異世界でも、部下は上司の分の仕事もやらされる。(3)
昼過ぎ、俺達は城に向かった。
俺達は城の前の関所で止まった。
「すみません管理人さん。ここを開けて貰えませんか?」
「…!シャーロット姫様!お帰りでしたか!」
「一時帰還です。開けて貰えませんか?」
「あ…はい。どうぞ。」
関所の扉が開いた。
「じゃ、行きましょう!ヨシナカ!」
そう言うと、シャルルは俺の手を握って引っ張った。
「…そういえば、何で俺と二人なんだろう?」
「…どういう意味ですか?」
「いや…『キメラを連れてこい』だったら分かるんだけど、『俺と二人でこい』の理由がわからん。」
「…まあ、そのあたりは行ってみれば分かるでしょう。」
俺達は城に入った。
城に入ると、一人の騎士がいた。
「…シャーロット姫様、ヨシナカ様。ようこそいらっしゃいました。どうぞこちらに…。」
と言って、騎士は歩き始めた。
歩いている途中、シャルルが耳打ちしてきた。
「…あの案内人なんかが、宮廷護衛隊なんですよ。」
宮廷護衛隊…城から出ない仕事しかしてないのかよ…。
面倒くさい仕事はさっきのプカクさんみたいに格下の部隊にさせるんだろうな…。これが社会ってやつか…。
暫く歩き、一つの大きな扉の前についた。
「…この先になります。」
騎士は扉を開けた。
「失礼します。客人がお見えになりました。」
騎士は扉を押さえ、俺達に入るように促した。
俺達は中に入った。
その騎士は一礼し、外に出ていった。
「…よく来たね。」
その先には、シャルルによく似た金髪と白い肌の男性がいた。
一目で彼が国王だと分かった。
「…ただいま帰りました。」
「うん。…大きくなったね。帰ってきてくれて嬉しいよ。」
何か不思議な雰囲気の人だった。
その言葉は本心に聞こえるのだが、どこか裏があるような、そんな人だった。
「…何で私とヨシナカをここに呼んだんですか?」
「彼はキメラの管理の責任者らしいじゃないか。彼について色々知りたいと思ってね。」
「…。」
「…ヨシナカくん。質問、いいかな?」
「あ…はい。」
国王は首飾りを弄り始めた。
「…君は今、何歳かね?」
「18です。」
「…ふむ。では、出身は?」
「ジパング、ジャパン、日本のどれかで呼ばれている国です。」
「…ふむ。そうか…。…なるほどね。」
国王は首飾りを弄りながら、少し考えて言った。
「…ヨシナカくん。私の条件を呑んでくれれば、君を大使として任命しよう。」
「大使…?」
「ああ。キメラと友好な関係を築くための大使だ。大使になれば国から補助金も出す。」
「本当ですか!?」
「ああ。ただ、条件を呑まない場合は私と敵対することになる。…いいね?」
「…その…条件とは…?」
国王は首飾りから手を離した。
「…君のこと、色々調べさせて貰ったよ。君は努力家みたいだね。それに、素晴らしい魔法も使えるそうじゃないか。」
「いえ…。そんなことはないですよ。」
「…そんな君には、シャーロットと子供を作って欲しい。」
「は?」
素でその声が出てしまった。
「あ…失礼しました。…は?」
「言い直せていないよ。…言葉の通りだ。君とシャルルで子供を作って欲しいんだ。子供の性別は問わない。」
「…ちょっと待ってください。理由が全く分かりません。」
「君とシャーロットは大分仲が良いみたいじゃないか。私も、娘達があの性格で、次期国王が心配でね。できるだけ早く安心したいんだ。」
「…しかし、何故俺なんですか?」
「言ったじゃないか。君とシャーロットは仲が良いみたいじゃないか。…違うのかい?」
「違…いませんが、そういう関係ではないんです。あくまでも友達です。」
「…では、交渉決裂か。そういうことなら、キメラの事業は私抜きで頑張ってくれたまえ。」
すると、シャルルは国王に向かって叫んだ。
「お父様!」
「…何だい?シャーロット。」
シャルルはいきなり構えた。
「…お父様。手荒な真似はやりたくありませんでしたが、私達の関係を馬鹿にされてはやらざるを得ません。お父様。一筆書いてください。」
シャルルは、腕を国王の方に向けていた。
「…シャーロットは、騎士団の各隊隊長と同等かそれ以上の戦闘力を持つ魔法使いだったね。…野蛮になったね。それも北の村で学んだのかい?」
「…っ!」
シャルルの手に力が入り、部屋の一部が燃え始めた。
俺はシャルルを押さえた。
「止めろシャルル。こんな野蛮なやり方じゃ、どっちみち書類の信頼は得られない。」
「でも…!」
すると、国王はまた首飾りを弄り始めた。
「…彼の言うとおりだ。争いは何も生まない。何も与えない。何かを生むのは、話し合うこと、協力することだけだよ。」
「ッハ…!笑えますね!その割りに、お父様は北の村の方々を大分荒く扱っておられたではないですか!」
「おい!シャルル!その辺に…」
「いいんだよ。ヨシナカくん。…そうだね。じゃあ、こうしよう。私の条件を呑んでくれれば、キメラの安全性を保証するだけでなく、ヨシナカくんをキメラとの親善大使にするのに加えて、私が生きている限り、私は北の村と友好な関係を結ぶことを誓おう。」
「なっ…!何をおっしゃっているのですか!」
「これもそのままの意味だよ。私は北の村と友好な関係を結ぶ。そして、ヨシナカくんをキメラとの関係を築くための大使に任命する。…これ以上ない条件だと思うがね?」
「馬鹿にしてるのですか!?」
「真剣だよ。これは交渉だ。」
「…今まで散々お父様は反対されていたのに、いともあっさりと…それを信じろと!?」
「ああ。この数年間で考えが変わったんだ。北の村の住民は非常に友好的で、そこまで脅威じゃなさそうだ。だから、どうか信じてくれ。」
「何を言っているのですか!この4年間、私がどれだけ苦労したと思っているのですか!」
すると、国王はため息をついた。
「…話が平行線だね。…これはあまり見せたくなかったんだが…。」
国王はシャルルに、弄っていた首飾りと、模様の入った一枚の紙を見せた。
「…これ、見覚えは無いかい?」
「…それは…アイリスの!」
「『真実を見る魔法』を使わせてもらったよ。彼女の魔法は実に優秀だね。おかげで、シャーロットの全ての思考を読むことができた。」
国王が見せていたのは、魔法の『道具』と、魔法陣だった。
「…お父様…!まさか、アイリスに手をかけたのですか…!?」
「いや。これはただ彼女に借りただけさ。それよりも、私がこの魔法を使ったということは、…分かるね?シャーロット。」
「…何がですか?」
すると、国王はシャルルに耳打ちをした。
「…シャーロットの研究は私たちにとって非常に有益だったよ。」
シャルルの顔色が変わった。
(…研究…?)
俺にはその意味が分からなかったが、どうやらシャルルにとって知られたくない過去のようだ。
「…どうするかな?」
「…卑怯な…!」
「ただ簡単なことじゃないか。子供を作るだけだ。何なら、今日の一晩で済む話だよ?」
シャルルは歯軋りしながら暫く考えた挙げ句、フッと力を抜いて、目線を下に送りながら言った。
「…私ならもう、その覚悟は既にできていました。交渉の是非は、彼に聞いてください。」
「え?俺?」
今までのバチバチの親子バトルの後に、最終決定は俺?本気でいってる?
「…どうするかね?ヨシナカくん。」
あ、マジっぽい。
さて、いきなり余談だが、俺の脳内ではいつもシャルルに対する性欲というものは、理性や社会的立場によってバランスを保たれていた。
だから今まで、俺のあれが理性を保っていなくても、一線は越えなかった。
しかし今、天秤の片方には理性。片方には性欲、社会的立場、仕事の安定性の保障、シャルルの夢の実現(本来の意志とは違う形ではあるが)が乗っている。
この天秤がどちらに傾くのかというのは火を見るよりも明らかであって、俺にとってこの話を断る理由が無かった。
「…条件を呑みます…。」
「うん。それはよかった。では、これを。」
俺は国王からキメラの安定性について一筆書かれた書類を受け取った。
「…暫く都にいるといい。大使に任命した者には、政府から剣を授けるのが慣わしなんだ。」
「はぁ…。」
「…私からの話は以上だ。…シャルル。今日は城に泊まるかい?」
「…いえ。宿に泊まります。」
「そうか。では、宿代を立て替えてあげよう。何処の宿屋だい?」
「いえ。もうすでにお父様名義で泊まっていますので。」
「そうか…。じゃあ、これでお別れか。」
「はい。」
「…また、いつでも来ると良いよ。」
「暫く来ません。行きますよ。ヨシナカ。」
そう言って、シャルルは早足でその場を離れた。
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