異世界でも、部下は上司の分の仕事もやらされる。(4)
宿に帰る間、シャルルは早足で、何も話さなかった。
結局そのまま宿に着き、シャルルは部屋に入るなり、無言で風呂に入った。
「…んむー?シャルル不機嫌ー?」
「ああ、ちょっとね。アニキは?」
「んむー。体の方は治ったけど、心はバッキバキー。」
「そりゃまた…。」
アニキが壁の方に向かってうずくまっていた。
「それよりシャルルはー、何であんなに不機嫌ー?」
「あー、お父さんとケンカしたんだよ。」
「んむー…。複雑ー…。」
「だよな…。できれば仲良くしてほしいけど…。」
長と話しながら、俺はベッドに座った。
長は、俺の股の間に座った。
「んむー。で、何の話だったー?」
「あぁ…。何かよく分からないけど、国王の命令で、俺はシャルルと子供を作らないといけないらしい。」
「…んむー?結婚じゃなくてー?」
「んー…結婚とは言ってなかったな…。」
「…ヨシナカー。気を付けた方がいいー。」
「何を?」
「婚約じゃなくて子供を欲しがる場合は、血を欲している可能性があるー。」
「…何それ吸血鬼?」
「つまりー、国王がヨシナカにシャルルと子供を作れといったのはー、ヨシナカの遺伝子を欲しているということー。」
「…何で?」
「何か質問されなかったー?『お前はアナイか?』とかー。」
「…いや。質問はされたけど、出身とか年齢とかだけだから。…考えすぎじゃない?」
「…んむー。でも心配ー。」
しかし、よく考えてみればそうだ。
何故、国王は俺に『シャルルと結婚しろ』と言わなかったのだろうか。
『子供を作る』=『結婚』という考えがあったとしてしまえば話は終わるが、しかし、国王は『子供を作る《だけ》』と言っていた。
ということは、少なからず結婚と子作りは別と考えているはずだ。
「…もし、本当にそうだとして、何で俺なんだ?俺なんて、何の取り柄もない一市民だぞ?」
「んむー。もし、ヨシナカがアナイなら、子供にアルカナの力が継承される可能性があるー。」
「アルカナの力?」
「キヤイが求めた、『生命の護りを破る力』のことー。それは一つのブランドのようなものー。」
「…そういえば、アルカナ=フルホールドって奴が何とかって…。あれって結局何なの?本で読んだけど、結局よく分かんなかった。」
「んむー。アルカナ=フルホールドは全てのアルカナの能力を持つ存在ー。昔は色々と実験されたー。」
「実験…。」
「んむー。私なんかもそうー。」
この前、アニキが風呂で言っていたことだ。
「アルカナ=フルホールドなんて作って、何になるんだ?」
「んむー…。細かいことは教えられなかったー。ただー、アルカナ=フルホールドには全知全能の実現の他に別の目的があるみたいー。」
「他の目的?…死者蘇生とか?」
「んむー。その可能性は十分考えられるー。」
アルカナ=フルホールド…知れば知るほど謎が深まる。
しかし、どちらにせよ俺は『アナイ』ではないのだから、関係のない話かもしれないが。
「…でー、ヨシナカはどうするのー?」
「何が?」
「子供ー。シャルルとヤるのー?」
「言い方…。…まあ、国王に言われた時はノリで受け入れちゃったけど、よく考えてみたら俺は元の世界に帰ろうとしているわけで、俺とシャルルに子供ができたとして、父親である俺が元の世界に戻っちゃったら、子供とシャルルが大変だもんな…。」
「…んむー。ヨシナカはもっと欲望に忠実で良いと思うー。」
「いや、これは俺達の将来に関わることだ。軽い気持ちでやっちゃダメ。」
「…ヨシナカー。」
「何?」
長がモゾモゾと何度も俺の股の間で座り直しながら言った。
「…ヨシナカの生殖器は欲望に忠実ー。」
「そういうの言わないでっ!」
俺は長から離れた。
その夜。
「じゃ、明かり消すぞー。」
「んむー。」
俺は部屋の電気を消した。
「さて…寝るか…。」
俺は布団に入った。
暫くして、俺は寝返りを打とうとすると、何かが背中側にあった。
「…?」
俺がそっち側に向くと、シャルルがいつの間にか俺のベッドに入り込んでいて、俺と顔の距離がかなり近くなった。
「…どうした?シャルル。怖い夢でも見た?」
「…あの…ヨシナカ…その…謝ろうと思って。」
「…何を?」
「城でのことを…。あの時、あなたが押さえてくれなかったら、私はきっとお父様を殺していました…。」
「物騒だなぁ…。」
「それに、あの時私は意地を張ってしまって…お父様の方から譲歩してくださったのに…。」
「まあ、意地を張りたくなる気持ちは分かるから。」
「だから…その…ごめんなさい…。」
「別に、謝ることじゃないよ。お互いに理想を求めあった結果起こった衝突だろ?」
「…そう言っていただけると救われます…。」
「…それだけならもう寝よう?遅いし。」
俺はもう一度寝返りを打ち、シャルルに背を向けて寝た。
「…あの。ヨシナカ。」
「まだ何か?」
「…その…ヨシナカは何人くらいほしいですか?」
「…キメラの従業員の話?」
「いえ…その…子供の話です。」
「…あの話か…。考えたけど、やっぱり止めよう。」
「え…?」
「シャルルと子供は作らない。俺はこの世界の住人じゃないから。」
「…でも、それだとお父様との約束を破ることに…。」
「EDだとでも言っておけば何とかなるよ。」
「…?エンディングですか?」
「シャルルは知らなくて良いこと。」
「…ヨシナカ。よく分かりませんが…。」
すると、シャルルが後ろでモゾモゾ動き始めた。
「…シャルル?」
布が擦れる音が聞こえてくる。
「…しましょう…。今…。」
「…本気で言ってる?」
「はい…。契約を破ってしまえば、私はお父様と同じです…。北の村を裏切ることになります…。」
据え膳食わぬは男の恥と言うが、今のこの状況はまずい。
国王が何故、『子供を作るだけ』と言ったのか。そして、シャルルと俺の子供が、俺が元の世界に戻ったらどうなるのか。この二つの問題がまだ残っている今、結論を出すのはまだ早い。
「…シャルル。ごめんだけど、今はできない。」
「何故ですか…?」
シャルルは俺の耳元に吐息がかかるように話した。
「~っ…!…今は時期的にもまだ早すぎるんじゃないか?」
すると、シャルルは耳元で囁いた。
「…私のことを気遣ってくれているのなら、遠慮はいりませんよ…?思うままにしてください…。」
「…っ…!…別に、シャルルを気遣ってるわけじゃない。嫌ってるわけでもない。ただ、何と言うか、都に来てから今までの動きが妙だ。」
「妙…?」
「ああ。…何と言うか、ここまでうまくいっているのは何か裏があるような気がする。」
「裏…ですか…。」
「…普通、初対面の男に、自分の娘と子供を作れなんて言うか?言わないだろ。それに、命令されたのは『結婚』じゃない。『子作り』だ。」
「…それの、何が妙なんですか?」
「…シャルルと子供を作ること自体に、何か大きな意味があるんじゃないか?国王の野望に繋がる何かが…」
「…。」
「だから、今日はお預けだ。とにかく、その可能性が無くなるまではしない。…まあ、そもそも俺はこの世界の住人じゃないし、するつもりもないけど。」
「…そう…ですか…。」
「もう一回言うけど、嫌いってわけじゃない。シャルルのことは好きだよ。でも、それは友達としてだ。恋人としてじゃない。」
「…分かりました…。でも…私ったら、せっかちでしたね…。」
「…服着て寝ないと風邪引くよ?見ないから、着なよ。」
「…はい。」
シャルルは一度布団を抜け出し、モゾモゾと服を着て、また布団に入ってきた。
「…ここで寝るの?」
「はい…。ここがいいです…。ダメですか…?」
「…別にいいけど、俺が寝返り打ってシャルルの上に乗っかってても知らないよ?」
「分かりました…。」
シャルルは、俺の背中をギュッと抱き締めた。
「…シャルル。苦しい。」
「すみません…。でも、嬉しいんです…。ヨシナカも、私のことが好きなんですね…。」
「友達としてね。」
「…フフッ。」
そのまま、夜が更けた。
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