異世界でも、マスゴミはマスゴミである。(3)
二週間が過ぎ、俺はいつもの日常を過ごしていた。
「起きろ!」
その声が寝ている俺の鼓膜を破った。
「…うるさいなぁ…。今何時だよ…。」
「3時半だ!」
「それは確実に深夜だよ…。おやすみ…。」
「いいから起きろ!早起きは三文の得だぞ!」
「この時間だったら三文払ってでも寝てたいよ…。」
「いいから起きろ!」
俺はアニキに布団をはがれた。
「…んー…。」
「起きたか。」
「ちょっと…布団…。」
「ダメだ。さっさと日光浴してこい。」
「まだ日光は出てないだろ…」
と思ったら、朝日が上っていた。
「え…?何で…?」
「今、季節は夏に近い。極地のこの辺りではこれくらいの時期になると朝が早く、夜が遅くなる。」
「…白夜か…。」
「そういうことだ。」
気がつけばこの世界に来てからもう半年近く経つ。
いつの間にか季節は移り変わり、冬は去っていた。
「…っていうか、向こうじゃ今何月だ!?もしかして受験終わったんじゃ…。」
「…?」
「…いや、こっちの話。現実が二つあるのは大変だな…。」
俺はベッドから出ると、リビングに入った。
「夏とはいえ、流石に北は寒いな…。」
「これでも大分暖かい方だ。」
と、喋りながらアニキの作った朝食を食べていると、扉が叩かれた。
「…シャルルか?」
「いや、あの方ならわざわざノックしないだろう。」
「うっ…。納得したくないけど納得しちゃうな…。」
俺は扉を開けた。
「はいはーい。」
「朝早くから失礼します。プカクです。」
「プカクさん!?」
意外な客人だった。どうやら、都から馬で来たらしく、家の前に馬が停まっていた。
「…わざわざ遠くから…とりあえず、中に。」
「ありがとうございます。」
俺はプカクさんを家の中にいれた。
部屋の中に入ると、アニキが消えていた。
(アニキ…逃げたな…。)
俺は適当な椅子に座るようにプカクさんを促した。
「…あ、この前は刀を打っていただいてありがとうございました。今は塩の製造所の所に大事に飾らせてもらってます。」
「あぁ…はい。どういたしまして。」
「それで…今日はどういった要件で?」
すると、プカクさんは少し間を開けてから言った。
「…まず最初に言っておきますが、俺は中立的な立場にいます。その上で、聞いてください。」
「…?」
何やら仰々しい入り方だった。
俺は何か悪いことをしたのかと一瞬考えを巡らせたが、心当たりは子作りの件くらいしかない。
(…流石に話を先伸ばしにしすぎたか…?)
と考えたが、プカクさんの口から出たのは思いもよらないものだった。
「…討伐隊にキメラの討伐要請が来ました。」
「…は?」
「三週間前の午後3時21分。国王からの認印もついています。」
プカクさんは書類を見せてきた。
「え…ちょっと待ってください。どういうことですか?俺達はキメラと友好な関係を築いているんですよ?」
「とりあえず、最後まで聞いてください。この討伐要請というのはそもそも、被害を受けた人が出すものです。なので、俺はこの要請が本当にこの村の村民の望むものなのか、その被害は本当に起こっているのかを検証しに来ました。」
「検証って…。」
「私は中立の立場です。もし被害が出ていることが本当ならば、私は国王の命令もありますし、討伐を実行しなければなりません。しかし、被害は確認できずそもそもこの要請が不成立であれば、討伐は実行しません。」
「そんなの、あるわけないじゃないですか!」
「その事実を確かなものにする証拠を掴むために、検証をさせてください。その為に私は来ました。」
俺は暫く頭が真っ白になってしまった。
「…何で国王が…?」
すると、プカクさんが少し周りを見渡してから小声で話した。
「…実は今、都ではキメラのことが問題になっています。」
「都で…?何で…?」
「…国王が安全なものと判断したにも関わらず、キメラが人に危害を加えたからです。」
「危害…?」
俺はこの前の暴力事件を思い出した。
「あれか…!」
「…それがあって、マスコミが色々と騒いだらしいんです。キメラが人を殴ったとか、畑を荒らしたとか、物を盗んだとか。」
「…全部心当たりはあるが、どれも誤解かそれなりの理由のあるものばかりだ。…悪意のある伝え方だな…。」
「それでも、市民はそれを信じこみます。その後、危険なものを安全と認める国王の決定権の強さは脅威であるとして、議会は国王の決定権を弱めるか、貴族に決定権を分散させるかを迫りました。それで国王はどちらも受け入れたくないので、自分の行動の正しさを証明するためにキメラの討伐要請を決行させたらしいです。」
「じゃあつまり…これは議会を納得させるための討伐…?」
「はい。…ですが、俺はキメラが人間に対して友好的な存在であることを知っています。もし、実際のキメラが危険なものでないのならば、今回の依頼は情報の歪みが生んだものです。なので、本当の情報を見て、この依頼は解決しないといけないんです。」
俺は少し、元の世界のことを思い出していた。
これは、いわゆるフェイクニュースというやつだ。新聞社やマスコミが嘘にならない範囲で大袈裟に事件を述べ、人々の不安と関心を買い、そうやって金を儲ける。
特に、『死』を連想させる話題はカモだろう。
「…マスゴミか…。」
「…。」
この問題の本質は、情報が歪んでいることではない。歪んだ情報が正しいものだと認識されていることにある。
恐らく、このプカクさんは俺の話を聞いてくれれば、キメラを討伐しないだろう。
しかし、だからといって、それで問題が解決する訳じゃない。
プカクさんがどのような見解を持とうが、一人の人間の考えが社会全体を変えるわけじゃない。問題は解決しない。
(これは…。最早俺達でどうこうできるレベルじゃないんじゃないか…?)
一部の、脚色や情報調達方法が行き過ぎているマスメディアについて、以前からゴミだと思っていたが、いざ相手にしてみるとたちが悪い。
「…とりあえずそういうわけですので、色々とお話を聞かせてください。」
「…はい。」
俺は、プカクさんの質問に一つずつ答えていった。
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