黒い人、黒幕と対峙する。
黒い人が風車の方に向かっている途中、キヤイが道の真ん中に立っていた。
≪ふむ…何が原因なのか…夢の魔法の一部が動かないんだ…。…なぁ。どこぞのキメラ君。≫
黒い人はそれを見つけると、馬を止めて降り、馬を遠くまで逃した。
≪…おや、良かったのか?逃げる手段を自ら潰して。≫
「お前の場合、合理的に行くならまずは足を削ぐために馬を殺すはずだ。…俺は無用の死は好まない。だから逃がした。」
≪何とも非合理的な理由だ…。私の思考をそこまで読めているというのなら、馬を囮に戦うこともできただろうに…。≫
「…。」
黒い人は、構えながらキヤイに質問した。
「…お前にとって、命とは何だ。」
≪こんな時にお喋りか?呑気なことだ。時間は大切に使うべきではないか?≫
「いいから答えろ。」
キヤイは少し考えた。
≪…繁栄するための土台…とでも言おうか。≫
「…。」
≪私がこうやって夢の魔法を実現させたのも、キメラの犠牲の上でのものだ。お前が生きているのも、お前が殺した数多くの死者の上でのものだ。何かを得るためには何かを犠牲にする。それが、命だと思っている。≫
「…。」
≪…私に喋らせっぱなしか?お前の意見はどうなんだ?≫
黒い人は呟いた。
「…やはり、お前は人間だ。」
一つ舌打ちをして、黒い人はキヤイを睨んだ。
「…命とは、人が操ってはいけないものだ。天命に任せて生を授かり、天命に任せて死を受け入れるものだ。人間が自分を神であると勘違いし、人を殺したり勝手な生命体を作ったりして命を弄ぶ世界は間違っている。」
≪…つくづくお前の考えには理解が及ばない。何故貴様はそのようなことを唄っておきながら、今まで数々の殺人を行ってきた?≫
「俺は…。…キメラは、間違った存在だ。いずれは自ら死ななければならない存在だ。」
≪ふむ。≫
「…だからこそキメラを殺すという罪を背負うことができるのは、俺だけだ。全てのキメラを殺し、負の遺産を壊すことは、俺にしかできないことだ。天命によって正しく生まれた人間達に、キメラを殺すという罪を犯させるわけにはいかない。」
≪…救世主のつもりか?≫
「そんなものではない。むしろ悪の存在かもしれない。だが、それが俺に与えられた使命であると信じている。」
≪人間に罪を犯させないために自分が罪を犯す…。…何とも歪んだ献身だ。≫
「歪んでいるのはお互い様だろう。どちらにせよ、俺もお前も罪を犯している時点で消えなければならない存在となった。…先に消えるのはどちらだろうな。」
キヤイは、少し首を回した。
≪…喋りすぎた。そろそろ始めようか。≫
「…。」
キヤイと黒い人は戦い始めた。
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