異世界でも、計算は狂っていく。(2)

風車の外に出て、俺は黒い人に質問した。


「…一つ聞きたい。お前は、俺達の敵なのか?それとも味方なのか?」

「どちらでもない。俺は人間の愚かな好奇心を破壊する存在。お前が愚かな人間だというのなら敵になる。そうでないなら、お前とは敵でも味方でもない。」

「…。」


俺は黒い人への先入観から、目的もなく人を殺す殺人鬼だと思っていたが、本当は目的が存在していることが意外だった。


「…じゃあ何故、罪もないキメラを殺したんだ。キメラは健全な人間だろ。」

「キメラは、存在自体が間違っている。キメラ達が悪い、悪くないということで殺しているわけではない。」

「…!」


黒い人に言い返そうとしたが、黒い人の視線によって怯んでしまった。


「…今は仲違いしている暇はない。俺とお前の間で、『キヤイを止める』ということで目的が一致しているはずだ。協力してくれ。」

「…。」


黒い人のその言葉に全く裏がないように見えて、逆に奇妙だった。


「…一つ。条件がある。」

「何だ。」

「…負の遺産を破壊するのは構わないが、キメラは殺さないでくれ。あいつらは、俺の大切な仲間なんだ。」

「…同意しかねる。キメラが残ってしまえば、その存在に興味を持つ者が現れることは明白だ。そこから、人間の愚かな実験がまた始まるぞ。どこかの姫のようにな。」

「…!」


俺は何も言えなかったが絶対に折れなかった。

暫くして、黒い人が妥協案を出してきた。


「…お前の働き次第で決める。これでいいか。」

「いや、確実に殺さないと誓え。」

「それは無理だ。」


暫く沈黙し、黒い人はため息をついた。


「…お前が出してきた条件。俺に飲ませたいのは分かる。だが、今はキヤイを破壊することが先決だ。お互いに譲れない議論は時間の無駄だし、命取りだ。だからこそ、俺はお前に強く要求しよう。『協力しろ。さもなくば、キメラを殺す。』…これなら、応じざるを得ないだろう。」

「卑怯な…!」

「どうとでも言え。だが、俺の方がお前より強い立場にいることを忘れるな。」

「…。」


俺は、応じざるを得なかった。


「…何をすればいい。」

「まずは、馬にのせろ。そして村の北に向かえ。比較的新しい建物が建っているはずだ。」


(…あそこか…。)


「分かった。」


俺は長を抱え、黒い人も馬に乗せて北に向かった。



北に向かっている途中、黒い人は俺に、作戦を説明しはじめた。


「お前にやってほしいことを説明するためにまず、奴の『夢の魔法』について軽く教えておく。」

「夢の魔法…。」

「夢の魔法は、その名の通り夢が現実になる魔法だ。そしてこの『夢の魔法』を発動させるには二つの方法がある。一つは、『アルカナ』の持ち主が無意識に発動する本来の方法。これは今回はあまり関係がないから説明は省略する。そしてもう一つは、『アルカナ=フルホールド』の力を使って強制的に実現させる方法。こっちの方法は今まで、様々な国で研究され続けてきた。そして今回、奴が夢の魔法を実現させた方法もこれだ。」

「アルカナ=フルホールドの力を使って…だけど、アルカナ=フルホールドはどこにいるんだ?結局、実現させていなかったんじゃなかったか。」

「奴は、人工的にアルカナ=フルホールドを作り上げたんだ。」

「…?」

「…気付かなかったか。キヤイは墓の中に入っていながら、なお生きていた。その証拠に、キヤイがかけた魔法である村の魔法陣は1000年以上の間消えることがなかった。」


俺は、魔法の原則を思い出した。


「…!『魔法は術者がいないと成り立たない』…。ということは、1000年以上の間、キヤイは存在し続けた…?」

「そして、この街を囲んでいる魔法陣。非常に強力な『防御』の魔法だ。」

「…!まさか…!」

「…『不老不死』…『絶対防御』…。そのアルカナは既にあいつが作り上げていた。」

「…残りの『最強無敵』は?」

「恐らくそれは、後の時代でジャジカプが作った『俺』の力を使うことで代用した。さっきの永久機関だ。…そして全てが揃ったから、夢の魔法を実現することができた。」

「なるほど…。」


黒い人は、一つ間を開けて言った。


「…だが、逆に言えばこの内のどれか一つでも破壊することができれば、夢の世界は崩壊していく。そしてその内、『絶対防御』が最も崩しやすそうだ。」

「理由は?」

「防御の魔法陣は俺が60年前に一部改編し、脆くしている。だからその部分から崩していけば、奴を倒せるようになる。」


(…あの、壁が薄い部分か…。)


「具体的には、どうやって崩していくんだ?」

「あの部分から順に村の建物を壊していく。そうやって魔法陣の形を、魔法が機能しなくなるまで崩すことができれば勝利だ。」

「あいつがこの村を支配するのが先か、俺たちが奴の魔法を破壊するのが先か…。」

「そういうことだ。」



居酒屋に着いた。

既に村民は避難しているようで、居酒屋の中には誰もいなかった。

黒い人は店の中に入ると、真っ直ぐ店の奥に入っていき、慣れた手つきで地下への隠し扉を開けて下に入っていった。

暫くして、黒い人は大量の武器を持って出てきた。


「それは…」

「戦争中に使われていた武器だ。これを使って、破壊していく。」


黒い人は外に出ると、慣れた手つきで手榴弾の栓を抜き、居酒屋を爆破した。


「…。」


煙が消えると、そこには居酒屋が傷一つ無い状態で建っていた。


「…村の建物も、既に奴の魔法の範疇か…」

「攻撃が効かないならどうする…?他に手は…」

「…魔法が不完全である以上、脆弱な箇所が何処かにあるはずだ。それを探すしかない。」


黒い人は馬に乗り、手綱を引いた。


「俺は風車とキヤイ本人を叩いてみる。お前はそこで引き続き、街の破壊を試みろ。」


黒い人は、北に向かって行った。

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