異世界でも、凄惨な過去から人は学び、そして風化する。(1)
扇子も持ち、朝食も食べたので、早速帰宅しようとシャルルに魔法陣を書いてもらうように頼んだのだが、シャルル曰く「こんなに天気のいい日に歩かないなんてもったいないですよ!」ということで、結局コッコ大佐は使わずに、徒歩で帰ることになった。
「今日は風が暖かくて気持ちいいですね!」
「いや…寒いでしょ…。早く帰ってハーブティー飲みたい…。」
「…あ、そうだ!この辺りでハーブティーに使うハーブも摘んでいきましょうか!」
そう言うと、シャルルは草原に走っていった。
ハーブを摘むシャルルを見ながら、俺はこれからする仕事について考えていた。
もとの世界ではまだ就職など考えておらず、俺にとってそもそも『働く』ということ自体曖昧だった。
故に、ふとした瞬間何とも言えない不安感が襲ってくる。
「…そういえばシャルルってさ、今は何やってんの?」
「…?ハーブ摘みです。」
「そうじゃなくて、ほら…マオイだったら農家だし、俺だったら、向こうの世界では学生だったし。シャルルって何やってるのかなって。」
「あぁ…。私なら、この村と国を繋ぐ大使をやっています。」
「大使…。何か、お偉い感じのワードが…。」
「いえ!そんなことはないんです!仕事自体は村の式典に出席したり、先程のように村の人々と交流するだけで、ほとんど何もせず好きに生きているんですよ。…あの…この前、この村のことについて話したでしょう?」
「ああ、黒い人の話?」
「そうです。…この村は、スプヤ国のなかでも極めて異質なんです。スプヤ国が戦争で勝利できたのは、ほとんどこの村のお陰だったので、この村はスプヤ国の一部でありながら、国家レベルの影響力を持っているんですよ。…まあ普通、王様はそんな村をどうにかして抑えるか追放したくなりますよね?それで、危うくこの村が国から経済的に隔離をされかけたんですが、私が尽力して何とかくい止めることができたんです。」
「え…すごいじゃん。」
「…私は、幼い頃この村を訪れた時から、この村が大好きだったんです。この景観も、人も、動物も、壊したくありませんでしたので。…まあ、これもある種のエゴなのでしょうけどね。」
「…なんか、凄いな。俺なんて何も行動できてないのに。」
「いえ。私からしてみればあなたの方が凄いです。自分で何かを成し遂げられる力があるのは素晴らしいことですよ。私はいつも、誰かに助けられてばかりですから。」
シャルルはハーブを摘み終わり、立ち上がった。
「…行きましょうか。」
「そうだな。」
俺達は家に向かって歩きだした。
「何で急にそんなことを?」
「いや…俺の仕事について色々考えていてな。」
「ヨシナカなら大丈夫です。私が保証します。」
シャルルはニコリと笑ってそう言った。
家につくと、俺は鍵を取り出そうとしたが、朝のことを思い出して止めた。
俺はそのまま部屋に入り、ソファーにドカッと座った。
「おう!お帰り!お昼作っといたぞ!」
…え?
「いやー、今年はジャガイモが豊作でな!知ってるか!?こうやってジャガイモにチーズをかけるだけでも旨いんだ!」
ヌイさんが溶かしたチーズをジャガイモにかけながらそう言った。
「…ふ…」
「ふ?」
「不審者だーーーーっ!」
俺は思わず叫んでしまった。
「何を言う!俺だよ俺!ヌイだ!もう顔を忘れたのか!?」
「いやいやいやいやいやいや!いや!不審者は知り合いだとか知り合いじゃないとかじゃないですよ!何勝手に家に上がり込んで蒸かし芋作ってるんですか!」
「いいだろ別に!物を盗んでるならともかく、むしろ昼飯を提供してるんだぞ!?」
「ちょっとシャルル!どう思うこれ!流石にこれはアウトでしょ!?」
すると、シャルルはこっちを向いて言った。
「…ヨシナカ。大丈夫ですよ。すぐに慣れます。」
「あ!これ俺がアウェイなの!?ここでは俺がおかしいの!?」
「ガハハハハハ!面白い奴だな!ほれ!芋食え芋!」
「ちくしょう!いただきます!…うん!悔しいけど旨い!」
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