異世界でも、こういうときは大体黒幕がいる。(4)

俺はシャルルを連れて、馬に乗って北の草原に向かった。


「…あの、草原にいると言ってもですね、草原は気が遠くなるほど大きいんですよ?そもそも人に出会えるかも怪しいのに、そんな闇雲な探し方で見つかりますかね…?」

「見つかる。」

「…。」



俺達は暫く草原を回った。


「…。」


何故か知らないが俺は爺さんに会えると確信していた。

北から冷たい風が吹き、一面の草むらが揺れた。


「…。」


俺はその風に呼ばれるように北に向かった。



「…あ!あれってもしかして…。」

「…いた。」


俺は爺さんを見つけた。

俺は爺さんの方に向かった。



「…!」

「…お久しぶりです。」

「…隣のは…姫か。」

「はい。」

「…入れ。」


俺達は馬から降り、爺さんの簡易式の住居の中に入った。



「…何か飲むか。」

「大丈夫です。」

「私も大丈夫です。」

「…そうか。」


爺さんは腰掛けに座った。

俺たちにも座るように促してきたので、俺達も座った。


「話は大体分かる。風の動きが奇妙だ。…奴が出たんだな。」

「はい。」


爺さんはコップを取り上げ、何かの液体を飲んだ。


「…単刀直入に聞きます。あなたが黒い人を造ったんですか。」


爺さんはコップを置いた。


「…そうだ。」


俺はそれを聞いて、困惑と怒りの混じった感情が一気に沸き上がってきた。


「…あなたは何故、あんなものを…!」


すると、爺さんは苦渋に満ちた表情をした。


「…全ては、俺の若さが悪かった。くだらない好奇心が。」


すると、シャルルがビクッと反応した。


「…好奇心ですか。」

「ああ。」

「詳しく聞かせてください。」

「…長くなる。大丈夫か。」

「できるだけ短くお願いします。私たちには時間がありませんので。」


すると、爺さんは語り始めた。



「…俺は14のとき、炭鉱で働いていた。当時は隣国と戦争が間近だったから、軍事目的で都と大量の石炭が売買されていた。俺たちは馬車馬のように働かされてた。そんな中で、俺は日常のストレスを解消する方法として、魔法の研究をしていた。」

「魔法の研究…。」

「研究といっても、14のガキがすることだ。そこまで本格的なものじゃない。ほとんどお遊びだ。」


爺さんは、咳払いをして話を戻した。


「…俺の魔法には、一つ特殊なものがあった。それは、『死に生を与える魔法』だ。この魔法は読んで字の如く、生き物を甦らせる魔法だった。」

「生き物を甦らせる魔法!?そんなの、今までの魔法学を覆すほどの魔法ですよ!?」

「そうかもしれんが、当時の俺は教養も無かったし、よく分からなかった。だから安易に手を出してしまった。」

「…無知ゆえの過ちですか…。」

「…まあ、この魔法にもデメリットがあった。それは、必要とする魔力の量だ。一つの命に一つの命と同等の魔法量が必要だった。だから、一人を生き返らせるには、一人の人間を殺して生け贄にするか、一人の人間と同じ魔力…計算上は、500000000本の薪が必要だった。」

「…なるほど…。」

「知人に『理を知る魔法』を使う奴が居たから、俺の魔法が『死に生を与える魔法』であることは分かっていた。だが、まだ14の俺は、それを発動させる手段が無かった。だから、ただただ好奇心だけが募っていった。」

「『理を知る魔法』…?アイリスの魔法に似てますね…。」

「…色々と用途はあるが…固有の魔法を分析することができるんだ。…小僧。お前は会ったことがあるだろう。」


俺は、村に来た初日を思い出した。


(…あのお爺さんか…。)


「まあ、その話はどうでもいい。…ある日のことだ。」


爺さんは、椅子に座り直した。


「…草原を歩いていると、人の死体を見つけた。死んでから既に3日ほど経過しているようで、腐敗が進んでいた。見ると、顔はこの村のものに似ているが、衣装はこの村のものではないし、見たこともない素材でできていた。だから俺は、『その人物はこの草原を放浪し、生き残れなかった異民族』と解釈した。俺には関係ないし、放っておこうと思った。だが…」

「…。」

「…好奇心でその死体を持ち帰り、研究材料にすることにした。」

「…それがアナイさんですか。」

「あぁ。その当時はまだアナイという存在を知らなかったがな。…そして研究を続けているある日、俺はあることに気が付いた。それは、そのアナイの肉体の一部を使うことで、俺の『死に生を与える魔法』を発動するための魔力が賄えるということだった。…まあ、もう少し正確に言えば、アナイの能力は『命を操る』というものだった。」

「…少し…理解が難しいですね…。」

「簡単に例を挙げれば、髪の毛で人が一人造れるようになった。こうやって、俺の髪の毛を抜いて、あとはこれを死体の肉の一部と合わせて魔法を使えば、俺の分身が出来上がる。」

「…!そんなの、凄まじい能力じゃないですか!」

「あぁ。凄まじかった。俺は実際にそうやって黒い人を造った。そして結果がこれだ。」

「…!」

「俺は後になって自分の行動を恨んだ。程なくして戦争が始まり、奴は多くの人を殺した。周りの敵を全て殺すと、次の獲物を求めて町中を歩き回った。…だが、当時はそれが正義だった。だから奴は、『英雄』と持て囃された。」


俺は、村に来て最初に読んだ本を思い出した。

確かにあの本では『黒い人』を『英雄』として賛美するような記述が多く存在していた。


「…俺は、危機感を感じていた。この戦争が終わった後、あの矛先はどこに向かうのかと。だから、奴を止めるために俺は各国に俺の魔法が書かれた魔法陣とアナイの四肢を送り、奴を止められるキメラの開発を依頼した。」

「…そこで、長やアニキさんが生まれたんですね…。」

「…奴を止めるためには最早、アルカナの力に頼らざるを得なかった。各国はアルカナに近い能力を持ったキメラを作ろうとしたり、それぞれの国に存在している物怪から遺伝子を取り出し、キメラに組み込んだりした。…しかし、そいつらが戦う前に戦争は終わり、キメラは要済みになった。」

「…。」

「…ただ、分かったこともあった。奴の研究が進んでいくうちに、ある一つの事実が判明した。それは、俺には『死に生を与える魔法』の他に、『生に死を与える魔法』を持っているということだった。普段なら、生命の護りが存在していて発動しないはずだった。だが、奴はアナイの『命を操る』能力で例外的に、その生命の護りを無視して魔法を使うことができた。そして、俺の遺伝子を受け継いでいる『奴』は、『生に死を与える魔法』を使うことができた。」

「その魔法が、多くの人を殺していたんですね…。」

「…だが、逆に俺はそれを聞いて、奴を倒す最後の手段を思い付いた。」

「最後の手段…?」

「…俺自身がキメラとなって、奴に『生に死を与える魔法』を使う。これが、俺が考えた最後の手段だった。」


俺は耳を疑った。


「…!じゃあまさか、爺さん、あんた…!」

「…ああ。今の俺はキメラだ。」

「!!!」


俺は暫く口を半開きにして驚いた。

しかし、爺さんはそれを無視して話を続けた。


「作戦決行の日、俺はアナイの細胞から遺伝した防御の魔法と透明化の魔法を使って奴の背後に回り込み、首筋を掴んで『生に死を与える魔法』を発動させた。」

「…それで…どうなったんですか…?」

「…殺せなかった。」

「…!何で…!」

「魔法の原則。知ってるか?」


俺は少し考えた。

そして、答えを見つけた。


「…『魔法をかける対象として、自分で作ったものを指定できない』…。」

「そういうことだ。そしてこう言われた。『お前も殺す』と…。」


純粋な殺意の言葉に、背筋が凍るような感覚を覚えた。


「…俺は奴を殺せなかった。だから俺は必死で逃げて、身を隠した。」


すると、シャルルは自分の知っている話との食い違いに気が付いた。


「…あれ…でも、歴史書では『黒い人が自殺しようとした』となっていたはずですが…」

「それは、記録上では俺と奴が同一人物として書かれているからだ。国が英雄まで仕立て上げた奴が憎むべきキメラだったなんて知られたら、国の信用が落ちるからな。」

「同一人物…。なるほど。それなら辻褄が合いますね。」

「…そして俺は、せめてこれ以上キメラを増やさないために、俺が各国に配ったアナイの四肢を回収する旅を始めた。…それが、奴を造った償いになるとは思っていなかった。だが、けじめとして俺は世界中を歩き回った。…丁度半年ほど前、俺は全ての四肢を集め終えた。」

「それを…どうしたんですか?」

「復活させた。そもそも、アナイが死んでいたからキメラが生まれた。なら、アナイ生き返らせればキメラは生まれない。だから、俺が飼っていた何頭かの馬を生け贄に、アナイを復活させた。」

「…それで、アナイさんは今はどこに…。」

「ここだ。」


爺さんは、俺を指差した。


「…え?」


シャルルは、大分状況を掴めていない様子だった。


「…ヨシナカはヨシナカですよ?何を言ってるんですか?」

「…お前、ヨシナカというのか。」

「まぁ…。」

「…なら、はっきりと説明してやる。」


爺さんは、声を大きくして言った。




「小僧は60年ほど前、キヤイが残した魔法によってこの世界に入ってきた。そして、小僧は草原の真ん中で死んだ。それから60年ほどの間、お前はアナイという名でキメラの実験道具として扱われ、そして今年、お前はヨシナカとして復活した。」




「嘘です!!!!!」




シャルルが叫んだ。


「…全て本当のことだ。」

「嘘です…嘘です…それじゃあ私…都で…ヨシナカを…!」


シャルルの顔が、真っ青になっていく。


「…おい、シャルル。大丈夫か?」

「…!!!」


俺がシャルルの肩に手を置くと、シャルルは俺の手に恐怖して後ずさった。


「…シャルル?」

「あ…あぁ…ああ…!!」


シャルルは俺の腕を見ながら、泣き始めた。

それを見ていた爺さんは、シャルルにコップを渡した。


「…一旦落ち着け。」




暫くして、シャルルは落ち着きは取り戻したが目が虚ろになっていた。


「…暫くここで休むといい。広い大地は全てを受け止めてくれる。」

「…。」


すると爺さんが俺に、外に出るように手で指示をした。

俺たちは外に出た。



「…姫はあの様子だ。暫く、俺が預かっておく。お前は、奴を追え。」

「奴を追えって言ったって…シャルルが居ないと、黒い人に太刀打ちできないですよ。」

「じゃあ、姫を連れていくのか?今の状態じゃ、恐らく死ぬぞ。」

「…なら、爺さんが来てくださいよ。あなたが黒い人を造ったんでしょう。」

「だから言っただろう。俺は奴を止められない。」

「…。」


俺は、自分一人では何もできない悔しさと、爺さんが全く俺達に協力してくれない怒りで歯ぎしりした。


「…何で急にシャルルがあんな様子に…。…あなたはシャルルに何を吹き込んだんですか…!」


すると、爺さんが難しい顔をした。


「…これは、俺が都の方に行った時に聞いた噂話なんだが…」

「…。」




「…姫は都にいた頃、お前の腕を使ってキメラ開発の研究をしていたらしい。それも、アルカナ=フルホールドを作る上で非常に重要な研究だったそうだ。…もっとも、彼女は好奇心のままに研究しただけで、キメラを作っているという感覚は無かっただろうがな。」




「…!」


俺は、爺さんの胸ぐらを掴んだ。


「あんたはそれを知っていながら、あんな話をしたのか!!!」


爺さんは、怒鳴り返した。


「いつかは知らなければならなかった事実だ!それに、奴について話すように言ってきたのはお前たちの方だろう!」

「…っ!」


反論できず、俺は黙りこんでしまった。

爺さんは、俺の手を払った。


「…今、お前が怒る相手は俺じゃない。誰が殺されたかは知らんが、殺したのは奴だ。」

「その元凶はあんただろ…。」

「今、俺を責めて何になる。説教なら後でいくらでも聞いてやる。今は奴を追え。」

「…。」


俺は、半分苛立ちながら顔を上げて爺さんに聞いた。


「…奴は今、何処にいますか。」

「恐らく、風車に向かっている。」

「…風車?なんで…」

「奴は生まれながらの戦闘狂だ。なのに戦争が終わってからの60年、何を起こすわけでもなく奴は姿を潜めていた。ならば何か理由があるだろう。」

「…それで、理由は?」

「恐らく、奴の目的はアルカナ=フルホールドの実現。奴自信がアルカナ=フルホールドとなり、この世界のありとあらゆるものを破壊することを望んでいる。」

「それが風車と、どう関係するんですか。」

「…アルカナ=フルホールドの存在の提唱者、キヤイがあの風車の下で眠っている。恐らく奴はキヤイを復活させ、そして自分をアルカナ=フルホールドに改造してもらうつもりだろう。そして今、全ての準備が整った。」

「復活…17を殺したのもそのためか…!」


俺は荷物をまとめ、出発の準備をした。


「…その情報には感謝します。」

「気を付けろ。無闇に近付けば殺されるぞ。」

「分かってます。…暫く姫様をお願いします。」

「あぁ。」



俺は、急いで村に戻った。

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