異世界でも、マスゴミはマスゴミである。(1)

村に帰ってからの起業は、長とシャルルの尽力もあって中々にスムーズに進んだ。


「んむー。長の命令ー。ヨシナカに協力することー。」


長は、キメラの大切な集会とは思えないほどざっくりとした説明で、キメラ達に事業の協力を頼んでくれた。

シャルルはシャルルの方で、村の人々に対しての説明会や集会などを行い、村の人々の理解を得てくれた。

元々、村の人々は争うよりも共生を望む傾向にあるので、説得にそこまで時間はかからなかった。


「順調だね。」

「ええ。…後は、肝心の施設だけですね。」



一週間ほど経つと、国から支援金が届いた。


「…凄い金額だ…。」

「ヨシナカは、私のお金は受け取らないのに国のお金は受け取るんですね。」

「出所が個人か組織かの違いだな。流石に個人から大量の金を受けとるのは気が引ける。」




その後もキメラ側、市民側の協力を多数受け、遂に塩の製造所が出来上がった。


「遂に完成しましたね…。」

「結構長かった…。」

「んむー…。」


俺は完成した建物の中を見た。


「そういえば、ヨシナカはこの建物に風車をつけていましたよね?」


俺はこの建物を建てる際、村で風車の修繕等を手掛けている職人さんに頼んで、風車を作ってもらったのだ。


「ん?ああ。こいつのためにね。」


俺は風車の下に案内した。


「…これは?」

「全自動石臼。これで塩を挽くんだ。」

「…?」

「まあ、実際に見せたほうが早いか。」


俺は風車にギアを入れた。

すると、風車の下にあった石臼が高速回転し始めた。


「おお!」

「結構いい感じの動きだな。」

「んむー。魔法ー?」

「これは違う。ただの機関。俺の世界で、オランダかその辺で活躍したやつ。恒常風が吹いている地域ならではの道具だな。」

「んむー…。難しいー…。」

「仕組み自体は滅茶苦茶大雑把にしたんだけどね。風車に大きいギアつけて、そこに小さいギアをつけただけ。でも、これだけ回転速度があれば十分だな。」

「…よく分かりませんが、凄いことは分かります!」

「まあ、大量生産するには必要かなと思ってね。とりあえず同じのを3基作ってある。」

「これだけあれば十分ですね!」

「んー…。生産のスピードがどうなるかは分からないから。とりあえず、施設を試験的に稼働しようか。」

「んむー。じゃあ23ー。手伝ってやれー。」


あ、アニキいたのか。


「はい。」


いつも通りのテンションに戻っている。どうやら都でのことは吹っ切れたようだ。


「塩ってどこにある?」

「湖の奥だな。あの辺りだ。白いのが見えるだろう。」

「ああ、あれか。結構遠いな…。施設を建てる場所間違えたか…?」

「いや、これ以上あの場所に近づけば、地盤が軟らかい土地になる。風車を建てている以上、ここが限界だろう。」

「そっか。」


俺達は塩を取りに行った。

塩は太陽によって乾燥させられ、大きな塊を作っていた。

俺たちはそれを、砕きながら採っていった。


「…これか。少しピンクがかってるな。鉄分か?」

「知らん。」

「そりゃそうか…。」


塩を砕き、粉々になった塩の欠片を一つ舐めてみた。


「…お、中々にいい味だ。これならそのまま商品にしても問題なさそうだな。」

「この後はどうするんだ?」

「砕いて挽くだけ。」

「挽くのか。思ったより手間だな。」

「塩水から作るよりは大分マシ。塩水はマグネシウムやら何やらも混じってるから、分ける作業が面倒くさいし、俺もやり方を知らない。」

「…そう言われると貴重に思えてくるな。」

「実際貴重だからね。」



塩を採って帰って来た。


「とりあえず今日は試験的に稼働するだけだから、十分乾いてそうな塩を砕いて入れてみよう。」

「砕くのは任せろ。」


そう言うと、アニキは素手で塩を握って砕いた。


「Oh…力持ち…。」

「これでいいのか?」

「うん。じゃあ、石臼の中に。」


アニキは石臼に塩を少し入れた。


「…バッと入れないの?」

「石臼は、少しずつ入れないと詰まる。」

「へぇ…。そのあたりはやっぱり経験だな…。」


石臼にギアを入れた。

すると、凄い勢いで細かい塩がでてきた。


「うおっ!?」

「確かにこれは早いですね!」

「んむー。」

「俺もここまで上手くいくとは思わなかった…。」


俺達はしばらくその様子を見ていた。


「…一つの岩塩からこれだけの塩ができるんですね。」

「んむー。」

「これなら…いけるかもしれない。」

「…遂に完成ですね。製造所。」

「ああ。」



俺達は石臼から塩が出なくなるまで見ていた。

この白い結晶が、俺達の生活の糧となる。

どうにか上手くいって欲しい。そう願った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る