異世界でも、マスゴミはマスゴミである。(5)

村にシャルルが帰ってきた。


「!お帰り。怪我はない?」

「はい。見張られてて派手なことはできませんでした。」

「んむー。朝に何があったか話は聞いたー。」


長はホットミルクを飲んでそう言った。


「…んむー。うまいー。」

「あの…ヨシナカ。貴方がこの前読んでいた本について聞きたいことが…」

「この前読んでいた本?」

「『アルカナ』という本です。」

「あぁ。あれがどうかしたの?」

「あれに何が書いていたのか教えてほしいんです。」

「えっと…」



俺は本の内容をザックリと説明した。


「…とすると、お父様はアルカナ=フルホールドというものを作るためにキメラを…?」

「もし関連付けるなら、それが一番妥当だと思う。まあでも、長が言うにはその更に先の目的があるのかも?」

「んむー。」

「…でもどうすればキメラを討伐することがアルカナ=フルホールドを作ることと繋がるのでしょう…。やはり私の思い違いなのでしょうか…。」

「んむー。シャルルの読みは恐らくそこまで遠くはないー。そもそもアルカナ=フルホールド自体、キメラじゃないとおかしいー。いろんな生物の力を掛け合わせるわけだからなー。」

「うん。それは何となく分かる。」

「恐らく、キメラの作り方を知るためにサンプルとなる死体を採取するかー、キメラの中にあるアルカナの欠片を取りたかったんだろー。」

「…?キメラの中にあるアルカナ?」

「んむー?知らなかったかー?」

「何がですか?」




「全てのキメラはアナイの遺伝子を引き継いでいるー。」




俺はその発言を聞いて耳を疑った。


「え!?でもアナイって死体で発見されたんじゃ…。」

「んむー。アナイは死んでいるー。しかしアルカナは死体にも存在しているー。だからアナイの細胞の一部を切り取って、そこから得た遺伝子をキメラに組み込んだー。」

「…何でそんなことをわざわざ…」

「そもそもキメラを作る目的は人工的なアルカナを作ることだー。その上で不可欠な要素が、生命の護りを破ることだったらしいー。」

「…?キメラは戦争の為に作られたんじゃないのか?」

「私たちはそうだー。だがキメラ全体で言えば違うー。」

「私達…他にもいるのか!?」

「…んむー?お前ら歴史書は読んだことないのかー?」

「実は私、あまり歴史書は興味が無くって…」

「俺は都に行った時に読んだけど、キメラに関するものは特に無かったぞ?」

「…んむー…。仕方がないー。いいかー?そもそもキメラの研究の最終目標は、アルカナ=フルホールドを作るためのものだったー。しかし、戦争になるとそれを戦力にするために一部改造したー。私なんかは、まだ研究用から戦闘用へのシフトが進んでいないモデルだから、プロトタイプに近いー。だから私は見た目が人間に近いし、若いまま長い時を生きているー。」

「プロトタイプ…?」




「最初期実験生物 No.00-αk Code:Black 

 通称『黒い人』だー。」




「「!!」」

「…『黒い人』が…キメラ…?」


俺は都で読んだ小説を思い出した。

俺はなろう系の物語として流して読んでいたが、黒い人がキメラだったとすれば、あの本が歴史書として置かれていたのも、黒い人が戦争で人間相手に無双したのも納得が行く。


「んむー。話を戻すが、要はアルカナ=フルホールドを作る上でキメラは重要な情報の塊だー。駆除という名目で死体を欲しがってもおかしくないー。」

「…許せません…!命を弄ぶなんて…!」


シャルルは静かに怒っていた。


「…んむー。で、シャルルー。肝心の都の様子はどうだったー?」

「…騒いでいるのは貴族だけでした。やはりこれはお父様が仕組んだものでしょう。」

「…んむー。じゃあ、平民はそこまで気にしていないー?」

「みたいです。」

「…んむー…。」

「…なので、この問題に関しては逆に何もしない方が良いでしょう。時間が解決するはずです。ここで動けば、余計に悪化するだけですから。」

「んむー。それが懸命だなー。世間全体が動いているわけじゃないー。貴族の猿芝居だー。相手にする価値もないー。」

「そういうわけで、明日からは通常運転です。お騒がせしましたね。」

「んむー。」



その後、俺達は暫く平和に過ごした。





しかし、その平和は突如終わったのだった。

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