第11話 異世界の軍人になっちゃいました
ティウは部屋に入った途端、すぐにだらけて猫背になっているし、ルビアは苦笑いして俺の視線から逃げてる。こいつら、これが素か。
「ええと。予想より軽い感じで言葉が出ないんですが、俺もフランクに話したら不敬罪になります?」
「大丈夫、大丈夫! この部屋の中なら軽い感じでオッケーだ。むしろタメ口で話してくれてもいい」
「それはちょっと……。……な、なあルビア」
「え、なになに?」
お姫様ことルビアの腕を引っ張り、フランクなおっさんこと王様から少し離れる。
ルビアはニコニコした表情で、なに? といった顔をしている。いや、そんな呑気な顔をしないでくれ。俺だけ場違いな感じになるじゃないか。
「あれが王様って本当なのか? 別人と入れ替わってたりしない?」
「あはは……。お父さん、平民の出身だから……。国王になってもあんな感じなんだよ」
「ああ、道理で堅苦しい空気がないというか、軽いというか。もしかしたらルビアの親しみやすさもそこから来てるのかもな」
「それ褒めてる?」
苦笑いのルビア。その姿は街にいる普通の少女そのものだ。王族という威厳が全くない、というわけではないがこうして面と向かって話していると、とても高貴な身分だとは思えない。
馬車の中で彼女がこぼした悩み。責任に対して自身が持てないといったのは、こういった庶民的な空気を纏っているのが原因かもしれない。普通の少女然としすぎているのだ。
「ルビアも大変なんだな」
「うん。色々とね」
王族だからといって、何も悩みがないというわけにも行かないんだな。
「おーい、そろそろこっちの本題に入りたいんだが、何コソコソ話してるんだ?」
「いや、別になんでもないですよ」
「そ、そうそう。お父さんのことなんて話してないよー?」
おい、その言い方だと話しているって言ってるようなもんじゃないか。
嘘が下手か。しかも口笛吹いてごまかしてるし、吹けてないし。
王様はそんなルビアを傍目に、俺の顔を見る。真面目な話をする雰囲気だ。
「じゃあ本題を話そうか。トーちゃん」
「あなたの父親になった覚えはないですよ」
「トーくん」
「代用貨幣じゃないです」
「ルーちゃん」
「夜明け告げそうな感じじゃない」
「じゃあ何ならいいんだ!」
「無理にあだ名をつけないでください!」
王様はダン! と机を叩いてキレた。いや、なんで怒ってるんだ!?
変なあだ名つけられて困ってるのはこちらなのに。
「じゃあもうトールでいいや、いいニックネーム思いついてもつけてやらないからな!」
「いや別に構いませんよ……。それで、何の話ですか」
「ええ……。お前冷たいな」
「あ、陛下がショックを受けてる。ウケる」
「ティウも地味に酷いよね……。私も笑いそうだけど……フフ」
王様はズーンと沈んだ顔をして、椅子にうなだれる。……流石に無愛想だっただろうか。
すみませんでしたと謝ったら、王様の顔は元のように元気になった。
これ以上話が脱線しても嫌なので、俺から話が進むように促そう。
「それで、王様の話ってなんですか。わざわざ個室に呼ぶって結構重要なことなんですよね?」
「そうだな。これは我が国に関わることなんだが、単刀直入に言おう。トール、お前この国の騎士にならないか?」
王様から告げられたのはスカウト。俺をこの国の一員にしたいというお誘いだった。
「なぜ、と聞いてもいいですか」
「お前は我が国に協力したいと言っていたな。ならば騎士団に入団して、その意志を大衆に示すのもいいだろうと思ってな」
「それに騎士団にいほうが、他の国に協力を要請する時に都合がいいんだよ」
「都合がいいって、例えばどんなのがあるんだよティウ」
「単純に、うちの国には極神がいますよって言うより、軍事組織に極神がいますって方が印象がいいんだよ。他国の協力を得るためには、確実な情報と力を示す必要があるからね」
「そんなもんか」
ううむ、政治は分からないからな。そんな言葉の違いで国際的な都合が変わるのか?
それに騎士団に入るとなると一つ問題がある。俺は集団行動が苦手だ。正直コミュ力というものがない。体育会系は大の苦手だ。
「騎士団か。ずっと旅人だったからなぁ(嘘だが)。肌に合わない可能性がなあ」
「安心していいぞ。最悪は籍を置くだけでもいい。お前は好きな時に顔だすだけで十分だ」
「緩すぎて不安になりますね」
「どっちにしても、毎日僕と一緒に訓練してもらうけどね」
ティウがニヤリと笑い、悪魔の囁きをした。
え、毎日訓練? なんで? 部活動かなにかか?
「さっきの戦いでわかったけど、トールってその能力を全然使いこなせてないよね。宝の持ち腐れってやつだ」
「ぐうの音も出ない……」
「私はすごいと思ったけど」
「そりゃルビア様は素人だし」
「ぐう……」
ルビアがぐうの音を出したところで、ティウはため息をつく。
「他の人はともかく、実際に戦った僕はすぐわかった。トール、君はとても不思議だ。戦闘慣れしているかと思えば、攻撃下手くそだし。ごろつきのような粗暴なパンチ、キックだったよ。でも避けるのは一級品。僕のスキルにも対応できた。まったく、どんな戦い方をしてるとそんな歪なスタイルになるんだか」
「ぐう……」
「ごまかさないでくれ。ま、そういうわけだから。まともな戦闘技能を身につけるまで毎日僕がしごくからね」
ティウの顔は組織の長の顔になっていた。青白い肌、目の下に出来た隈、痩せた四肢、だがそれらと真逆の精悍な戦士の顔だ。
確かに俺はゲームの経験から避けることには自信がある。高難易度の敵は時速数百キロのビームを出してくるのだ。おかげで反射神経には自身がある。
だが俺の攻撃はへなちょこだ。蹴りやパンチも現実の喧嘩で培ったものだ。そんなのが異世界の戦闘に役立つとは思えない。
だからティウに戦士としての特訓を受けさせてもらうのは、ありがたい話だった。
「分かった。その代わり、俺は素人だ。甘く見てくれよ」
「ハハ、変な自信だな。心強いよ」
俺達はグッと手を組み合う。これからティウは俺の師匠となる。彼の立場と戦いぶりから、師匠にするに足る人物だ。
いや、むしろ俺のほうが弟子足り得るのだろうか。期待に応えられるよう、努力しなくては。
「よーし。これから毎日頑張るぞ!」
「私も毎日応援に行くね!」
「私も行くぞ!」
「そんな、わざわざ王様に来てもらわなくてもいいですよ」
「ええー」
そういえばひとつ確認しなてはいけないことがある。俺が持つゲームの知識がこの世界でも役に立つかどうか。
「なぁルビア。今って神樹暦の何年だっけ」
「今は神樹暦七七五年だよ。ちなみに私は一三歳!」
「ああ、道理で……」
男に見間違うわけだ―――なんて本人に言ったら怒られるだろう。
彼女が絶壁なのは成長期前だからだ、きっと。その控えめな胸は将来への希望が詰まってると思いたい。
「今失礼なこと考えた?」
「まさかお姫様に向かってそんな。一三歳ならそんなもんかって……いや何でもない」
「君って結構失礼だよね」
「不敬罪はやめてね」
ルビアは一三歳なのか。俺と歳が近いと言っていたが、七歳も離れているじゃないか。
俺が年齢よりも若く見えるというのもあるが。
「って神樹暦七七五年!? 七七五年って言ったのか!」
「う、うん。七七四年でも七七六年でもないよ。ちなみに今は文月」
「ええと、文月ってことは七月? ゲームの時からそうだけど、なんでこの世界は日本の文化のが混ざってるんだか」
つまり神樹暦七七五年七月。それがこの世界の暦だ。
何故俺がそんなことを確認したのかというと、ゲーム本編とズレがあるのか確認するためだ。
ゲームで起きた出来事がこの世界でも起きるのか。また起きるならばゲームの知識を役立てて対策を立てられないか、と考えていた。
「ゲームの序章が神樹暦七七七年の弥生、つまり三月……。ええと、帝国が本格的に他国を征服するまで一年半くらい……?」
「なにブツブツいってるの?」
「いや、別に。ティウ! 俺を一年くらいでお前と同じくらいの技量を身につけるように特訓してくれ!」
「一年で王国最強の戦士である僕に並ぼうって? 大きく出たねトール。でもそうじゃなくっちゃ、極神も名前負けだよね。よし、僕が全力で鍛えてやろう!」
今この場で、俺が知っているこの世界の未来の出来事を話せばみんな信じてくれるだろうか。
だが万が一ゲームと違う歴史になったら、俺は嘘の情報を流すことになってしまう。
少なくとも一年半は、ゲームの序章と同じ時期までは余計なことを言わないほうがいい。
となると、俺に出来るのはそれまでに戦い方を身につけなければならない。
戦闘技術を学ぶのは初めてだから、少しワクワクしている自分がいる。
師匠であるティウと、守るべきルビア、それと王様。この三人に、俺は声を大にして言う。
「おれは明日から本気でやるぞ。帝国に負けないよう、しっかりと力をつける。みんな、よろしくお願いします!」
「「「いや、今から特訓でしょ」」」
「はい」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます