異世界でも、部下は上司の分の仕事もやらされる。(1)
その後、俺達は城下町の宿屋に泊まった。
「では、私達は一旦これで。また暇なときに遊びに行きましょう!」
ソフィア姫様一行は宿屋の前でそのまま俺達と別れた。
「…シャルルは城に帰らないの?」
「…。」
「…シャルル?」
「は、はい!?」
「…城に帰らないの?」
「…あ!私ですか!?」
「他に誰がいるんだよ…。」
「えっと…。その…城にはお父様がいるので…。」
「反抗期ってやつ?」
「まあ…。一応、お父様に歯向かって城を出た身ですから。あまり顔を合わせるのは…。」
「…そう。じゃ、部屋に入ろうよ。外は寒い。」
「そう…ですね…。」
俺達は宿の中に入り、適当なベッドに寝転んだ。
「あ゛ー。疲れた。」
「…あの…。」
「どした?」
「…今から私、お風呂に入るつもりなんですが…。…その…暫くは入ってこないでくれませんか…?少し…考え事をしたいので…。」
「それ、シャルルにだけは言われたくなかったなぁ…。」
「そうですよね!すみません…。」
と言って、シャルルは風呂場に行った。
「…まだあの感じなんだよなぁ…。どうすればいいと思う?長。」
「んむー?私ー?」
「うん。何か恋愛名人っぽいし。」
「んむー…。私はただ書物に基づいたアドバイスしかできないー。いいー?」
「うん。十分十分。」
「…んむー。簡単な解決法は一つあるー。」
「まじで!?」
「んむー。一晩で解決ー。」
「その方法教えて!先生!」
「簡単ー。一回シャルルと性交をすればいいー。一度経験してしまえば悩むことは無くなるー。」
「それ以外の方法でお願いします。」
このロリババアはこの見た目でこういう爆弾発言を連発するからタチが悪い。
多分、一部のロリコンはこの発言だけでもハァハァ言ってるぞ!もっと幼女らしく!セーブしてっ!
「…んむー。ぶっちゃけー、ヨシナカはどうなのー?シャルルと性交したくないー?」
「その言い方止めて。…っていうかそれ、自称でも嫁と名乗ってる人が聞くこと?」
「私には生殖機能がないー。だから別にヨシナカが子孫を残すこと自体は反対しないー。それよりー、ヨシナカは何故シャルルと性交しないー?今までも何回かは機会があったはずー。」
「…理性のおかげかな。」
「この前の風呂場の時見てたー。ヨシナカの生殖器は理性を保っていなかったー。いつ性交を始めても可笑しくない状況だったー。」
「そういうことを言うんじゃない!セクハラだよ!それ!」
「私はただ不思議ー。何故子孫を残そうとしないー?」
「…ぶっちゃけると、一つは今の関係が崩れるのが怖い。拒否された後のことを考えると、目も当てられないだろ。俺はキメラと友好な関係を結ぶために努力してる。でも、それを実現させるにはシャルルの協力が必要不可欠なんだ。だから、そんな自分の欲求だけのことでその計画を壊したくはない。」
「んむー。もう一つはー?」
「もう一つは…。そもそも俺がこの世界の住人じゃない。」
「…んむー?」
「…俺、この世界の人間じゃないんだよ。他の世界から来た。…まあ、信じて貰えないかもだけど。」
「…んむー。信じるけどー、それより聞きたいことがあるー。」
「何?」
「…ヨシナカはこちらの世界に来るとき、何か魔法陣を使ったかー?」
「俺自身は使ってないけど…。あー、そう言えば、マンホールみたいなものを踏んだ。あれが魔法陣かな?」
「…いつここに来たー?」
「えっと…1ヶ月と半月くらい前かな?結構最近。」
「…じゃあやっぱり違うかー…。」
「違うって?」
「アナイのことー。私、ヨシナカと初めて会ったとき、アナイと間違えたー。」
そういえばと思い、俺は長に聞いた。
「長。アナイって何なの?」
「アナイはー、ある天才が異なる世界から魔法陣で呼び出した物怪ー。特殊な力を持ってるー。」
「特殊な力?」
「生命の護りを破るー。つまりー、ある天才が欲しがっていた能力を持つー。」
「ある天才…キヤイ?」
「…知ってたー?」
「今日、丁度図書館で読んだ。」
「…アナイを呼び出す魔法陣が描かれたのは千年以上前ー。そしてそれが発動したのは戦争が始まる少し前くらいー。そしてそのアナイが初めて発見された時には既に死んでいたー。」
「じゃあ、どう転んでも俺はアナイじゃないじゃん。何で間違えたの?」
「…んむー。匂いがアナイに近かったー。」
「えぇ…。」
何かもう、アニキにはキメラと似た匂いと言われ、長には昔の死体と同じ匂いと言われ…。俺ってそんなに体臭きついか?
「…まあー、話は逸れたがー、お前とシャルルの関係はお前達しだいだー。お互いに親密な仲でありたいなら、性交なしでもありえるかもなー。」
「…分かった。ありがとう。」
「んむー。撫でろー。」
「はいはい。よーしよーし。」
「んむー…。」
俺は長を撫でくり回した。
すると、シャルルが風呂から上がってきた。
「…あの。長。アニキさん。お風呂空きました。次どうぞ。」
「んむー。いくぞー。23ー。」
「はい。」
俺は、シャルルと二人きりになるのも気まずいので、席を立った。
「んじゃ、俺はちょっと散歩してくるかな。」
「…あの。ヨシナカ。ヨシナカはここに居てくれませんか。少し話したいことが。」
いきなり来た。
長は、俺に『んむー。』と目線を送った。
「…分かった。」
「ありがとうございます。…お時間を取らせてしまって、申し訳ありません。」
「いいって。」
俺とシャルルは、キメラ二人が風呂場に消えるのを見送った。
「…で?話って?」
「…私、今日の昼の話のこと、ずっと考えていました。」
「だろうね。見てたら分かる。」
「そうですか…。」
別に愛の告白してきただとか、恋人の別れ話だとかそういうものでは決してないのだが、妙に緊張して嫌な汗が頬を伝う。
「…あの。私、決めました。」
「何を?」
「…私、覚悟を決めました。ヨシナカと…その…生殖行動をすることを。」
「は!?」
「なのでっ…!…どうか…今まで通り…、仲の良い友達でいてくれませんか…?私、折角出会った、身分の差も気にしないで話し合える友達を無くしたくないんです…。だから…何でもしますから…友達でいてください…。」
シャルルはただ真っ直ぐに、俺の目を見て、切実にそう言った。
その決意の堅さに、俺は目を逸らし、ため息をついた。
「あー、もう、降参。…そもそもシャルル相手に男女の関係とかの話をするのが間違ってた…。…もう、周りからどう思われようと気にしない。シャルルは、俺と好きなように接すればいいよ。」
「…それって…。」
「友達続行。今まで通り。俺もシャルルに何かするつもりもないから。」
そう言うと、シャルルは俺に抱きついてきて、俺をベッドの上に押し倒した。
「おわっ!何すんの!?」
「だって…!私…嬉しくて…!」
シャルルの涙が俺の肩の上に落ちた。
俺達は、暫くそのままでいた。
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