第9話 ヒロイン登場?いいえ最初からいました

「大丈夫ですか団長。一応傷は塞がりましたが、どこか痛みますか?」


 僕を心配そうに見つめるのは、医療班の治癒魔法使いだ。

 僕の傷を治してくれた、腕のいい魔法使い。元々は僧侶になりたかったそうだが、色々あって騎士団に入った子だ。


「ああ、大丈夫。僕こう見えても頑丈なんだよ」


「団長……。ああいう無茶はしないでください。見ていて心配になります」


「……うん、ごめんね。傷はもう大丈夫だから、君は自分の仕事に戻って。ほら、このお菓子みんなにあげるといい」


「はい、ではお大事に」


 彼女が出ていき、部屋は静かになった。


「頭突きくらい平気……と思ってたんだけどね。いたっ」


 正直言うと、治癒魔法をかけてもらったにも関わらず痛みは引いていない。

 わずかに小さい腫れが残っているだけで、別に支障をきたすわけじゃないんだけど。


「まったく、手加減してくれてもいいだろうトール。それとも……」


 ―――あの頭突きは、君の覚悟の現れかい




 最後の頭突きを受けて僕は意識を失った。

 さっきの治癒師に聞いたけど、僕の額はぱっくり割れていて血が止まらなかったそうだ。

 魔法がなければ全治何ヶ月かわからない程の傷だったらしい。

 でも、それはトールも同じ。

 彼にとってあの一戦は―――いや、この国に来たことはそれ程の覚悟を持ったことなのか。


「それにしても、くぅ~やられた! まさか初見で僕のスキルを破られるなんて!」


 僕のスキル【隠の王(ティウダンス)】それは認識阻害系のスキル。

 体から発せられる黒い霧によって相手の知覚は鈍り、僕に対して正確に攻撃を当てられなくなる。

 今まで誰にも破られなかったのに、トールは僅か数回でスキルの正体を看破し、すぐさま対応策を繰り出してきた。


 あの冷静な判断力と、向こう見ずな行動力は素直に驚かされる。恐ろしいとさえ感じた。


「ほんと、才能ある人間ってのは羨ましいよ」


 僕が子供の頃からずっと鍛え上げてきた【隠の王】。

 これは僕しか持っていない個別(ユニーク)スキルだ。でも最初から強いスキルというわけじゃなかった。

 使い慣れていなかった頃は勝手に発動して、僕を避けたつもりの通行人とぶつかったりして大変だった。

 スキルの強弱が調節出来ず周りから認識されなくなって、親や兄弟に声をかけても返事を貰えず数ヶ月気付いて貰えないこともあった。

 でも、何度も何度も特訓をして、ようやく実戦で使えるスキルにしたんだ。


 おかげで大陸の中で僕の名を知らないものは少ない。

 帝国最強の四将に匹敵できる戦士と呼ばれるようになった。

 でも、実戦慣れしていないトールに勝てなかった。

 トールとの一戦。結果を見れば引き分け。過程を見ると僕の優勢。

 でも、結局は圧倒的なハンデがありながら引き分け。見る人が見ればトールのセンスがすば抜けていると気付く戦いだった。


「あれが、極神……。いや、スキルのおかげじゃないな。僕が見誤ってたせいだ。彼のセンスと覚悟を」


 僕の【隠の王】の弱点は幻覚(認識阻害)という点だ。


 つまり、相手にバッドステータスを押し付けただけで、僕自身は一切強化されていない。

 もちろん、多少の身体強化などは施していた。

 【隠の王】を打ち破るには広範囲魔法で攻撃したり、攻撃を絶対に外さない距離で僕以上の速度で攻撃を放つ。これで簡単に突破できる。

 まあ前者に対しては対策があるから良策とは言えないんだけど。

 でも、僕以上の敏捷を備えた戦士なんていないと思っていた。トールのステータスを見ても分かるが、彼はスピードも兼ね備えたパワー型タイプだ。

 だからまさか僕以上の速度で動けるのは完全に誤算だった。


「僕の弱点を一瞬で見抜き、それを突いてくる。最高だ、君は最上の素材だよトール……!」


 悔しさと同時に、喜びが溢れて来る。

 豪華なご馳走を前にした様に、思わずよだれが垂れる。


「鍛えないと。彼を僕以上の戦士に。きっと、帝国に対抗できる大きな力になる」


 顔を叩き、気合を入れる。

 弱気になってちゃダメだ。トールのおかげで僕の欠点も見つかった。また一から鍛え直しだ。


「よーし、じゃあ陛下に報告しに行きますか」


 待ってなよトール。僕がとびっきりの戦士教育プログラムを組んであげるよ!

 君という原石を、僕が綺麗に磨き上げてやる!

 



 ◆




 頭にズキと鈍い痛みが走り、目が覚める。目に入ったのは白い壁一面だ。


「どこだ、ここ」


 頭の痛みは額からだ。確認しなくとも腫れているとわかる。そりゃそうだ。思いっきり頭突きしたのだ。頭が割れてないだけマシだったと思うべきか。

 頭の怪我とは別に、顔をペタペタと触る。頬をつねってみるが、痛い。


「やっぱり、夢じゃないんだよな。本当に、異世界に来たんだ……」


 てっきり今までのは夢で、目が覚めたらVRゴーグルを被って寝落ちしてただけではないかと期待していたが、違うようだ。

 未練がましくログアウトのジェスチャーをしてみるが、やはり反応はない。正真正銘異世界に来ているのだ。



 ……はあ、と小さく息を吐く。


 異世界に来たという事実が嬉しい反面、少し寂しくなる。まあ、日本に帰れなくても別段問題はないのだが。


「さっきから、何をしてるの君は……?」


「っ!?」


 突然の声に、思わず体が飛び上がる。全然気が付かなかった。というか、いるなら起きた時点で声をかけてくれるべきじゃないのか。


 声のする方を向けば、馬車の少年がいた。

 ひょっとして頭を弄ってたり、黄昏れてるところも見られたのか? 少し恥ずかしいな……。


「ようやく目が覚めたかと思えば、ボソボソと独り言を言ったり頭をゴソゴソして……。かと思えば寂しそうな顔になって。ひょっとして、頭のうちどころが悪かった?」


「そんなことあるか! 俺は頭突き程度で怪我なんてするか! ……痛っ」


「ああもう、無理しちゃダメだよ。ヒールをかけたとはいえ、まだ少し腫れてるんだから。さっきまで、額がぱっくり割れてたんだよ」


「マジで!?」


 そんな馬鹿な。あれだけの勢いで頭突きしたのに俺の頭って結構頑丈なんだなとか思っていたのが恥ずかしい。思いっきり重症じゃないか。

 今の話を聞く限り、眠ている間に治療を受けていたのか。ならこの部屋は医務室か。

 よく見るとベッドや薬棚がある。少し狭いから病院ではなく、施設内にある救護室だろう。


「もう、大変だったんだからね。大急ぎでここに運ばれてきたんだから」


「いやぁ申し訳ない……。少年にも迷惑かけたな」


「それは別にいいんだけど。でも、イケメンとか少年とかさあ……」


 少年は不満そうに口を尖らせる。


「うん、どうした?」


「なんでもないよ。このっ」


「痛っ、デコピンするなよ。けが人だぞっ」


「入国早々騒ぎを起こしてるんだから、むしろ罪人じゃないの?」


「や、やっぱり不味かったかな。ティウに言われるがままに戦ったけど、よく考えたら団長に大怪我させたって、俺処罰されるんじゃ……」


 今更自分のやったことの重大さを感じ始めてしまう。公務執行妨害とかになるんだろうか。


「だ、大丈夫だよ。冗談だってば、ね?」


 冗談だから、と笑う少年。やめてくれよな、この世界のジョークとかわからないのだから。マジなのかどうか判断つかない。


「それにしても、まだ頭が痛いな。ズキズキというかヒリヒリというか」


「治療しなかったらドクドクかグチャグチャだったね。よかったよかった」


「よくないよ。ったく。【ヒール】っと」


 ヒールは既にかけてもらっているらしいが、一応自分でもやっておこうと思い、額に向けて回復魔法を唱える。

 すると、先程までの腫れが嘘のように引き、痛みがなくなった。触っても大丈夫なことから、怪我は完治したようだ。


「うそ、ここの治癒師が完治できなかった怪我を……」


「そりゃあ、ある程度治してもらったから、俺のヒールで残りの腫れを治せたんだろう」


「そうだけど、でもヒールって結構難度の高い魔法のはずだよ。それを一瞬で……」


「まぁ、ヒールを使うのは慣れてるというか。昔取った杵柄みたいな」


「何その言葉」


「俺の地元の言葉だよ」


 ヒールなどの回復魔法は当然ながら覚えている。元のゲームでは終盤の敵は即死技の連発や、通常攻撃でこちらのHPを三割持っていくとかザラだった。

 だから初級魔法のヒールどころか、上級のマヒールも習得している。


「君の魔法って、発動が早いよね。それにさっきの戦いでも、初級呪文であの破壊力だったし」


「なんだ、あの戦い見てたのか。それなら声くらいかけてくれよ」


「やっぱり凄いんだね、極神って」


「あれ。なんで君がそのこと知ってるんだよ」


「ふふん。当ててみてよ」


 個人情報の漏洩はこんな異世界でも発生しているのか、なんて冗談はさておき、なぜこの少年が俺のスキルについて知っているのだろう。

 普通に考えたら、この少年が騎士団と関わりを持つ人物なのだろう。少年が身分の高い人物ってことは馬車での会話で分かってたことだし。


 となると、ティウの息子か? いや、ティウは若そうだし息子とかいないだろう。

 では彼の弟か? 全然似てないけど。まあ兄弟で全く似てないとか珍しくはないが。それでも何となく外れな気がする。


「ええと、家族が騎士団にいるとか? それで俺のことを聞いたんだ、違うか?」


「ぶっぶー、仮に家族が騎士だったとしても情報が伝わるには早すぎるよ。はい、ここかなりヒント言ってます」


「家族が騎士じゃない。いや、情報を知るには早すぎる、か。そうか、君も騎士なんだ! じつは貴族の息子で、箔をつけるために騎士団に入った。どうだ?」


「はーっ……」


 帽子の少年は大きく溜息をつくと、俺の顔をじっと見る。彼の目は半開きで、呆れた表情をしている。どうやら不正解らしい。これがクイズ番組だったら、罰ゲームで俺にガスが噴射されるか、床が開いて水に落ちていることだろう。



 少年は椅子から立ち上がると、ため息をつくような息遣いで俺に話す。呆れを通り越して面倒になっているらしい。正直、そこまで落胆されるほどの事をした覚えはないんだが。


「わかったよ、もぅ。こっちの素性を教えるから、君のこともちゃんと話してね。やくそく」


 んっ! と小指を立ててこちらに突き出した。指切りだろうか。海外にも似た文化があるらしいが。洋風の世界で指切りっていうのもおかしな話だ、と少し笑ってしまう。


「俺の素性っていっても、話すようなことはほとんど無いぞ。それでもいいなら指切りだ」


「うん、小指の誓いだからねっ」


 指切りをした俺達はどちらが先か分からないほど同時に、声を出して笑った。何故笑ったのかは分からない。なんとなくそんな空気になったから、としかいえない。

 でも、不思議と安心した。なんていうか、この子と一緒だと素の自分でいられるというか、この世界に来て感じている不安を忘れられる。


 この子とはいい友達になれるかもしれない。そう感じるほどだ。


「ふふふふ……。なんでだろう。君と話してたら気が緩むよ。ほんと、不思議な人だね」


「俺もだよ。君相手だと落ち着くっていうかさ。なんか、安心する」


「ありがと……。よし! じゃあ言うね、こっちの正体!」


「おう、どんな身分でも驚かないぞ」


 帽子の少年は両手を力強く握り、顔の前に持ってくる。

 緊張と、自分への鼓舞。その姿を見るだけで、こちらも聞く覚悟が求められているようだ。


 少年が口を開け、いざその正体を口にしようとした。


「実は私ね―――」






「姫様、ルビア姫! こちらにおられましたか! ティウ団長からお聞きしているとは思いますが、旅人を陛下の元へ連れて行くことになったため、ぜひご一緒に……。お取り込み中でしたか?」


「そう、ですね」


「……ご一緒にどうですってさ。……ルビアさん?」


「ええと、その……!」



 目の前であたふたと慌てふためく帽子の少年ことルビアは、実は少女だった。

 しかも、高貴な立場だとは思っていたが、まさかのお姫様だったとは。

 ということは、この格好は男装か?他所の国に行ってる間、身分を隠すための格好ということか。なるほど、どこに帝国の手の者がいるかわからないし、男装というのはいい考えだ。




 ……あれ?


 この王国のお姫様ってことは、えっと。つまりこの子は……?


「旅人さん……じゃなくて、トール……さん。あの、私がこのミズガルズ王国の姫ルビア・ミズガルズ……です」


「こ、こちらこそ。つまり、君……じゃなくて、あなたは」


 ルビアは帽子を脱ぎ、まとめられた髪を解く。開放された髪の毛はまるでシルクのように光を反射し、海岸の波間のように揺れる。その色は茜色。まるで輝くルビーだ。

 ルビアは恥ずかしそうに笑う。


「そんなにかしこまらないでよ。なんか、恥ずかしいなあ」


「…………」


 親しみやすい。話しやすい。ありのままでいられる。イケメン。少年。

 ルビアに対して色々な言葉を送った気がする。しかし、そのどれもが少女に向けて言うべき言葉ではなかったかもしれない。

 正直やってしまったと思った。今すぐ数時間前に戻って、気の利いた言葉の一つや二つくらいかけてやりたい。



 ああ。

 俺がこの世界に来て初めて意気投合した少年改め少女は。

 俺がこの世界に来るきっかけとなった、没ヒロインのお姫様だった。

 写真でみた容姿よりも幼いが、間違いなく彼女だ。

 俺は突然の出来事に言葉を発せなくなっていた。

 

 茜色の髪の毛をしたお姫様、ルビア・ミズガルズ。

 俺がこの世界に来た理由。ゲーム内だと死んでいて影も形もない、しかしデザインだけは存在する没ヒロイン。俺が、守りたいと思った相手。


 唐突な出会いに呆気にとられていると、そんな俺を見てルビアはクスクスと笑う。しかし照れた表情で口元を手で隠した。


「どうしたの? まるで鳩が豆鉄砲を食ったような顔だよ」


「その表現この世界でもあるんだな……ってそうじゃない。君、お姫様……だったのか」


「うん。改めまして、私はこの国の王女。フルネームはルビア・シフ・ミズガルズ……です」


「ミドルネームあるんだ? ああいや、不思議がるのもおかしいか。貴族や王族にはありふれたものだったりするもんな」


「ううん、違うよ。私はこの国で唯一ミドルネームが付いてる人間なの。理由はまあ……色々あるんです。なの」


 そう言いい、ルビアは話を打ち切るように椅子から立ち上がる。そして俺の手を握った。



「な、なんだよ急に」


「君のことで城の中は大変なことになってるの。だから国王に謁見して、事情を話して貰う必要があるんだよ。だからほら、立って立って!」


「そりゃ、俺の身分が怪しかったり、団長と殴り合ったり問題行動多いもんな……。お咎めなしなわけがないか。それで、俺は何を話せばいい?」


 俺の問いにルビアはうーんと唸り、唇に指を添えて視線を空に向ける。

 少しアヒル口になっているのが、年相応に無邪気な感じがして微笑ましい。


「んーとね。この国に敵意はない。なので安心してくださいって説明したら大丈夫だと思うよ」


「説明ねえ……。それって、王様だけに話すわけじゃないよな?」


「うん。大勢の家臣たちも見てると思う」


 俺は王様に謁見する光景をイメージする。

 大きな広間で、一番奥には玉座がある。扉から玉座にかけてはカーペットが敷かれており、その両サイドを騎士、役人が見守っている。そして貴族が俺のことをじっとりと伺っている。


 ……想像しただけでアウェイな雰囲気に鳥肌が立つ。


「き、気まずいな。それに、俺の言うことを信じてもらえるかな」


「一生懸命、自分の気持ちを伝える。馬車の中でそう言ってなかった?」


「……まさかこんな短時間で自分の言葉が返ってくるとは思いもしなかったよ。もうちょっと無責任なこと言っておけばよかったかな……」


「この国に敵意はないんだよね? ……ね?」


 ルビアは心配そうな顔をして俺を見る。

 そうだ、何を迷ってるんだ俺は。この子のために全力を尽くすと誓ったじゃないか。

 俺の立ち位置をはっきりとさせるために、大勢の人間の前で話すくらいどうってことない。

 それに、この子にとっても俺は知り合ったばかりの他人。

 彼女も俺が味方なのか不安なはずだ。この少女の顔を曇らせる訳にはいかない。


「そうだな。人前で話すのは緊張するけど、精一杯頑張るよ。俺はこの国の味方で、帝国の敵だってね」


「うん! ちゃんと話せばみんな分かってくれるよ!」


 ルビアの顔から不安の色が消え、一気に笑顔が咲き誇る。


 この子の表情は見ていて気持ちがいい。やはり彼女には笑顔こそ似合っている。

 ただ、よく考えればこの世界の帝国には恨みは無い。ゲームと同じことをしているなら、許せないのだけど。帝国の実情もまだ分からないし。

 だから、俺の心はいまいち踏ん切りがついていないのかもしれない。

 先程のティウとの戦いで、ルビアを助けるため、この国に助力する覚悟は決まった。

 だが、帝国と戦うことに対しては、まだ実感が湧かないのだ。





「なあ、帝国って最近魔族差別を撤回して、移民受け入れとかやってたかな」


 少し物忘れをした、という風にルビアに質問を投げかける。


「う、うん。確か今の皇帝が即位してからかな。それまで帝国は反魔族派の国だったのに急に受け入れ路線に変わったよね」


「あーそうだったな、うん。ありがとう。ここのとこ長旅で世間の情報に疎くてさ」


「そっか、旅人も大変だね」


 本当に大変だよ。なんせ、俺はこの世界の情勢は全く分からないのだから。

 支えになるのは、エタドラのストーリーで得た情報のみ。それもこの世界の情勢と食い違っていたら、意味をなさない。



 だが、今のルビアの返答で確信した。


 帝国はエタドラのストーリーと同じ動きをしている。

 皇帝は世界征服を企む黒幕だ。

 魔族を戦力として取り込むために、帝国の法を変え魔族擁護の国へと変わった。

 しかし、実際は酷いものだった。魔族は帝国内では最下層の身分を与えられ、人間以下、家畜同然の奴隷にされていた。

 逆らえば死刑。家族も道連れだ。

 逃げ出そうにも、帝国に移住した際に首輪型の魔道具がつけられる。帝国領土から逃げ出せば首が飛ぶという悪趣味な代物だ。


「結局、この世界でもやることは同じか……」


「? どうしたの、トール……さん」


「いーや、まだ迷ってるけど帝国を相手に頑張るってね」


「う、うん! 一緒に頑張ろうよ! 協力してくれる国も心当たりがあるし。君とティウが手を合わせれば、きっとだいじょうぶ!」


 彼女はそう言って、俺の手をぶんぶんと振る。

 さっきから気になっているが、彼女はやたらボディタッチが多い。同年代の男と会ったことがないといっていたが、それ故距離感が近いのだろうか。

 年下の子に懐かれるのは慣れないからか、少し照れるな。


「でも不思議だなあ。写真で見た時は儚い美少女って感じだったんだが」


 実際の彼女をみると、かわいいお子様って感想が出てくる。写真を見たときの胸が熱くなるような感じはしない。



 はしゃぐ姿は心が癒やされるから、これはこれで可愛らしいのだが。

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