けたいって顔、してるよ?」
「バレたか……。そーだな、俺はこの娘を助けたい。特に理由はないけど、話を聞いたまま知らん顔をするのは夢見が悪くなりそうだしな。俺は安眠するのが好きなのよ、枕の高さは低くないと寝れないんだよ。布団は羽毛が好きだけど、なければ別にいらないよ」
「え、えっと……その、つまり………?」
少女は俺の脇道にずれていった言葉を聞いて、頭の上にはてなマークを浮かべる。
くそ、首をかしげるその動作だけでも人を魅了するとは、もしかして彼女は精神弱体付与のスキルでも発動しているのだろうか。もしそうなら許すことは出来ない、スキルの出処がどこなのかじっくり調べさせてもらいたい。
いやいや、何を言っているんだ俺は。真面目モードに切り替わらないと。
「助けるよ。君と、君の兄を。ただ俺達は理由があって身元が知られたらマズいから、顔を隠すものを用意していいか。俺達の本来の目的の交渉に行くだけなら服装を変えるだけで十分だったんだろうけど、きな臭いことに首を突っ込むならとことん正体を隠さないとな」
せっかく買った商人風の衣装も、これじゃあ意味がないな。
ということで、いま出てきた服屋に戻ってローブと仮面を買う。仮面はおもちゃのように薄っぺらく、安いパーティグッズみたいだ。
まぁ、顔全体を隠せるなら品質なんてどうでもいいか。
それよりもこの仮面、デザインが謎だ。仮面にアルファベットのWの形をした穴が二つ、縦に並んでいる。二つとも目の高さ付近にあるから、この穴から外を見るってことかな。いや、まじ何だろうこのデザイン。
「うわぁ、すごい似合ってるよとおくん! 怪しすぎて、私だったら絶対に話しかけたくない見た目だよ!」
「ありがとう、とっても嬉しいよ。これで俺も学校のお知らせに載ってる『近所の不審者情報』に仲間入りだ☆ってやかましいわ!」
「あ、あの……すみません。私のせいで、新しい服を買わせてしまって」
「いいんだよ、予算はまだ余裕あるから。……いや、俺が誇ることじゃないか。それより、準備ができたから早く連れて行ってくれ」
「わかりました。では、お願いします。私についてきてください」
金髪碧眼の少女は前に出て走り出す。俺もそれについていく。
―――――と、肝心なことを忘れていた。
「ルビィ! お前はついてくるなよ! 争い事になったら危険だからここで待ってろ! 服屋の店員にはさっき頼んでおいたから!」
「ちょ、とおくんっ!? 宿屋で待っててもいいんじゃない?」
「1人で宿屋まで行くなんて危ないだろ! 大丈夫、『うちの子ちょっと預かっててくれないか?』って言ったら了承してくれた!」
「もーっ! また子供扱いしてー!」
顔を赤くして、大声で叫ぶ。
人目を気にするくせに、なんだかんだ大声だすんだから。いや、俺がからかったせいだけどね。
それにしてもお気付きだろうか。
ルビィが、金髪の少女と一言も言葉をかわしていないことに。
いくら人見知りだからって、初めて会った人だからって、一切会話しないとは。
でもしょうがないか。唐突な出来事だったし、金髪の少女が助けを求めたのは俺だったし。会話に入っていくのは、難しかったかも知れない。
ルビィがぷんぷんと怒るのを尻目に、先を行く少女についていく。
彼女の足はそこまで早くはなく、追いつくのに時間はかからなかった。というか、ぶっちゃけ遅い。五〇m走だと九秒台だぞたぶん。
仕方ない、彼女を抱えて指示を受けて俺が目的地に走ることにしよう。
「ちょっとごめん……よっと」
「え……きゃっ!」
「急いでるんだろ? こっちのほうが早いから、ちょっとの間我慢してくれよ」
「いやっあのっ」
金髪碧眼の少女は恥ずかしそうにしつつも、抵抗なく俺に抱えられる。
物分りの良い少女だ。おかげで運ぶのに余計な力がいらない。
でも、よく考えなくても女の子を急に抱えるってデリカシーないよなぁ。緊急事態だからしょうがない、と言い訳しつつも自分を卑下したくなる。
「あっあのっ! あなたのお名前をお聞きしてもいいですか?」
「そーいやお互い名前を言ってなかったな。俺は……いや、名前言っちゃってもいいのか? せっかく正体隠しているのに。……ま、いっか。俺はトール。なぁ、俺の名前を誰にも言わないでくれないか?」
「はい。先ほどのお話を伺っている限り、あなた方は名前を明かすことがよろしくないご様子でした。ですから、名乗ってくださったことに感謝いたします。私はフレイヤと申します。よろしくお願いしますね、トールさん」
「フレイヤか、いい名前だな。って、フレイヤ!?」
「きゃっ!」
走っている足を止めてしまった。
その反動で、抱えている彼女――フレイヤと名乗る少女が悲鳴を上げる。
フレイヤ、フレイヤだって?
俺はその名前を知っている。そう、彼女を以前から知っていたのだ。
だって、彼女はエターナル・ユグドラシルで最も有名なNPCの一人。
ゲームの一章で仲間になり、それ以降パーティに同行させることが出来るキャラクターなのだから。
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