第3話 残暑と夜 ―― 交換。
――― ポンポン。
後ろを振り返ると大崎くんがいた。たぶん、目が合っているから、大崎くんが肩をトントンと叩いたと思う。でも、何も言わない。
『…?』
(ん?大崎くんじゃないのかな…?)
わたしが目を開いて、首を傾げていると、大崎くんが調理器具を指さしていた。
『…???』
さらに謎は深まる。何を伝えたいのか、わたしは一生懸命考えた。
『あ!置き場所が分からないんだ?!』
「…。(コクン)」
『ここの棚の1番上の左側だよ〜!
てか、しゃべって質問してよ〜(笑)』
「…。(コクン)」
「…ありがとう」
『どうたしまして!!』
(って!あれ?!しゃべった?!)
『大崎くん!しゃべれたんだね!(笑)』
「…。(コクン)」
この時ついに初めて大崎くんの声を聞くことが出来た。そして、最後に頷いたときに少し笑った顔だった。予想外の出来事に、わたしはとても嬉しかった。
(わーい!ついに声が聞けた〜!
目的すっかり忘れてたけど、達成したぞー(笑))
その日以降も大崎くんは相変わらず、会話は頷いたりでのことが多かったが、わたしはまた声が聞きたいのと、大崎くんに対して更なら興味が湧いて話しかけ続ける日々を送った。
気付けば夏休みも終わり、お店の売上も60万ぐらいに落ち着いてきていた。そのため、ラストオーダーで帰れる日が増えていった。
(やったー!ラストオーダーだ!帰れる!!
今日は遊ばず、まっすぐお家に帰ろう〜)
更衣室で着替えを済ませ歩いていると、前を大崎くんが歩いていた。
『大崎くーーーーん!!』
大崎くんは振り返って、小走りで駆け寄るわたしを待ってくれた。いつも一方的に話しかけて、ウザ絡みに近くて迷惑かな?と実は、不安に思っていたため、大崎くんが立ち止まって待ってくれる事が、不安を消してくれるようで嬉しかった。
『大崎くんもラストオーダーまでだったんだね!
途中まで一緒に帰ろうよ!』
「…。(コクン)」
『そーいえば!
近々ね、みんなで遊びに行く計画しようと思ってて、もし良ければ大崎くんも一緒に行こうよ!
どうかなー??』
「…。(コクン)」
『わーい!楽しみだね〜♪』
「どこに行く予定なの?」
『うーん、結構大人数になりそうだから、スポッチャにしようかなーって思ってるよ!』
「ふ〜ん」
『スポッチャ嫌だ???』
「別に、どこに行くのかと思っただけ」
『ならよかったー!』
(わー、今日はいつもより会話してる〜!
嬉しいなぁ♪嫌がられてないみたいでよかった!
メールとかなら、もっと普通に会話できるのかな〜?アドレス聞いてもいいかな?聞きたいなぁ)
そんなことを考えながら、スポッチャに行く時間や方法などを一緒に決めているうちに、家の近くに着いていた。すぐそこの角を曲がれば家だが、道の端のほうに寄ってそのまま少し会話を続けていた。
『さっきのスポッチャの件、あとでみんなにも詳細メールで回すね!念の為、大崎くんにもメール送りたいから、メアド聞いてもいいかな?』
「わかった」
この頃のメアド交換の方法は、赤外線での交換。お互いに赤外線でメアドを交換をし、家に帰ったらメールを送る約束をして大崎くんとバイバイした。
(なんだかメアド交換するの緊張したー!
同じバイト先なんだし、普通なことなのになぁ、わたしなんでこんな緊張したんだろう?)
いま思えば、この緊張したことや気持ちを考えたら、どうしてなのか分かるのだけど、この頃のわたしにはまだ理解できない気持ちだった。
―――この気持ちの名前を知るのはもう少し先。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます