何処にでも、誰にでも、異世界でも、秘密はある。(3)

図書館に着いた。


「…まだ十代二十代の女子三人の遊び場所が図書館ってどうなの?」

「何か文句でもありますか?ヨシナカ。」

「…いや。まあ、歩き回されるよりは好都合かな。」

「じゃあ、大人しく本を読むことですね。」

「へいへい…。」


俺は背中でいつの間にか寝ていた長をゆっくりと椅子に座らせた。

すると、長が起きてしまった。


「…んむー…?」

「あ、ごめん。起こすつもりはなかったんだけど。」

「…図書館ー?」

「うん。何か読んであげようか?」

「…いいー。自分で読むー。」


そう言って、長は何処かへ行ってしまった。


「待ってください。長。」


アニキがそれについていった。


「…俺も何か読もうかな。」

「ヨシナカさんは、読書をよくされるんですか。」

「んー…そんなにかな。気になることを調べるくらい。」

「そうですか。」


俺は本棚を探し回った。

プカクさんは俺の方についてきた。


「何か読みたいものでも。」

「ん?…まあ、キメラについての文献があればと思って。…ここって、魔法とかで書籍を管理したりはしてないのか?」

「していません。」

「あ…そう…。」

「基本、都では魔法は使いませんから。」

「え…そうなの?」


意外なことを聞いた。てっきり、この世界ではどこでも魔法を使っているのだとばかり…


「…じゃあ、キメラについての文献もあるか怪しいか…。」

「…あ。あれとかは違いますか。『キマイラ』という題名ですが。」

「それっぽい題名なのは全部引っ張り出してみよう。」


俺はその本に手をかけた。

と、その横に気になる本を見つけた。


「『アルカナ』…。」

「…どうされましたか。」

「…いや、この本も読もうと思って。」

「少し持ちましょうか。」

「うん。お願い。」


俺は、数冊の本を持ってテーブルについた。


「まずはこの『キマイラ』から読むか。」


俺はその本を読んだ。

内容は、キメラの主人公がそのチートな能力を使って国を救うという話だった。

俺は流し読みして、その本を閉じた。


「…まさかこの世界に来てまで、なろう系小説を読むはめになるとは…。」

「なろう系…。というと。」

「ああ、最強の主人公が他の雑魚を蹴散らして『え?俺なんかやっちゃいました?』と言うタイプの小説全般を指す。」

「すごく限定的ですね。」

「テンプレートというやつだな。その通りのシナリオを書けば、それなりに面白くなるから、結果的にそういうストーリーがありふれる。…まあ、売れるためにはプラスアルファでアイデアが必要だけど。」


俺は後書きを見た。


「『この物語は一部脚色を加えています。本来の歴史とは多少異なる部分があります。』…?大部分がそうだろ。」

「…よく見たらこれ、歴史書の分類にされてますね。」

「歴史書…?」


どんな歴史だよ…。

と、思いながら俺は後書きをまた読んだ。


「『北の英雄を参考に』…」


俺はその一単語に引っ掛かった。


「…『黒い人』か。」


俺は少し納得した。

そういえば、俺が最初に黒い人の文献を見たときの感想も、「なろう系主人公みたい」だった気がする。

大方、黒い人とキメラを合わせたような主人公にしたのだろう。しかしどちらにしても、歴史書とは言えなさそうだ。

すると、プカクさんが聞いてきた。


「…北の英雄って、あの、他国からの集中攻撃を防ぎきったっていう話の人ですか。」

「知ってるんだ。」

「少しだけなら。…それなら、多少大味なシナリオでも理解できる気がします。」

「気がするだけ だけどね。」


俺はその本を閉じた。


「…次は『アルカナ』だな。」


俺はその本を読んだ。




『この世にあやしき物怪数多有り。その内三つの物怪、すなはち南の化物、西の陸竜、東の海竜は、きはめて奇なり。南の化物、牛百頭の力を有す。西の陸竜、千の剣撃を堪える。東の海竜、万年を海底で生きる。この物怪共、皆アルカナを有す。これを以て物怪、数多の能力を持つ。』




プカクさんも、横から覗き見ていた。


「…北の物怪は無いんですね。」

「この時代はキメラがいないんだろ。今の時代だったら、キメラが追加されてるだろうな。」


続きを読んだ。




『北に人有り。その人、森羅万象の答を知る。名をキヤイとす。キヤイ、北に物怪を見出だす。キヤイ、怪しき技をしてその物怪を異界より呼ばせしむ。その名を、アナイとす。』




「!!!」


俺はその文章に目を疑った。


「…アナイだ…!」

「…アナイですか。」

「ちょくちょく名前を耳にしていたんだが…まさかここで見ることになるとは…。」


しかも、『異界』という言葉まで出てきている。これはどうやら、アナイというものには何か、俺が元の世界に戻る為の手掛かりがありそうだ。


「…続きを読もう。」




『アナイもまたアルカナ有り。アナイ能く生命の護りを破る。キヤイ曰く、《これらの物怪の力を以て、我能く全知全能を作る》と。その存在、アルカナ=フルホールドとす。』




「…アルカナ=フルホールド。」

「何ですか。それ。」

「キメラが作られたときに平行で実験されていたという、不老不死、絶対防御、最強無敵とされる存在。」

「へぇ。」


どうやら見たところ、異世界とキメラには何処か関係があるようだ。そしてアナイという存在。ここに来て、色々なものが繋がってきた。


「…これ、いつ書かれた書物だ?」

「さぁ。本の後ろの方を見れば書いてるかと。…ただ、書き方が古いので、十世紀以上前のものじゃないかと思います。」

「そんなに前か…。」


アルカナ=フルホールドの存在自体は1000年以上前から提唱されていたようだ。


すると、仲良し三人組が俺達を呼んだ。


「皆さーん!行きますよー!」

「あっ!ちょっと待って!」


俺はその本を持っていった。


「…あの、この本を借りていきたいんだけど、どこで借りればいい?」

「あれ?ヨシナカってそんなに本が好きでしたっけ?」

「いや、これは特別。」

「…それって、極秘書物で持ち出し禁止のやつじゃないですか?」

「え?」

「ほら、他国に魔法の技術を持ち出されると厄介ですから。そういう内容の本は基本、持ち出し禁止なんです。」

「…どういうこと?」

「…言っていませんでしたっけ?この世界では基本、魔法の使用は禁止されています。」

「え!?」

「この前話した黒い人のせいですよ。世界中で、魔法を無くす動きが続いていまして。」

「…じゃあ、バンバン魔法使ってる俺達って犯罪者じゃない?」

「政府の特別許可があれば大丈夫です。」

「…俺、無いんだけど。」

「…。」

「無視!?」

「とりあえず、それは返してきてください。」

「…うちの村では簡単に魔法の研究書を持ち出せたけどな…。」

「あれはうちの村が異常なだけですよ。基本、これが普通です。だから私とアイリスが魔法を学ぶとき、どれほどこの場所に行き来したことか…。」

「…仕方ない。返してくる。」

「早くしてくださいね。これから食事をするんですから!」

「はいはい…」


俺はその本を本棚に返しに行った。


(…この本、魔法の技術を書いた書物でもあるんだよな。…ということは、異世界への入門方法は、やっぱり魔法と関係があるのか…?)


俺はその本を本棚にそっと戻した。

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