異世界でも、こういうときは大体黒幕が存在する。(3)

村に帰ると、雲はまだどんよりと曇っていて、風に冷やされた水蒸気が靄を作っていた。

家の中に入ると、長と何人かのキメラ達が17をソファーの上に寝かせていた。


「…んむー…。すまん、ヨシナカー…。17をお前のソファーに寝かせるのは悪いと思ったがー、17をそのままにするわけにもいかなかったー…。」

「大丈夫。それより、17を見せてくれないか。」

「んむー…。」


俺は17の顔を覗きこんだ。


「…せめて、俺達で埋葬しよう…。」

「んむー…。」


シャルルは17を見ると、ずっと耐えていたものが一気に崩壊し、涙を流していた。


「…。」


俺は17の手を見た。そして、彼のことを思い出していた。



彼は、言葉の壁によってよく村民とトラブルを起こしていたが、それでも腐らずに交流を続け、最近では朝市を手伝うほどに村民と打ち解けていた。

見た目は奥手だったが、芯はしっかりしていて、一度決めたことは何事も腐らずにやり遂げる。そういう奴だった。



(…こいつの手は、キメラの仲でも一番器用だったんだ…。)


と、その手に触れると、何か違和感を感じた。


「…何か持ってる。」


俺は17の手を開けた。


「…宝石?」


すると、それを見たシャルルが涙を拭きながら言った。


「…これ、道具の一部ですよ…!恐らく犯人の道具の一部です…!ここから辿れば、誰が犯人か分かります!」

「…!」


俺は17の顔を見た。


「…最後まで諦めず、何か伝えようとしてくれたんだ…。」


17は、一度決めたことは何事も腐らずにやり遂げる。そういう奴だった。

だから17は俺達に、自分の最後の命を振り絞って、なにかを伝えてくれた。


「…確かに受け取ったぞ。」


俺はその宝石を持って外に出た。


「シャルル!市場に届けてくれ!一番道具に詳しそうなスルクルさんに会う!」

「分かりました!」


シャルルは魔法陣を発動させ、市場に飛んだ。




市場に着くと、何やら不穏な空気が流れていた。

何故か店の人達は商売をするわけでもなく、その辺りをうろついていた。

そのうちの一人に聞いてみた。


「…あの、どうしたんですか?」

「…今日は風が強いだろ?珍しく。こういう時は、何か起こる。…っていう話を婆さんから良く聞かされててね。皆不安がってるし、今日は商売止めておこうかと思ってな。」

「…そうですか。」


シャルルは顔を少し曇らせた。


「…。」

「…行こう。」


俺達はスルクルさんの店に向かった。



「おじゃまします。」

「…おぉ。これはこれは姫様。ご無沙汰ですな。今日はどのような御用ですかな?」

「ご無沙汰しています。あの…少し聞きたいことがありまして…。」

「何ですかな?」

「見てほしいものがあるんです。」

「ほう?何ですかな?」


俺は宝石をスルクルさんに見せた。


「…この宝石、どなたかの道具の一部だと思うのですが、御存じないですか?」

「どれどれ…?」


と、スルクルさんが眼鏡をかけてその宝石を見た途端、スルクルさんが固まった。


「あの…?」


すると、スルクルさんは急に立ち上がって店の扉を開けた。


「どうしましたか?」

「…殺されたんですな…。誰か…。」

「…!」


シャルルは驚きのあまり、一瞬言葉が出なかった。


「…何故分かったんですか?」

「…知っていますとも。その宝石を。一瞬たりとも忘れることができなかったですわい。」

「…もしかして…。」

「…それは儂が作った道具の一部ですわい。」

「…!じゃあ…!」

「ええ。持ち主も知っておりますわい。」

「誰なんですか!教えてください!」







「『黒い人』ですな。」







俺はそれを聞いて、口の中が乾いていった。

いつか、どこかで分かっていた。しかし、いざ真実を目の前にすると、足が震える。


「…そもそも彼は道具が必要ない魔法を持っていたんですわい。しかし彼は戦闘中、防御の魔法と透明化の魔法を常に使っていたんですな。でも、一度に多くの種類の魔法を使うのは凄く処理に負担がかかったんですわい。それで儂のところに来たんですな。…この道具は、任意の魔法を常に発動させ続けるという道具なんですわい。」


俺はその話に少し疑問を感じた。


「透明化と防御…?」

「そうですな。彼はその二つをよく使ってましたわい。」


(…俺と同じ魔法…。)


色々と考えたが、考察するには情報量が少なすぎた。


「…そして彼が人を殺したとき、殺された人から出てくる莫大な魔力が大気を動かし、強い風を起こすんですな。」

「…だから、『風が強いと何かが起こる』んですね。」

「そうですな。戦争を経験した老人は皆そのことをよく知っているんですな。」


俺は空を見上げた。

鉛色の雲は風に流され、動いていた。


「…とにかく、犯人は『黒い人』で間違いないですね?」

「えぇ。」

「…ありがとうございました。凄く助かりました。」

「…少し待ってくださいな。」


すると、スルクルさんは躊躇いながら言った。


「…ある人物に会えば、彼についてもっと詳しく聞けるはずですな。」

「…誰ですか?その人物というのは。」

「何処にいるかは分からないんですな。いかんせん、その者はいつも旅をしているんですな。」

「旅…。」

「ジャジカプという男ですな。彼は黒い人を作った張本人ですな。」

「「!!」」

「本当ですか!」

「ええ。私の知っている限りでは数匹の馬を連れて、北の大地を転々としているんですな。今も変わらない生活をしていらっしゃると思うのですな。」


俺はその特徴を聞いて、ある人物が頭に浮かんだ。


「…もしかして、その人物というのは、白い髭を生やしていますか。」

「…ええ、そうですな。白いかどうかは忘れましたが、確かに髭は蓄えていましたな。」


俺は、一瞬自分を信じることができなかった。

しかし、その特徴で他に考えられる人はいなかった。






「…俺を拾った爺さんが作ったのか。黒い人を。」

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