異世界でも、凄惨な過去から人は学び、そして風化する。(3)

丁度いいので、何か仕事についてヌイさんにも聞いてみることにした。


「あ?仕事?すまんな!ウチはもう家族の分でいっぱいいっぱいでな!雇ってはいないんだ!」

「ヌイさんの畑なんてこっちから願い下げですよ。そうじゃなくて、何か仕事があるところを知りませんか?」

「いや!知らねぇな!大体、仕事がない奴は朝市で商品を売って稼いでいるんだ!農家とかは基本的に代々受け継いでるからな!」

「はぁ…。」

「まあ、どうしても農家になりたいなら、自分で畑を耕すことだな!」

「…なるほど。自分で仕事を作ってもいいのか。」


すると、食器を洗っていたシャルルも話に参加してきた。


「でも、自分で新しくやる仕事は大変ですよ?自分で全てどうにかしなければいけませんから。ヨシナカにはノウハウもまだないようですし…。」

「なるほど…。」


俺はウームと考えた。


「…見たところ、朝市はほとんど飽和状態だったし、俺があの人達と同じ事をやったところで苦しいだろうな…。」

「別に、生きていけるだけのお金があればいいんじゃないですか?」

「いや、シャルルに借りたお金があるでしょ。」

「…この際もういいですよ。あのくらい。」

「ダメ。お金にはルーズになっちゃいけない。一円単位で管理しなくちゃ。…あ、エルサだったか。」

「何だ!?姫様に借金か!?こりゃ怖い!払えなかったら内臓引っこ抜かれるぞ!ガハハ!」


それ、冗談じゃなさそうだから怖いんだよなぁ…


「…それに、俺の最終目標はここで生きることじゃなくて、元の世界に帰ることなんだ。そのための調査資金も集めたい。とりあえずそれも考慮して、俺は自分で仕事を作らないといけないだろうな。」


俺はまた考えた。


「…需要だな。」

「需要…ですか?」

「仕事って言うのは、どんな形であれ、何かを提供することだ。農家は野菜を提供しているし、商人は商品を提供している。シャルルだって、国と村を繋ぐという利益を提供している。要は、仕事はそもそも世間が欲しがっているものを提供しないと意味がない。」

「おぉ…難しいことを言いますね…。」

「…シャルル。ヌイさん。この村で『あったらいいな』っていうものはあるか?」

「そうですね…。やはり、木でしょうか。薪は相変わらず都から輸入しないといけないですし、不便なんです。…あ、あと塩ですね。これもここでは凄く高いんです。」

「うーむ!俺の畑によくキメラが来るからな!追い払うか、柵を作るとかする人が欲しいかな!」

「…キメラですか。」

「ああ!朝方にやって来て、うちの野菜を取っていくんだ!その度に追い払うんだ!面倒くさいったらありゃしねぇ!」

「…彼らも生きるのに必死なんですよ。」


俺はその話を聞いて、頭のなかで考えた。


「…まず木は、収益を出すのに時間がかかりすぎる。俺はあまりここでの時間を長くしすぎたくはないから、これは断念だな。残りは塩かキメラだ。…俺の予想だと、俺にはキメラの仕事の方が良い。」

「何でですか?」

「この前、シャルルも言っていただろう?キメラは数々の被害を出しているって。だから、全ての人々に『何とかしなきゃ!』という感情はあるはずなんだ。…この、『全ての人々』というのが重要だ。より多くの人に需要がある。それに、キメラを退治する仕事っていうのはあまり無いみたいだし、価格競争も少なさそうだ。だからキメラの仕事の方がいいと思う。」

「…塩、いいと思ったんですけどね…。」

「確かに塩は需要もあるし高いだろうけど、塩が金と同等かそれ以上の価値で取引されることはないだろ?」

「ええ、まあ。」

「じゃあ、内陸で最果てのこの村だったら大分安い方だ。需要はあるかもしれないが、俺達が現状の市場と同じ価格で売ったとしても、供給が追い付かない。少ない労力で仕事をすることを考えると、やっぱりキメラの仕事の方が効率がいいと思う。…というか、そもそも塩は岩塩を取れる場所が無いと始まらないしな。」

「キメラの仕事って…キメラをどうするんですか?」

「追い払う仕事をするか、寄せ付けない商品を作るんだ。丁度、俺の世界には『かかし』という害獣避けアイテムがあるんだ。それが効果を示すようなら、結構儲かると思う。後はまあ、あまりに頻繁に出没するようだったら、退治したり。これも問題は供給だな。価格設定は俺達の自由だが、それ相応の品質と効果、それに生産力が必要だ。」

「…退治って、キメラを殺すんですか?」

「いや、殺しはしないよ。殺すことはこの村ではあまり好まれないみたいだし。あくまで撃退だ。」

「そうですか…。」


シャルルは少し複雑な表情でうつ向いた。


「とりあえず、そうと決まれば行動だ。明日からキメラの生態を調査するよ。何を嫌うかとか分かるといいんだけど。」


そう言って、この話題はここで止まった。


「…お茶、いれますね。」


すると、途中からボケーっと聞いていたヌイさんがようやく喋りだした。


「…何かよくわからんが、頑張れ!俺は畑があるから!また来るわ!」

「今度はちゃんと俺がいる時にドアをノックして来てくださいね。」


了解したのかしていないのか、ヌイさんはそのまま何も言わずに出ていった。

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