2章

第22話 二人の兄妹

 ※作者からの注意

 21話まで(1章)はweb版から小説賞向けに一部修正を加えたものです。

 2章からは以前小説家になろう様で掲載していた内容そのままになります。

 そのため、一部内容の齟齬があると思いますのでご容赦ください。

 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 帝国最強の戦士、四魔将のロキが敗れた。

 その情報は、瞬く間に大陸全土に広がった。


 ある者たちには悪い知らせとして。それは帝国、もしくはそれに加担する者たち。

 帝国は他の国々を征服し、取り込むことで規模を拡大してきた。今や大陸の中でも最大の国土を誇る。

 属国を従えて勢力を伸ばし、他国に脅しをかけることで外交的に有利に立ち回っていたところに、ロキの敗北の報。

 せっかく折れかけていた抵抗勢力にいらぬ自信を与えてしまうこととなる。



 またある者たちには良い知らせとして。それは帝国に屈せず、戦い続ける者たち。

 無敵とも思えた四魔将の敗北は、このまま滅亡が待ち受けるだけの戦いを覚悟していた人々に希望を与える。

 もちろん、根本的な戦力の差はどうしようもない。帝国と他では兵の数からして違いすぎる。


 だが、

 もしかしたら、

 ひょっとしたら―――



 ―――――俺達だけなら負けるかもしれない。でも、協力すれば、もしかして



 そんな希望を、人々は抱き始めた。



「お兄様、始まったのですね」


「ああ。俺達も動く時が来たようだ。傍観者を気取るのは止めよう、立ち上がるんだ。今こそ」




 ◆



 サンサンと降り注ぐ、心地よい朝日。時刻は7時、朝食前の時間帯だ。

 運動した後に水で汗を流し、太陽の光を全身に浴びることで生きている実感を得る。


 筋トレに剣の素振り、魔法の試し打ち(威力を弱めて)。

 毎朝の日課を終えて俺、雷門透ことトールの一日が始まる。


 季節は春。

 夜は少し寒いが日中は適度に暖かく、過ごしやすい季節となっている。


 ミズガルズ王国は一年間で二つの季節が交互に移り変わっているらしい。日本では春夏秋冬、四季として分けられているがこの国は初春・初夏・間春・終夏と分けられている。二春二夏の比較的温暖な地方というわけだ。

 そのため、ミズガルズ団の連中に聞くところ、雪を見たことがない人間も少なくないらしい。

 雪かぁ。俺が日本で住んでいた地域は、毎年雪が降るもののつもるのは年一・二回程度だったなぁ。

 子供の頃に雪だるまを作った記憶があるが、だいぶ記憶がおぼろげになっている。


 ところで、子供の頃って雪が降るとなぜか異様に嬉しかったよな。

 でも、最近だと雪が降るのを見て、次の日積もるのかな……勘弁してくれよ……と思うようになった。

 なんてつまらない大人になったんだろう、と我ながら思ってしまう。うん、大人になるって寂しいことなのだ。


 さて、雪の話は置いといて。

 今は神樹暦七七五年十月。この世界では神無月の月と呼ばれている。ロキを倒してから約三週間が経過した。

 あれから特に変わったことはなく、平凡な日常が続いている。

 ただ、少し変わったことがあるとすれば―――――


「とおくん、お疲れ様。はい、タオルだよ」


「ありがとうルビィ。今日も見に来てたのか? 俺が一人でトレーニングしてるところなんて、つまんねぇだろ」


「そんなこと無いよ! とおくんが頑張ってるところを見るの、なんだか楽しいもん。私も、頑張らなくっちゃ……ってなるの」


 ミズガルズ王国のお姫様ことルビィはふんす、と鼻息を鳴らし気合を入れる。

 両手を胸の前に持ってきて、ぎゅっと握る。人前じゃ弱気な彼女だが、気合だけは人一倍入っているようだ。


「そっか。もうすぐだっけ、俺の勲章授与」


「う、うん。私も出席して大勢の人の前で挨拶しなきゃいけないから、練習中なの」


「ハハハ、頑張れよ『ミズガルズの赤耳姫』さん。俺は人前でしゃべることだけは慣れてるからな。得意じゃないけど。プレゼン発表とかやらかしまくるけど」


「ちょっと待って、どこで聞いたのその名前! やめて、呼ばないでぇ……」


 ミズガルズの赤耳姫。それはルビィを象徴する異名の一つだ。

 見ての通りルビィは人前に出てしゃべることが苦手だ。そしてすぐアガって、耳が真っ赤になる。

 その様子を端的に表したのが赤耳姫。そして俺にその名を呼ばれたせいか、異名通りに耳が真っ赤になっている。


 本当に分かりやすい娘だなぁ。



「目は口ほどに物を言うって言葉があるけど、お前の場合は耳だな」


「うーうー聞こえない! 私の耳はそんなコミュニケーションツールみたいなものじゃないもん!」


「ハハハ。確かに、恥ずかしがってることくらいしか分からんし、目と口以下だな、なんて」


「もう、からかうとおくんは嫌いだよ? せっかく、宿舎の朝ごはんが出来たって伝えに来てあげたのに……」


「ごめんごめん。恥ずかしがるルビィが可愛……面白くってな。それに、耳が赤いならまだマシだろ。この前の、月夜の時なんて……」


 ロキを倒した後、夜中にルビィと二人きりで話した。

 その時、俺は彼女から『私の騎士になってください』と申し込まれた。ルビィの顔は真っ赤で、熱が出ているんじゃないかと思えるほど赤面していた。

 あの時の顔を思い出せば、今の赤い耳なんて全然平気そうだ。

 むしろ、普段からあれくらい恥ずかしがってればいずれ慣れるんじゃないか?


 なんて考えていると、俺の服の裾をルビィがそっと掴む。

 そして、耳元へ顔を近づけて、消えそうな声で囁いた。


「とおくん……。あれは……二人だけの秘密だから……誰にも言っちゃ、ダメだから」

「お、おう……わかった」


 そう言って俺から離れたルビィは、あの時と同じくらい赤面していた。

 でも、あの時の涙をこぼしそうだった表情と違い、今のルビィの表情は笑顔だった。

 嬉し恥ずかし……と言った感じの、少女の顔。


 その恥じらいと喜びを秘めた表情を見て、ドクンと胸が高鳴る。


「め、飯の時間だ! よーし、ルビィ! 宿舎まで競争だ!」


「えー待ってよぉ! 私、ティウに呼んでくるよう頼まれただけで、城内に戻るってばぁ!」


「分かった分かった! じゃあ、また後でな!」


「ティウがなにか用事あるみたいだったから、朝ごはん食べたらティウのところに行ってね~」

「りょーかい!」


 トレーニングの直後だが、宿舎まで走っていく。

 全身に風を受けたい気分だからだ。なぜかって、顔が熱いんだよ……なんでだろーな。


 それより、ティウの用事ってなんだ?

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