何処にでも、誰にでも、異世界でも、秘密はある。(2)

結局三本ほどだけ薪を割って家に戻った。


「ご飯できてる?」

「もう少し待て。」


エプロン姿のアニキが答えた。


「…お、おう。」


俺はソファーで長様の毛繕いをしているシャルルに聞いた。


「…何でアニキが料理してんの?」

「私が戻ったときには既に料理をされていたんです。なので、そのままお任せしました。」

「そう。…何か、似合わないな…。」


あれ、実質裸エプロンだもんな…


アニキは器用にフライパンを振り、そのまま皿に料理を盛り付けた。


「ほら。出来上がりだ。冷めないうちに食べろ。」


俺の席に皿が置かれた。


「いただきます…。」


俺はその料理を口に運んだ。


「…うまい…。」

「当たり前だ。」

「意外だな。料理できるなんて。」

「お前が企画書を書いている一週間、色々調べて覚えた。」


…これが世に言うギャップ萌えという奴か…?


「…?」

「…いや、違うな。これは、どちらかと言えばロリコン野獣変質者だ。」

「誰がロリコン野獣変質者だ。突くぞ。」

「だからその格好で突くはやめろって…。」




遂に、都に行く時が来た。


「じゃあ、行ってきます。長。」

「何いってるー?」

「?」

「私も行くのだー。」


長は俺の背中に飛び乗った。


「でも長、まだ都の人はキメラが人間から生まれてるってこと知らないんだぞ?」

「私もー、人間達が、キメラが人間から生まれてるということを知らないということを知らないー。よってセーーフ。」

「アウトだろ…。」


すると、シャルルが俺に伝えた。


「大丈夫です。キメラが人間だという内容は、この前知人に連絡しました。さっき魔法を使って確認したところ、今回私達を護衛してくれるのもその人達らしいです。」

「護衛?」

「私、王女ですから。」

「あぁ…じゃあ、いいのか。…となると、やっぱりアニキも来るよな?」

「愚問だな。」

「…だよね。」

「いいじゃないですか!皆で行きましょう!」


シャルルは魔法陣を書いた。


「いざ、都へ!」


シャルルは魔法陣を発動させた。






魔法が解け、都についた。


「…建物…?」


見渡すと、どこかの屋内のようだった。


「…広い。都の教会?」

「んむー。あそこに本棚があるー。」

「…しかし、あそこには大きなベッドもあるな。…いまいち何の目的で建てられた施設なのか、検討がつかん…。」


俺とキメラ二人は新しい場所を色々と観察した。


「…台所がない!都の者はどうやってあんな複雑な料理を台所なしで調理するのだ…!」


アニキが衝撃を受けていると、シャルルがそーっと話はじめた。


「あのー…。ここ、私の部屋なんですが…。」

「「「部屋!?」」」

「はい。」

「一個の建物じゃなくて!?」

「はい。」

「公共施設じゃなくてー?」

「はい。」

「台所がなくて!?」

「それは別に普通じゃないですか…?」


俺達は開いた口が塞がらず、しばらく放心していた。


「…いや、別に自慢したいからここに連れてきたわけじゃないですよ?ただ、都のビーコンがここにしかなくって…。」

「…流石都。部屋が大きい。」

「ああ。」

「褒めてつかわすー。」

「お褒めいただきありがとうございます。」


すると、シャルルは部屋のドアを開けた。


「多分、城の門の前で私の友達が待っています。行きましょう!」


俺達はシャルルについていった。



城の中を歩いている途中に、一人の騎士に出会った。


「…!シャーロット姫様!お帰りでしたか!」


(…シャルルの知り合いの騎士かな?)


俺達は静かにした。


「一時的にですがね。…お久しぶりですね。シモン。その後変わりはないですか?」

「大きな事件などはありませんが…。最近、国王様はずっと落ち込んでいらっしゃいましたよ。」

「何故?」

「シャーロット姫様が都から出ていったショックでですよ。一ヶ月くらい前は、ソフィア姫様も私と共に遠くまで旅をしましたから、その間はほとんど何も口にしていなかったと…。」

「…お父様って、そんなに親バカでしたっけ?」

「はい。当のお二人はあまり気付いておられないようですが。」

「…まあいいです。私達はこれから城の門の前まで行って、ソフィーとアイリスに会うので。それじゃ。」

「お供しますよ。」

「いいです。この距離ですし。」

「…その…シャーロット姫様を疑うわけでは無いのですが、後ろの方達がやたら心配なんですよ。特に槍を持ってる…犬のような…顔の…。」


と、その騎士は自分で言っていて、アニキをキメラだと認識した。


「…これはどういう状況ですか?」

「ああ、大丈夫ですよ?彼らは味方です。」

「…やはりお供させてください。」

「仕方ないですねー。分かりました。」


その騎士は、シャーロットの横についた。


「…よく見れば、こちらの子供も耳と尻尾が生えている…。」

「んむー?何か文句あるー?」


すると、こっちも観察してきた。


「…ということは、この者もキメラ…?」

「いや、俺は人間。」

「…どういう構成…?」


シャルルは話題を変えてきた。


「私がいない間に何か面白い話はありませんでしたか?」

「…そうですね。ソフィア姫様のお気に入りの騎士が一人増えました。」

「ルークですか?」

「ルークは既にお気に入りの一人です。」

「それもそうですね。」

「プカクという名前でですね、南のノンノ村というところから来た剣士 兼 鍛冶職人です。」

「聞いただけで既に面白そうですね。」

「ソフィア姫様が私と共にノンノ村に旅をしていた時に出会いまして。ソフィア姫様が気に入られて、そのまま試験なしで入隊させました。」

「え!」

「…?」

「王女っていう称号を使えば、一般人を騎士団に入隊させることも可能なのですか!」

「はい。王様は子思いな方ですから。」

「…ビックリですね…。」



しばらく歩いて、門の前に着いた。

門の前には三人立っている人がいて、シャルルはそれを見つけるやいなや、全速力で駆け寄っていった。


「ソフィー!アイリスー!久しぶりー!」


そう言って、シャルルは二人の女性に抱きついていった。


「おわっ!お姉さま!何で後ろから出てくるんですか!」

「何というか、どこまでもシャルルらしいよねぇ。」

「会いたかったですよー!このこのー!」


シャルルは二人に頬を押し付けた。


(…あれがソフィア姫様か。確かに顔はシャルルと瓜二つだな。…ただ、ソフィア姫様の胸は…小さいな。シャルルの妹なのに。)


などと、くだらないことを考えながら、俺達は歩いてその現場に近づいた。


「…あの。」

「あー、そうでしたね。まずは紹介しないと。」


シャルルは俺達三人の背中を押して前に出させた。


「右から、長、アニキ、ヨシナカです!」

「へぇ。全員キメラのお友達ですか?」

「いえ。ヨシナカだけは人間です。」


そう言うとピンと来たのか、ソフィア姫様と思われる人がシャルルに絡んできた。


「あれあれー?もしかして、お姉さまはこういう殿方がタイプなんですかー?」

「そうですね。ヨシナカのことは好きです。」


俺はその好きはLikeだということを知っていたのでその発言に特に反応はしなかったが、ソフィア姫様は滅茶苦茶反応した。


「キャー!お姉さまったら大胆!…プカク。見習いなさい!」

「何でそこで俺なんですか…。」

「あなただって煮え切らない関係を持ってるじゃないですか!故郷に!」

「今はその話はいいでしょう…。それより自己紹介を…。」


すると、シャルルはその少年に興味を持った。


「…彼が噂のプカクですか?」


少年が返事をした。


「…はい。俺がプカクです。はじめまして。シャーロット姫様。」

「はじめまして。…結構若いんですね。おいくつですか?」

「16です。」

「へぇ。じゃあ、ソフィーと同じですか。なるほどねぇ…。」


シャルルはプカクさんをまじまじと見つめた。


「…この人がソフィーのお気に入りですか。てっきり女性の騎士かと思っていたのですが。…ソフィー。もうルークのことは吹っ切れたんですか?」

「え!?」


ルークという名前を聞いた瞬間、ソフィア姫様が動揺した。


「ルークですよ。ほら、子供の時に何回か遊んだ…。」

「あー!あー!あー!うーん、どうかなー!最近は会っていないので!」

「吹っ切れたかどうかを聞いているんですが…。」

「その話はもういいじゃないですか!それより彼らに私とアイリスを紹介しないと!」

「…それもそうですね。」


そう言って逃げるソフィア姫様に対して、プカクさんが追い討ちをかけた。


「…へー。ソフィア姫様にもそんな関係の人がいるなんてなー。これは良いことを聞きましたー。」

「…プカク。他人の心を知ったように話すのは傲慢です。」

「うわー。面倒くさい人ですねー。」

「くっ…!」


すると、耐えきれなくなったソフィア姫様はアイリスの後ろに隠れた。


「アイリス!自己紹介を頼みます!私の分も!」

「えー?あー、えーっと、私はアイリス=マキリです。歳はシャルルの四つ上の22歳。騎士団の中の討伐隊という隊の隊長をしてます。…えー、シャルルとはマブです。後ろにいるのはソフィア=スプヤ。シャルルの妹で、歳はシャルルの二つ下の16歳。スプヤ国第二王女です。…こんな感じでいいかな?シャルル。ソフィー。」

「はい。」

「…やっぱこういう堅苦しいのは私に似合わないわ。ねぇシャルル。この後予定ある?」

「うーん、お父様にキメラの安全性について一筆書いてもらいに行きますかね。」

「そんなの、書類通せばやってくれるよ?」

「本当ですか!?」

「実際、プカクの入隊は書類一枚で済んだしねー。」

「…ということは、書類を通せばお父様に顔を会わせなくていいんですね!」


何てこと言うんだこの姫様は…。


「そうそう!だからさ、これから久しぶりに遊ばない?」

「いいですね!そうしましょう!皆さんも、異論はないですね!?」


俺は口を挟んだ。


「ちょっと待って!書類を受け取ったら俺はすぐに村に帰りたいんだが!」


シャルルが真顔で答えた。


「…いいんじゃないですか?歩いて帰れば。」

「えっ」

「それにぃー、書類も私が書かなくても別にいいわけですしぃー?結果はどうなるか知りませんが。」

「うっ…。」

「それにぃー、今の状況って、王女に刃向かっている訳じゃないですかぁー。それってぇー、刑罰に値するんじゃないですかぁー?」

「この人、めっちゃ王女を強調してくるじゃん!」

「で?どうなんですか?」

「分かったよ…。ただ、キメラの二人をちゃんと守ってくれよ?」


今度はソフィア姫様が返事した。


「それは、そこのプカクがやってくれます。」

「丸投げ!」

「そういうことです!じゃ、行きましょー!」


仲良し三人組は俺達を置いて先に行ってしまった。

すると、プカクさんが俺の横について言った。


「諦めた方がいいですよ。姫様は興味のあることを見つけたら、それに突っ走っていってしまわれるので。」

「あー、何となく経験あるわ。」


水銀とか、水銀とか、水銀とか。あと水銀。


「…お互い、苦労してるみたいですね。」

「みたいだな。」


俺達は三人の後を追った。


「…ヨシナカー。おんぶー。」

「はいはい。」


俺は長をおんぶした。


「…キメラですか。始めて見ます。」

「んむー?何だこらー。文句あんのかー。」

「いえ。文句ではありません。珍しいと言っただけです。」

「…んむー…。」


長は俺の背中に顔を埋めた。


「キメラって、やっぱり北にしかいないのか?」

「みたいですね。俺はキメラには会ったことがないです。化物なら何匹も斬ってきたんですが。」

「化物…?」

「黒い体で、力が強くて、森に棲んでいる生き物です。この外套も、化物の毛皮でできています。」


俺はその外套を見た。


「…ああ、熊のことか。」

「クマ…とは」

「いや、何でもない。化物の地方的な呼び方だよ。」

「…そういえば、ヨシナカさんはどこから来たんですか。大分個性的な名前ですが。」

「ジパング、ジャパン、日本のどれかで呼ばれてる国。」

「…聞いたことないですね。」

「だろうな。この世界には無いしな。」

「…。」

「…話は変わるが、あの二人の王女、どう思う?似てると思うか?」

「…非常に似ていると思いますよ。まあ、似ていない部分もありますが。」

「あ、やっぱ思っちゃう?」

「…まあ。仕方ないですよ。あれだけ女性的な部分に差があると。」

「…何か言い方がテクニカルだな。」

「あまり直接的に言うとソフィア姫様が怒りますから。胸部のことは結構気にしていらっしゃるので。」

「…シャルルの方は新期造山帯の山脈レベルだけど、ソフィア姫様の方は楯状火山レベルだもんな…。」

「…?」

「…つまり、シャルルの方は隆々たる山脈だけど、ソフィアさんの方は扁平たる丘ってことだ。」


そう言うと、プカクさんが吹き出した。


「…ハハハハハッ…ックッ…!」

「…え、そんなに面白かった?」

「…フフフハハハハッ…!」


え…?めっちゃツボってるじゃん…。


「…ッ…!…すみません。今落ち着きますので…。」


そう言うと、プカクさんは大きく息を吸った。


「…もう大丈夫です。」

「…何か、あまり笑わないイメージだったけど、意外と笑うんだね。」

「いえ。俺も人前で笑うのは久しぶりです。」

「…楯状火山。」

「フフハハハっ…。…くっ…ハハハハハハ!」

「堪えきれてないじゃん。」

「ハァ…ハァ…。どうか、ソフィア姫様の前では言わないでください…。面倒くさいことになるので…。」


すると、アニキがプカクさんに話しかけた。


「…お前、ずっと見ていたが、只者じゃないな?」

「流石アニキ。唐突だなー。」

「…いえ。まだまだ只者です。」

「惚けても無駄だ。お前のその腕の筋肉。手の豆。足の運び。見ただけでわかる。お前は強い。」

「いえ。俺は一端の隊員に過ぎません。」

「…あ、そうだ。そういえばプカクさんって、姫様の推薦で、…騎士団…?に入ったんだっけ?」

「はい。」

「じゃあ、超エリートじゃないの?」

「いえ。機会に恵まれただけです。」


すると、アニキが槍を構えた。


「御託はいい。俺と手合わせしろ。お前の実力を見てみたい。」


するとプカクさんはゆっくりと刀を構え、暫くして構えを解いた。


「…また機会があればにしませんか。今はあの姫様達を追わないと後が怖いので。」

「あ、本当だ!結構離れてる!行こう!アニキ!」


と、俺がアニキの方を振り返ると、アニキは槍を構えたまま固まり、ひどく青ざめていて、大量の汗をかいていた。


「…え?」


俺はプカクさんに駆け寄って聞いた。


「…ねぇ、アニキに何したの?」

「…戦士だけに分かる挨拶みたいなものをしただけです。」


戦士じゃないから全くわからん…。

すると、仲良し三人組が俺達を呼んだ。


「皆さーん!遅いですよー!」

「…行きましょう。」

「おう。」


俺達は三人を走って追いかけた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る