異世界でも、こういうときは大体黒幕がいる。(5)

村に戻ると、何か様子がおかしかった。


「…何だ…?この壁…。」


村に入ろうとすると、見えない壁が行く手を阻んだ。


「…村の魔法陣か…。いつもなら発動していなかったはずだけど…。」


俺は、以前に聞いたシャルルの話を思い出した。


「…確か、どこか防御の薄い部分があるって言ってたな…。」


俺はその部分を探した。



少し探して、一部壁の無い部分を見つけた。

そこは、居酒屋をやっているやけに新しい建物前だった。


「…なるほど、ここか…。」


俺は村に入り、自分の家に向かって走った。



するとその道中、一人のキメラに出会った。

キメラは俺に気がつくと、手を広げながら、俺に止まるように指示した。

俺は馬を減速させ、キメラに話しかけた。


「どうした?何かあったのか?」

「長が…長が…!」

「…!長がどうしたんだ!?」



「…長が拐われた…!」

「!!!」



「ほんの少し…長が外の様子を見に行った時に…一瞬で姿が消えて…!」

「…分かった。じゃあ、戻ってキメラ達に伝えてくれ。戦えるキメラは長の捜索に向かおう。戦えないキメラは絶対に俺の家から出ないで、常に誰かと一緒に行動するように。」

「分かった…。」


キメラは走り出した。


(…一瞬で姿が消えたということは、『黒い人』が透明化の魔法を使ったということで間違いないだろう。…爺さんの話が本当なら、奴は風車に向かっているはずだ。)


俺は馬を走らせて、風車に向かった。

向かいながら、俺は自分の扇子に手をかけた。


(…俺が『黒い人』の前に立って、何ができる…?武術も習ったことの無い俺が対抗できる手段は…。)


俺は、自分の魔法を見直した。


(…透明化、防御、回復、そして水銀…。…この中では、水銀が一番戦いに使えそうか…。確か気化した水銀は非常に高い毒性があったはず。…だが、これは諸刃の剣だ。俺だって気化した水銀を吸い込めば死ぬ。)


そう考えているうちに、風車の前に着いた。

俺は馬から降り、風車の周りを観察した。

すると、風車の入り口が開いていた。


「…!」


俺は、透明化と防御の魔法を使って風車の中に入った。



中に入ると地下への階段があり、階段の壁には、松明がまだ燃えていた。


(…誰かいる…。)


俺は、足音をたてずにゆっくりと階段を降りていった。

階段の松明は途切れることなく燃え盛っていて、遂に階段の終わりまでたどり着いた。


(…この先に黒い人が…)


と、俺が階段の最終段を降りようとした時、視界の先に長を見つけた。

どうやら気を失っているようで、長は動いていなかった。

咄嗟に長を助けようと階段を降りた瞬間、今度は俺の足が氷のように固まって動かなくなった。


(…いた…。)


長の横に、黒い外套を被った何者かがいた。

それが誰かは、雰囲気ですぐにわかった。


(…あれが…黒い人…!)


俺は息を殺し、寝ている虎を起こさないような気持ちで後ずさりをした。

俺は、長を助けなければならないと分かっていながら本能的に後ずさってしまう自分に喝を入れた。


(何で逃げようとしているんだ…!長を助けるんだろ…!前に進め…!)


しかし、それでも体は後ろに下がっていく。

俺は歯を食い縛り、足に力を込めて、何とかその場に止まった。

そして、段々と上がっていく息を整えながら、俺は恐怖に立ち向かった。


(…とにかく、まずは長の救出だ。幸い奴は今、長を視界に入れていない。今ならやれる…!)


と、意気込んだ時、俺の透明化の魔法が切れた。

しかし相手はこちらを見ておらず、間一髪のところで見つからずに済んだ。

俺は落ち着いて対処し、ゆっくりと懐にある扇子に手をかけた。

しかしその時、俺の手が震えたせいで床に扇子を落としてしまった。

扇子が床に落ちる音が、静寂の中に響きわたった。


(…!!まずい!)


黒い人が、こちらを向いた。


「…。」

「…。」


すると、黒い人は少し微笑んだ。


「中々面白い客人だな。…会えて光栄だ。アナイ。」

「…悪いが、俺は義仲だ。アナイじゃない。」

「それは失礼した。…ヨシナカ。私は今から非常に危険なことをする。君の身に危険があるといけないから、そこを動かないでもらいたい。」


俺は、今さら俺の身の安全を心配する黒い人を見て怒りを感じ、一気に戦う勇気が湧いてきた。

俺は、挑発するように言った。


「…もし、俺があんたを全力で止めると言ったら?」


すると、黒い人は少し悲しそうな目をした。


「…交戦は避けられないだろうな。」

「…上等だ。」


俺は階段から一歩前に出た。

その瞬間、黒い人がとてつもない速さで間合いを詰めてきて、俺の鳩尾を突いた。


「がはっ…!」


俺は、一歩後ろに尻餅をついた。


「…そこでいい。」


黒い人は、そのまま振り向いて石の墓に向かった。


(強い…!普通に戦っても勝てない…!)


俺は、今度は扇子を取って防御の魔法を自分にかけ、また立ち上がって一歩前にでた。

すると黒い人は俺の鼻と喉に手を伸ばし、俺の呼吸を封じた。

俺は必死に抵抗したが、酸素が入ってこない分力が入らず、全く歯が立たなかった。

俺の防御の魔法が切れるまでの間、俺は呼吸を封じられ、防御の魔法が切れたタイミングで鳩尾を突かれた。


「はぁ…!はぁ…!はぁ…!っ…はぁ…!」

「…そこでいい。」


黒い人は、振り返って石の墓に向かった。

俺は、思わず『勝てない』と思ってしまった。

しかし、俺はそんな弱気な思いを制して立ち上がった。


「まだだ…!」


俺はもう一度立ち上がり、一歩前に出ようとした。

しかし、今度は何か分からない力によって俺の足が動かなかった。


(…俺は…まだ恐怖してるのか…!?)


だが、その感覚は恐怖とは別物だった。

動かそうとしているのに動かないというより、何か抵抗の力が働いて動けないという感じだった。


(…まさか…魔法…!?)


「…っく…!」


黒い人はこちらを向いたが、俺の様子を見て、肩の力を抜いた。


「…。」


すると黒い人は振り返って、石の墓に手をかけた。


「…この中にキヤイが…」


黒い人は怪力で石の蓋をこじ開け、中身を見た。


「…。」


中には、ミイラ状態で保存されているキヤイがいた。


「こいつに、生命のエネルギーを与えれば…。」


黒い人は、キヤイに手を伸ばした。





その時、キヤイが黒い人の手を掴んだ。





「…!」


驚いた黒い人は、思わず手を振りほどこうとした。

しかしその手は離れず、キヤイの目が開いた。


≪…遂に条件が揃ったか…。≫


キヤイは黒い人から、エネルギーを吸いとり始めた。

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