異世界でも、過去と向き合うのは辛く苦しい。(4)
「…あの。長。」
「んむー?」
「何で村まで一緒についてきてるんですか?」
「私、ヨシナカのお嫁さーん。」
「それ、今日からなんですか?」
「そのとーり。」
長は俺の背中に飛びついて、おんぶの状態になった。
「…百歩譲ってそれは分かるんだけどさ。」
俺は後ろを振り返った。
「何でアニキまでついてきてんの?」
「長を一人にするわけにはいかないだろう。まだお前を完全に信用したわけではないからな。」
アニキは槍を持って、完全戦闘体制だった。
「…そういえば、長の番号って何番なんですか?」
「私ー?」
「はい。」
「1ー。」
「本当に初期の初期じゃないですか!」
「そーだぞー。戦争用に作られたモデルとしては初号機ー。」
それでこの姿って…。制作者はロリコンか?
「戦闘用ってことは、長は人間より強いんですか?」
「私は弱いー。私はキメラの統括と情報の記録要因ー。戦闘力は必要なかったー。むしろ反乱を起こされないように極限まで筋力を削がれたー。」
ああ、だから幼女なのか。やっぱり幼女は最高だな。
「なーヨシナカー。」
「何です?」
「敬語は止めろー。私、ヨシナカのお嫁さーん。」
そういえばそうだな…。
「分かりました。」
「やり直しー。」
「…分かった。」
そうフランクに返事をすると、後ろでアニキが俺に槍を向けた。
「いや、もうどうすればいいんだよ!」
「長の命令ー!」
「…はい。」
「23もヨシナカを傷付けるの禁止ー!分かったー?」
「…はい。」
お互い、拒否権は無いようだ。
俺は村を歩いて、家についた。
鍵は相変わらず焼き切られているので、そのまま入った。
すると、扉を開ける音を聞いて、シャルルが出てきた。
「お帰りなさい!ヨシ…ナ…カ!?」
シャルルはキメラを見て面食らった。
「ただいま。」
「…ヨシナカ。もしかして。」
「はい。交渉成立しました。」
「いや、それは良かったんですけど、そうじゃなくて、その…この方たちは?」
「キメラの長と、そのボディーガードです。」
「…。」
シャルルはキメラを見上げたり見下げたりした。
「ヨシナカー。この女は何ー?」
「変な聞き方しないで?ただの友達だから。」
「何て言ってるー?」
「いきなり長が来たから、混乱してるんだよ。」
すると、長がトコトコとシャルルの方に近づいた。
「んむー。私は怖くないー。」
そう言って、シャルルの足に抱きついた。
「ヨシナカ!この方は何とおっしゃっているのですか!?」
「あー、『私は怖くない』だって。」
「そうですか!」
シャルルは長に抱きつかれて体がガッチガチに強張っていた。
まだシャルルは翻訳の魔法をかけられていないのでキメラの言葉を話せず、いちいち翻訳するのが面倒くさくなってくるが、しかし、あまり居酒屋のおばあさんに頼るわけにもいかないので、我慢した。
「あの…そちらの方が終止槍を構えていらっしゃるのは何故でしょう…。」
「こいつは基本、人間を疑ってかかるからな。まあ、長に何もしなければ無害だ。」
すると、長が俺の服の裾を引っ張った。
「ヨシナカー。お腹減ったー。」
「分かった。ちょっと待っててくれ。すぐに何か作る。嫌いなものとかあるか?」
「骨が多い魚ー。」
「それ、食べるのが面倒くさいからでしょ。俺も嫌いなんだよ。骨の多い魚。」
「おぉー。さすが私の夫ー。よく分かってるー。」
「アニキは?」
「煮豆とキノコが嫌いだ。」
「二人とも変なところで人間臭いな…。」
俺は台所に向かった。
台所で料理をしている間、シャルルとキメラを三人だけにするのは気が引けたが、最近シャルルに料理を任せっぱなしだったので、俺は自分一人で料理をすることにした。
20分後。簡単に料理を完成させた。
「お待たせー。」
俺が料理を運んでくると、何故か三人は既に仲良くなっていた。
長がシャルルの股の間に座って、シャルルは長の頭を撫でながらアニキと話していた。
「あれ…シャルル、何でキメラの言葉を話せてるの?」
「床に魔法陣を書いて、キメラの方々が私たちの言葉を理解できるように魔法をかけました。おばあさんの魔法を模倣したものです。」
「魔法陣って、そんな使い方もできるのか。」
それだったら俺がキメラの言葉を理解できるようにするのも、シャルルに頼めば良かったかなぁ…。
すると、アニキが俺に話しかけた。
「シャーロット様は本当にいい人だな。俺が忠誠を誓っているのは長だが、もし長がいなければこの方に仕えていただろう。」
「いえいえそんな。私はそこまで凄くはないですよ。」
「シャルルー。私シャルルの妹になるー。」
「えぇ?長様のほうが年上じゃないですか。」
「妹に歳なんて関係なーい。」
「いや、結構関係あると思いますよ?定義がありますし。」
本当にこの20分で何があったんだ…。
俺達は料理を平らげ、早速俺はシャルルと話を始めた。
「とりあえず、今後やっていくのは起業の申請と、キメラについての調査書の提出と、キメラの戸籍登録か。」
「調査書?」
「この前役場に、仕事をキメラに与えるっていう話をしたら、キメラの安全性を保証するものが必要って言われてな。何も思い付かないからとりあえず、調査書でも書いて提出しようかなーと。まあ、厳しいだろうけど。」
「…キメラの安全性ですか。確かにそれは問題になってくるでしょうね…。」
「何か一発で審査が通るような証明書でもあればいいんだけどね。国のお墨付きとか。」
「…。」
「…?どうかした?」
「…いえ…心当たりが一つ…。」
「本当に!?」
俺は前のめりになって聞いた。
「それってどういうもの!?どこで申請すればいい!?」
「あの、落ち着いてください!今話しますから!」
俺は椅子に座り直した。
「…簡単な話です。我が国の王様に一筆書いてもらえばいいんです。」
「いや…国王に一筆って…。それ、ハードル高くない?それに、宛てがないし…。」
「…あるんですよ。それが。」
「あるの!?」
「はい。」
「じゃあ、それでいいじゃん!どうにかして王様に一筆書くように頼めないの!?」
「はい。できると思います。でも…。」
「でも?」
「…都に行かないといけないと思うと、少し憚られるんですよねー…。」
「そんなことで…。」
「あっ!そんな事って言いましたね!?私、これでも結構嫌なんですからね!?」
「シャルルが都に行くことを拒否することでキメラとの関係改善は遠い未来の話になっちゃうかもしれないけど、いいのかなー?」
「くっ…!その言い方、腹が立ちますね…!」
「実際煽ってるからね。…俺は、結構この事業に対して腹を括ってるんだ。できることは全部やるつもり。…シャルルはどうなの?」
「…そうですね。私も腹を括らないといけないですね。」
すると、シャルルは自分の頬っぺたをパシンと叩いた。
「よし!私も本気を出します!明日の朝から都に行って、国王に一筆書いて貰いましょう!」
「おー!」
その夜、俺は薪を焚いてお湯を沸かし、風呂に入れた。
「今日はお風呂に入るんですか?」
「明日は都に行くんだろ?少しは綺麗にしていかないと。」
この前、キメラと同じ臭いがするとも言われたし…
「そうですか。じゃあ、失礼でなければ私も入っていいですか?」
「ああ。どうせ一回沸かしたなら、多い人数入るほうが得だしな。」
奥で、長が両手をいっぱいに上げながら言った。
「ヨシナカー。私も入るー。」
「はいはい。ついでにアニキも入るかー?」
「長が入りなさるなら。」
「分かった。じゃあ、パパっと入る。冷めたら気持ちよくないもんな。」
俺は脱衣所に入り、服を脱いだ。
「風呂風呂ー。」
俺は中を覗いた。
「家を借りたときから思ってたけど、岩風呂って贅沢だよなー。」
俺は湯船から湯を取って、体にかけた。
「温けー!」
その温かさは、極寒の体に染み渡った。
「体洗うか。」
俺は密かに作っていた、灰汁と油で作った自家製石鹸で体を洗った。
「ケン化万歳!流石は現代化学!…まあ、作り方自体は紀元前の方法だけど。」
俺は体を洗っていると、ある異変に気付いた。
「…俺って、足の付け根にこんな傷あったっけ?」
よく見てみると、両腿の付け根に一つずつ。そして両肩の付け根にも一つずつ。両股、両肩を一周するような形で傷がついていた。
「…こんな怪我、したっけ?」
俺が元の世界にいるときは特に大きな怪我はしていなかったので、恐らくここでついたものだろう。
しかし、何処でついたのか心当たりがない。
「…まあ、ここのところ本当に大変だったからな。ついてても気付かんかもな。」
すると、いきなり風呂の扉が開いて、長が入ってきた。
「ヨシナカー。」
「どうした?長。」
「私も一緒に入るー。」
「えぇ?何で?」
「むぅー!私、ヨシナカのお嫁さーん!」
「はいはい…分かりました…。」
(まあ、長ならいいか。見た目子供だし…。)
「お背中お流ししまーす。」
「ん。」
俺は長に背中を洗われた。
「お頭お流ししまーす。」
「いや、頭は自分で洗う。」
「んむーっ!」
「…やりたいの?」
「んむ!」
「…分かった。よろしくお願いします。」
「よろしいー。」
俺は長に頭を洗われた。
「いいですね。仲睦まじくて。後で私にもやってくださいませんか?」
…ん?
「いいよー。」
「ありがとうございます。」
頭を洗われている途中なので目が開けられない。が、気配と声で感じる。
「…まさかシャルル?」
「…?はい。」
「何で入ってきてるの?」
「だって、お風呂に入っていいと…。」
「時間差って知ってる?」
「…?でも長様とは一緒に入ってるじゃないですか。」
「シャルルは大人でしょ?」
「んむー。私60歳ー。大人ー。」
「そうですよ。それに、大人と子供で区別するのは、いけませんよ?平等に扱わないと。」
「この場合は必要でしょ…。…まさか、裸じゃないよな?」
「?何を言ってるんですか?当たり前じゃないですか。」
「ははは。そうだよなー。」
「服を着ていたらお風呂には入れません。」
「俺、出るわ!!」
俺は頭に泡を残したまま脱衣所に走った。
すると、俺はシャルルに腕を掴まれた。
「何で出るんですか!一緒に入れば良いでしょう!?」
「シャルルはもっと女としての自覚を持て!そして俺を男だと認識しろ!」
「あなたが男で私が女だということはちゃんと認識しています!」
「シャルルはそれより先を何一つ認識してないんだよ!」
「じゃあ教えて下さい!男と女ということのその先を!」
「その言い方はアウトだぁぁぁぁぁ!!!」
結局話し合いの末、俺は何故かアニキと一緒に入ることになった。
「どうしてこうなった…。」
「それは俺が聞きたい。何故長と一緒に入れさせてくれんのだ。」
「…その言い方、外ではするなよ。」
「何故だ?」
「ロリコン変質者と間違われるからな。」
「誰がロリコン変質者だ。突くぞ。」
「…男風呂の中では『突く』って言い方も止めとけ。ロリコン野獣変質者と間違えられる。」
「じゃあ殴ろう。頬を出せ。」
「ゴメン!ゴメンって!」
アニキは体を洗うと、風呂に入ってきた。
「…なあアニキ。」
「何だ。」
「何で長は60年も生きているのに見た目が幼いままなんだ?」
「長がおっしゃっていただろう。長は戦闘要因じゃなかったんだ。筋力を極限まで削がれた結果、あの姿で生まれなさったのだ。」
「そうじゃなくてさ、何で長は老化したりしないんだ?成長しなければ老化していくだろ。」
「そういう話か。仕組みについては知らんが、噂では、ある存在を生み出す為の実験の一環で、老化を遅らせる遺伝子を組み込まれたらしい。」
「ある存在?」
「ああ。『アルカナ=フルホールド』だ。不老不死、絶対防御、最強無敵とされる存在。すべての生命体の頂点となる存在だ。」
「何の為にそんなものを?」
「表向きには戦闘用だ。」
「…裏向きには?」
「人間の愚かな好奇心だ。」
「…なるほどな。」
「まあ、あくまで噂だ。そういう話は長に直接聞け。」
すると、アニキが湯から出た。
「早くないか?」
「人の水浴びは熱すぎる。これくらいでいい。」
「そう。」
「…長のことだが、あの御方は体だけでなく心の成長も止まっておられる。だから、長がお前の嫁になるという話を本気にするなよ。」
「分かってるって…心配性だな…。」
「分かっているならいい。」
そう言って、アニキは風呂場から出た。
(『アルカナ=フルホールド』ねぇ…。)
俺もアニキに続いて風呂を出た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます