異世界でも、こういうときは大体黒幕がいる。(6)

キヤイは黒い人から何かを吸いとり、体に活気を戻していった。

黒い人は無理やりキヤイから腕を引き剥がすと、腕を外套の中に隠した。

触られた部分を手で払ってから、黒い人はキヤイに話しかけた。


「…お前がキヤイか。」

≪いかにも。…失礼した。こちらも完全に復活するにはエネルギーが必要だった。≫

「…別にいい。元からそのつもりだった。」


すると、キヤイはこちらを向いた。

キヤイがスッと手を上から下に下げると、俺の足が動くようになった。


「…!」

≪アナイ。お前にも迷惑をかけたな。私からこの世界に招待しておいて、放置してしまった。≫

「…」


俺は、何が起きているのか理解が追い付かなかった。


(…動けなくなる魔法はキヤイの魔法か…?なら何故、復活する前の、棺桶に入った状態で魔法を使えた…?)


キヤイは黒い人に向き直った。


≪目覚めさせてもらった礼だ。何か一つ、何でも願いを叶えさせてやろう。≫

「…何でもか。」

≪ああ。≫


すると、黒い人は長を持ち上げた。


「…なら、こいつをアルカナ=フルホールドにしてくれ。」


俺はさらに理解に苦しむ発言を聞き、頭が動かなくなった。

どうやら疑問に思ったのはキヤイも同じようで、キヤイは黒い人に質問した。


≪…お前自信ではなく、その小娘をか。≫

「ああ。」

≪…何故、そんなことをする?≫




「アルカナ=フルホールドを完全に破壊するためだ。」




すると、キヤイは笑い始めた。


≪ハッハッハ…。血気盛んなことだ。…だが、その望みは叶わない。≫

「…お前はアルカナ=フルホールドを作れないのか。」

≪作ることはできる。しかし、誰もその存在を倒すことはできない。だから叶わない。≫

「…。」

≪…だが、一つだけ奴を倒せるかもしれない方法がある。≫

「それは何だ。」

≪…夢の魔法を完成させることだ。≫

「夢の魔法…。」

≪夢の魔法とは、自分が思い描いた通りのことが全て現実になる魔法だ。それを使えば、アルカナ=フルホールドも破壊できるかもしれないな。≫

「夢の魔法は知っている。だが、どうやって完成させるんだ。」


すると、キヤイがニィッと笑った。


≪…この街に描かれている魔法陣。あれを完全に起動させることができれば、夢の魔法は実現することができる。そしてそれを起動させるためには、お前の協力が必要だ。≫

「…。」

≪お前が協力してくれるのなら、私はお前の望みを叶えよう。…どうだ?≫

「…。」


黒い人は、暫く考えていた。恐らく、相手の考えの裏を読もうとしているのだろう。俺自身も、キヤイの言っていることには裏があるような気がしていた。

しかし、黒い人が出した結論は肯定だった。


「…分かった。何をすればいい。」

≪…まずは、その小娘をこちらに持ってこい。≫

「…。」


すると、黒い人は長を持ち上げた。

俺はハッと自我を取り戻し、長を助ける為に動こうとした。

しかしキヤイが手を下から上に上げると、俺の全身が動かなくなった。


「…!」

≪…アナイ。お前はもう用済みな存在だ。そこで見ていろ。≫


俺は必死に抵抗したが、指一本すら動かすことができなかった。

黒い人がキヤイの前に長を置くと、キヤイは指示を出した。


≪まず、この小娘に『不老不死』のアルカナの一部を組み込む。…ここに海竜の髭はある。お前が組み込め。≫

「…一つ聞きたい。」

≪何だ。≫

「不老不死のアルカナを組み込んだとして、夢の魔法でこいつを殺せるのか。」

≪雑作もないことだ。≫

「…そうか。」


すると黒い人は外套から両腕を出し、魔法をかけ始めた。

俺はキヤイの魔法に必死に抵抗しながら、その様子を見ていた。


(長が…改造されていく…!)


しかし、俺はその場から一歩も動けなかった。



暫くして、黒い人が魔法をかけ終えた。


「…完了した。」

≪なら次はこちらに来て、石の墓の上に立て。≫

「…。」


黒い人は、長を持ったまま石の墓の上に立った。


「…それで、何をする?」

≪その場所は、この村の魔法陣の中心。そして、魔力の補給や供給が行われている場所だ。…お前はその場所で、小娘を殺し続けろ。≫

「…!」

≪相手は不死だ。いくら『生に死を与える魔法』を使ったところで死なない。…だが、エネルギーだけは確実に放出される。≫

「…なるほど。この行動の目的は永久機関の実現か。」


すると、キヤイは満足そうに笑った。


≪…その通りだ。聡いな。≫

「…馬鹿馬鹿しい。そんなもののためにアルカナの力を二つも使うのか。」

≪私はこれが最も実用的な使い方だと思うが。アルカナ=フルホールドなどというものは獅子のように制御が効かない。実現したとしても、誰も幸せにならない。≫

「…それについては同意する。」


そういうと、黒い人は長の首を掴んだ。


「…始めるぞ。」


その瞬間、地下を黒い霧が包み込んだ。


「ああああぁぁぁぁっっっ!!!」


長が苦しみの声をあげていた。

俺はそれを目の前にしながら、未だ動けずにいた。


(もう…止めてくれ…長があんなにも苦しんでいるのに…俺は何もできないなんて…!)


その時、急に上の方から地響きがしはじめた。


≪…素晴らしい…。私の計算は全て上手くいっている…!≫


段々と地響きが大きくなっていき、体が浮き上がっていくような感覚になった。


≪さぁ…深い夢の世界へ…!≫

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