異世界でも、こういうときは大体黒幕が存在する。(1)
三週間後の未明。俺と長は同じ部屋で寝ていた。
「…。」
「…。」
「…!!!」
すると長は急に起き上がり、跳ねるように布団から出た。
「…?どうした?長。」
長は俺の声に脇目も振らずに部屋から出ていった。
「おいー。23ー。来いー。何かやばいー。」
「!」
アニキと長は家を飛び出していった。
「あ、おい!」
俺は寝巻きのまま、靴を履いて外に出た。
短い夜はまだ明けず、空はどんよりと曇っていて、強い風が吹いていた。
(…一面の分厚い雲…。)
何か不吉な予感がした俺は、アニキ達を走って追いかけた。
暫く走ると、アニキ達は立ち止まった。
周りに何もない、草原の真ん中だった。
「…んむー…。」
「…。」
「なぁ長!アニキ!何があった!」
長はこちらにゆっくり振り向いて言った。
「…17が殺されたー。」
「…え…?」
俺はアニキと長の前で転がっているキメラを見た。
俺の喉の奥から何か気持ち悪いものが出てくる。
俺は闇に飲み込まれそうな心を一度制し、17の前に座った。
「…ちょっとどいてくれ。俺の回復魔法を試してみる。」
俺は扇子を持ち出し、17にかけた。
「…これで治ったはずだ。おい。17。起きてくれ。」
そうやって持ち上げた体は冷たく、重かった。
「…おい。…なぁ。冗談だろ?」
すると、長が俺を後ろから抱き締めた。
「…ッ…!」
俺は17を抱えたまま、暫くそこに座っていた。
すると、シャルルがやってきた。
「…皆さん…どうかしましたか…?」
「…シャルル…何でここに…。」
「…何か悪い予感がしたんです。外が曇っていましたから…。…で…何を…」
と、シャルルが17を覗きこむと、シャルルの顔色が変わった。
「…お父様…やってくれましたね…」
すると、シャルルは急に走りだした。
「んむー!待てシャルルー!」
しかしその速さは尋常ではなく、あっという間に姿が見えなくなった。
(この速さ…!魔法か!)
「おい!アニキ!追いかけるぞ!」
「いやしかし、17はどうする!」
「んむー!私が見ているー!お前達は早くシャルルを追いかけろー!」
「…ちゃんと弔ってやるからな…!」
アニキは俺を持ち上げ、全速力で走った。
「おわっ…!」
「動くな!持ちにくい!」
そのまま家まで走っていった。
家に着くと、既にシャルルはいなかった。
「…魔法陣だ。都に飛んだんだ。」
「まずいな…今のあの方は何をするか分からないぞ…。」
「魔法陣…俺でも使えるか…?」
俺は家の裏から薪を何本かとってきた。
「代償はこれで払った。…よし。アニキ。掴まれ。やってみる。」
「頼む。」
俺は魔法陣を発動させた。
上手くいったようで、この前の部屋についた。
扉を抜け、廊下に出た。
「シャルルはどこだ?」
「…あっちだ。匂いが残っている。」
俺達は急いでシャルルの後を追った。
「…!待て。誰かいる。見つかると面倒だ。」
「…透明化を使おう。」
俺は自分とアニキに透明化の魔法を使った。
「…よし。」
そのまま走っていくと、見覚えのある扉の前についた。
「…ここは…国王のいる部屋だ…。」
俺達は中にはいった。
「お父様!!遂にやりましたね!!もう許しません!!」
そう言いながら、シャルルは炎と水の渦を作って回りのものを破壊していた。
「待てシャルル!」
そう言うと、シャルルが一瞬止まった。
「…ヨシナカ…!?」
その一瞬、何かがシャルルの首もとを打った。
すると、シャルルが急に力無く倒れた。
「…ふぅ。」
プカクさんが刀をしまった。
「シャルル!!」
俺はシャルルに近づいた。
すると、プカクさんは俺を睨み付けた。
(…!透明化はまだ解けていないはずなのに…見えるのか…!)
俺はジリッと後退りした。
すると、プカクさんは目で意思を伝えてきた。
(…!)
「あぁ…。すまないね…。助かったよ。」
「いえ。国王様、お怪我はありませんか。」
「大丈夫だ。…君、名前は?」
「プカクと申します。」
「プカク…。あぁ、例のソフィアのお気に入りか。…何にしても、良くやってくれたね。後で褒美を与えよう。」
「いえ。暴れていなさったとはいえ、姫様を打ったのは重罪です。どうか、御慈悲を。」
「…なるほど。いい騎士だね。…君は何番隊だい?」
「13番隊です。」
「13…討伐隊かな?流石の身のこなしだね。」
「恐縮です。」
「…ああ、思い出したよ。先日のルークの件といい、キメラの件といい、とても助かったよ。流石、ソフィアが欲しがった男だ。」
「…国王様。加減はしましたが念のため、シャーロット姫様を医務室に運んでもよろしいでしょうか。」
「ああ。頼むよ。」
「では。」
そう言うとプカクさんは一礼し、シャルルを抱えて歩き始めた。
と同時に、俺達についてこいという視線を送った。
俺達はプカクさんについていった。
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