異世界でも、部下は上司の分の仕事もやらされる。(5)

次の日の朝。結局ずっと興奮状態で、あまり眠れず早く起きてしまった。


「暇だな…。」


すると、今日もまた部屋の扉が叩かれた。


「…まさか…。」


俺は扉を開けた。


「おはようございます。」


プカクさんだった。

何かプカクさん、毎日来てる気がする。


「…おはよう。今日は何の用事?」

「今度キメラの大使になるのって、ヨシナカさんで合ってますか。」

「あ…うん。そうだけど…。」

「鍛冶の仕事の方で注文が入りまして。あなたの刀を打たせてもらうことになりました。」

「お…おう…。」

「それに当たって、何か要望はありますか。」

「え…?…えーっと…。」


急に言われると迷う。


「…じゃあ、重たくて切れ味の悪いのを。」

「…何故ですか。」

「どうせ刀を貰うなら、全く戦いに使えない刀を貰って、非暴力の象徴として飾りたいかな。」

「…なるほど。決して人を傷付けない刀ですか。…面白いですね。分かりました。では、こういうのはどうでしょう。」


プカクさんは、模造刀について色々な提案をしてくれた。

…よく分からないが、この人は仕事自体は嫌いじゃないみたいだ。

実際、この人は騎士団と鍛冶屋を兼業してるし、剣の話をしていると、どことなく表情が明るくなる。

多分、自分がやりたくない仕事を相手に押し付けられるのが嫌いなんだろう。


「…では、この設定で打ってみます。三日後くらいに仕上がると思います。」

「早っ!」

「最近は暇なもので。では、また三日後に。」

「あ…うん。」


プカクさんは去っていった。

すると、シャルルが目を覚ました。


「…ん…。…あれ…?…ん?…! あぁー!!」

「何?朝から騒がしいな…。」


すると、シャルルは顔を真っ赤にして聞いてきた。


「…ヨシナカ…昨日の夜のこと…覚えてます…?」

「…?子供のこと?」

「あぁぁぁぁ…。やっぱり覚えてますよねぇぇぇぇ…。」

「じゃあ覚えてない。」

「もう遅いです!」


シャルルは素早く土下座した。


「申し訳ありません!昨日の夜は変なテンションになってしまいました!私、なんて破廉恥な…!」

「いや、別にいいよ。俺が損することは何も無かったし。むしろシャルルは大丈夫?」

「私は…大丈夫です…。ヨシナカがいつも通りに接してくれるなら…。」

「そう。」


すると、長も起きた。


「…んむー。強いて言えば性交してるところ見たかったけどー。」

「長!何しれっと一部始終みてるんですか!」

「…ヨシナカー。朝ご飯ー。」

「無視ですか!?」

「ちょっと待ってて。今作る。」

「ヨシナカまで!?」

「…んむー?シャルルはもっとその話題に触れられたいー?」

「…いや、大丈夫です…。」


その後、俺達はいつも通りの一日を過ごした。





三日後の朝。また扉が叩かれた。


「おっ…。模造刀が届いたかな…?」

「届きましたか!」


俺は扉を開けた。


「おはようございます。刀をお届けに参りました。」

「おー!ありがとうございます!さ、入って入って!」


俺はプカクさんを部屋の中に入れた。


「お邪魔します。」

「早く!早く!見せてください!」

「今見せますから。」


そう言って、プカクさんは刀を包みから取り出した。


「こちらです。」


俺は刀を抜いてみた。


「…おぉ…。」

「綺麗ですね…。」


刀は、水に濡れたように輝いていた。


「…そちらは注文通りに、重くて斬れなくなっています。」

「…凄い。」

「えぇ…。」


職人技を前に、二人して語彙力がバーストした。


「…柄に近いところには名前なども掘ってあります。」

「…凄ぇ…。ありがとう。」

「いえ。喜んでいただけて何よりです。」


変な間が生まれた。


「…ねぇ。」

「はい?」

「…都でやること終わったんじゃない?」

「…そうですね。」

「そろそろ村に帰らない?」

「…そうしましょうか。…あ、でもちょっと待ってください。」


すると、シャルルはペンと紙をとりだし、サラサラと筆を走らせた。


「…プカクさん。いつでもいいので、これをアイリスとソフィーに渡しておいてください。お礼と出発の手紙です。」


すると、プカクさんの顔が分かりやすく陰った。


「…分かりました。」

「プカクさんもありがとうございました。色々お仕事をしてもらって。」

「いえ。仕事ですので。」

「またいつか必ず会いましょう。」

「…はい。」

「…さてじゃあ、私たちは帰る準備をしましょうか。」

「…では、俺はこれで。」


プカクさんは去っていった。


「この部屋ともお別れですね。」

「少しの間だったけど、名残惜しいね。」

「…よし。じゃあ支度して、チェックアウトして、魔法陣で帰りましょう!」



俺達はようやく、都を後にした。

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