何処にでも、誰にでも、異世界でも、秘密はある。(4)
その後、俺達はレストランに入った。
「おお…高そうな店…。」
「案外そうでもないですよ?」
「いや、王族の高くないは高いからな。信用ならん。…というか俺、金持ってきてないんだけど。」
「『お金を持っていない』の間違いでは?」
「そう言うこと言わないで!?」
「まあ、お金の心配はいりません。『王様のツケで』と言えば、国家予算から経費として落ちます。」
「そういう金の使い方が国の歪みを生むんだよなぁ…。」
「まあ、そういうわけで好きなように頼んでください。」
俺は席につき、メニューを開いた。
「…全然わからん。」
北の村の食べ物と全く異なっているようだ。メニューを見てもどういう食べ物か全然検討もつかない。
「…長。何か食べたいものは?」
「んむー…。これー。」
「…たっぷり蜂蜜がけのノヤシト?」
「んむー。」
うん。よくは知らないけど、とりあえずデザートであることは分かった。
「それも頼むとして、他には?」
「何でもいいー。」
「…アニキは?」
「肉なら何でもいい。」
「…プカクさんは?」
「…そうですね。化物の脳ですかね。」
「…あるの?」
「無いです。ここには。」
『ここには』って…。
「生の化物の脳みそに、化物の身の塩ゆでをほぐしたものを入れてかき混ぜるんです。生き血が赤く染め上げますが、それを白い米と一緒に食べるとそれはもう…」
「シャルルに任せる。」
俺は話を切った。
「そうですか?じゃあ…。すみません!私と同じものをこの方々にも!あ、あと、このノヤシトを一つ!」
姫様自ら注文した。
「懐かしいですねー。小さい頃はよく三人でここに食べに来たものです。思い出の味です。」
「それがいつの間にか、殿方と会食する場所となるとは。ねぇー?お姉様?」
…ソフィア姫様よ。それは自分で自分の地雷を踏みにいってないか?絶対にまた弄られるぞ?
「…そうですね。ヨシナカには是非紹介したいレストランでしたから。」
と、シャルルは俺にニコリと笑いながら話しかけた。
それを見て、ソフィア姫様が「キャ~!」と口に手を当てて見ていた。
「…シャルル?シャルルはもう少し俺を男として見てくれない?友達感覚じゃん。そりゃあ誤解されるって。」
「え…。ヨシナカ…。やはりあなたは私を…友達として見てくれてないのですか…?」
シャルルが半泣きになった。結構、友達かどうかを気にしてたらしい。
「いやいやいや!そういうことじゃなくてね?確かに友達だよ?友達だけどね?男女の友情だということを分かってて欲しいの!」
「男女の友情…?」
すると、長が足をブラブラさせながら言った。
「男女の友情ー。すなわち成立しないー。」
「…!」
シャルルの目頭が本格的に赤くなってきた。
「ちょっ…!長…!何言ってるの!」
「ヨシナカは黙ってろー。」
そう言うと、長は尻尾をフリフリと振りはじめた。
「つまりなー。シャルルー。男と女の間には生殖行動が伴うってことだー。」
「聖職講堂…?」
「端的に言えばS・E・Xだー。」
「セッ…!」
すると、たちまちシャルルの目頭は元に戻ったが、今度は顔全体が赤くなった。
「お前がヨシナカをどう思っているかは知らないがなー?少なからずヨシナカはシャルルと生殖行動をしたいと思っているわけだー。」
「そうなんですか!?ヨシナカ!」
「それは極論だ!」
「まーまー落ち着けー。ヨシナカー。」
そう言うと、長はピンと指を立てた。
「しかしなー?シャルルー。それは男としては当然の欲求であってー、受け止めなければいけない事実なのだー。」
「…じゃあ私はヨシナカと友達であるためには…その…ヨシナカと…生殖行動をしないといけないんですか…?」
「そういうことじゃないー。ただー、あまりに親密すぎる仲になった場合はー、覚悟をしろということだー。それが嫌なら、適度な距離を保てということだー。分かったかー?」
「…はい。」
シャルルは顔を俺に見せないようにしてうつ向いた。
「長…。ちょっと過激すぎだよ…。」
「間違ってはいないでしょー?」
「…まあ。そうだけどさ…。」
そう言うと、シャルルがビクッと反応した。
「…ヨシナカは…私と…したいんですか…?」
「え?あ…」
くそ!否定はできねぇ!
「…そう…ですか…。」
そう言って、シャルルは口を閉じた。
…なにこの空気…。
すると、今度はアイリスさんが口を開いた。
「…あの。長。」
「何だー?」
「…具体的に、どうやったら殿方と親密な関係を作れますかね…?」
え?なにこの人。この空気の中、そういうことを聞いてくるの?ガチの恋愛相談始まってるじゃん。
「そうだなー。基本的には運命に逆らわないことだがー、時には行動も必要だー。」
「行動…?」
「だから、自分から男に話しかけてみるとかー、スキンシップを取るということだー。相手を待っているだけではいけないー。男は自分から呼び寄せるものだー。女は花のようにー。男は蜜蜂のようにー。」
「なるほど…。参考になります!長さん!…いえ、先生!」
先生になっちゃったよ…。
すると、今度はプカクさんが口を開いた。
「…あの。長。気になる異性の人を振り向かせるにはどうすればいいですか。」
プカクさんも!?
「んむー…。難しいところだなー…。まあー。体で誘うのもあるがー、一番はその人にとってかけがえのない存在なってしまうことだなー。それこそ親友とかー、仕事のパートナーとかー。そうなれば後は簡単ー。自分から姿を消すー。そしたら、相手が勝手に自分を求め始めるー。」
「なるほど…。だそうです。ソフィア姫様。」
あ、この人はただ姫様を弄りたいだけだった。
「なっ…ななな何の話ですか!?ワカラナイナー!」
そのわりにはソフィア姫様の体勢が前のめりだった気がする。
「そもそもこの話はあなたが聞いておくべき話でしょう!?」
「いえ。俺には必要ないんですよ。俺の場合、先程の異性を振り向かせるための全ての条件を一応満たしてますから。問題は姫様ですよ。俺、一度もルークという方とソフィア姫様が一緒のところを見たことがないんですが。」
「…傲慢ですよ。プカク。」
「それ止めてくれませんか。」
すると、食事が来た。
「おー!待ってたー!」
長が尻尾をフリフリ、足をブラブラ、手をパタパタさせながら料理を覗いた。
「…んむー!いいにおいー!」
「本当だ!これはシャルルに任せて正解だったな!」
「…。」
まだ機嫌直ってないよ…。こういう話は結構大丈夫な方だと思ってたんだが…。
「…先生。挨拶を。」
あ、ここはどっちかの姫様じゃなくて長なんだ。
「んむー。感謝していただきますー。」
そう言って、俺達は食事を始めた。
「…長。その食器使える?」
「んむー…少し使いづらいー…。」
「ほら、俺が口に運んであげるよ。はい、あーん。」
「あーん。…んむー。うまいー。」
「本当に?…ん、確かに。」
と、俺が長に食べ物を食べさせていると、アニキの存在を思い出した。
「…そういえばアニキ、さっきから突っかかってこないな。いつもなら『長から離れろ。突くぞ。』とか言うのに。」
「レストランでは静かに食事をするのがマナーだ。」
めっちゃ正論言われた。
「…だがまあ、長の面倒を見るのは確かに俺の仕事だ。どれ。そこを変われ。」
「はいはい…。」
俺は食器をアニキに渡した。
「長。これを。」
「…んむー…。この葉っぱ嫌いー…。」
「好き嫌いはいけませんよ。ほら。」
「…んむー…。」
完全にオカンと子供じゃん…。
しかし…皆で食事をしているというのに誰一人会話をしていない。
(…仕方ない。ここは一つ…。)
俺はプカクさんに、耳を貸すようにチョイチョイっと合図を送った。
プカクさんは水を飲みながら耳だけ俺の方に寄せた。
俺は口元が姫様たちに見られないよう隠しながら耳打ちをした。
(…楯状火山。)
プカクさんは盛大に水を吹いた。
「フハハハハハっ…っくっ…フフハ…!」
それを見たソフィア姫様が目を丸くしてプカクさんを見た。
「プカク!今笑いましたか!?」
「…笑ってない……フッ…笑ってないです。」
「あー!完全に今笑いました!私初めて見ましたよ!あなたが笑っているところ!」
「笑ってないです。」
「…ちょっとヨシナカさん!何を言ったんですか!?教えなさい!」
俺はソフィア姫様にグイグイと引っ張られた。
「分かりましたって!引っ張らないでください!」
すると、プカクさんが俺の肩をガッチリと掴んだ。
プカクさんの方を見ると、『言ったらどうなるか分かってるよな?』と言わんばかりの、殺気に似た気迫のこもった目で俺を睨んでいた。
「…大丈夫。問題ないから。」
プカクさんにそう言って、俺はソフィア姫様に耳打ちをした。
(プカクさんに向かって、『楯状火山』って言ってください。)
(…それだけですか?)
(はい。そう言えば、プカクさんは確実に笑います。)
(分かりました。)
「…プカク。」
「はい。」
「…『楯状火山』。」
「フハッッッッ…クッッ!!」
プカクさんの腹筋が爆笑ギリギリのところで持ちこたえていた。
「おお!本当に笑いました!…で?これ、何が面白いんですか?」
「…いやー、やっぱりソフィア姫様がおっしゃると違いますねー。一段と面白くなります。シャルルだとこうはいきませんからねー。」
「そ、そうですか?えへへへ…。…で、どういう意味なんですか?」
「楯状火山というのは、粘り毛の少ない溶岩でできた火山のことなんですよ。」
「へぇー。…で?」
「終わりです。」
「笑える要素どこかにありました!?」
「やっぱりこの単語をここまで面白くできるのはソフィア姫様しかいませんよ!流石だなぁ!」
「え…何かよく分からないですけど…ありがとうございます…。」
どうやらアイリスさんにはどういう意味か伝わったようで、アイリスさんも若干ツボに入っていた。
「…もしかして私、漫談師の才能が…?」
「えぇえぇ。あると思いますよ。」
俺は自分で言っていて可笑しくなってきたので、話を止めた。
「ま、食事を続けましょうよ。冷めても美味しくないですし。」
「…待ってください!」
ソフィア姫様は高々と言い放った。
「…なんですか?」
「この流れなら私、もう一発爆笑の嵐を起こせる気がします!」
あ、この人調子に乗るタイプだ。
「いきますよ…。『猿が去る』!」
「…。」
「…。」
「…。」
「…。」
「…んむー?」
「…。」
場が冷えた。
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