異世界でも、負の遺産は存在し、そしてそれに誰も触れない。(2)

「んぁ…?」

「んー…。」


昼になり、ようやくソファーの上の親子が目を覚ました。


「おはようございます。昼食は召し上がられますか?」

「…いや…帰るわ…。仕事あるし…。」

「俺も…。」

「そうですか。では、お気をつけて。」

「おう…また来るわ…。」

「はい。いつでもいらしてください。」


シャルルは、親子をそのまま玄関まで案内した。

ここ…俺の家…だよな?


「…では、魔法についてお話ししましょうか。」

「よろしくお願いします。」

「…あ、そうでした。私にはため口で結構ですよ?」

「…そう?」

「はい。昨日マオイから聞きました。あなたも18歳なんですね。」

「『も』ってことは、シャーロットも?」

「はい。なので、同年代の相手に敬語を使う必要はありません。」

「…でも、シャーロットは敬語使ってるじゃん。」

「私はこれがデフォルトですので。」


…何となく、この人がお姫様と呼ばれるに相応しい所を垣間見た気がする。


「…あ、あと、呼び方もシャーロットじゃなくてシャルルにしてください。」

「分かった。」

「では気を取り直して…。魔法について説明していきます。まず、魔法を使うには魔力が必要です。魔力というのは基本的には見えません。が、存在しているものです。そして、この世界全体に存在する魔力の量は一定です。また、無から力を産み出すことはできません。なので、魔力を魔法に変換するためには、何かから魔力を引っ張って来ないといけないんです。…分かりますか?ごめんなさい…説明が下手ですね…。」

「いや、言ってることは分かる。エネルギー保存の法則みたいなものでしょ?」


高校で物理を選択したのが人生で初めて生きた。


「エネルギー保存の法則…いい表現ですね。そう、そんな感じです。…魔力は色んな所に存在します。風、波、光、生き物や木々にも存在します。その中で魔法に変換しやすいのは、木片などの、動かなくて形のしっかりしているものです。…風や光からも変換できないことはないですが、それをするにはそれなりの技術や設備が必要です。」

「…風車とか?」

「そうですね。あの風車は風から魔力を取るために作られたものです。昔の大天才が考案したらしいです。」

「ここにも天才はやっぱりいたんだな。」

「ええ。この村のバリアの魔法陣も、その大天才が作ったものなんですよ?」

「へぇー。」

「話を戻しますが、魔法を使うにはルールがあるんです。」

「ルール?」


すると、シャルルは小指を立てた。


「その一。魔法を使うには術者、代償、対象の三つが必要です。術者は魔法をかける人。代償は魔法を使うために消費する生け贄。対象は、魔法をかける物を指します。この内、どれかが欠けてしまうと魔法は成り立ちません。」

「まあ、当然だわな。」


次にシャルルは親指を立てた。


「その二。代償として生きているものを使うことはできません。生命そのものが大きな魔法なんです。代償に使おうとすると、抵抗力が働きます。」

「つまり、人をいきなり炎の魔法に変えることはできないってこと?」

「怖いこと言いますね…。でも、その通りです。」


次にシャルルは薬指を立てた


「その三。魔法をかける対象として直接生きているものを指定することはできません。これも先程と同じ理由です。一部例外はありますが。」

「…つまり、人をいきなり火達磨にはできないってこと?」

「…一部例外はありますが。」

「え…何それ怖…。」

「まあでも、着ているものを燃やして火達磨にすることはできます。火達磨自体は結構簡単です。」

「ああ、なるほどね。」


次にシャルルは人差し指を立てた。


「その四。代償として、又は対象として、自分の魔法で作ったものは指定できません。その理由は、位相や魔法複合性などのかなり専門的な知識になってくるので、今は『へー』ぐらいの理解で大丈夫です。」

「えーっと…つまりシャルルの場合、薪から水を作ったとして、その水を対象にして火を起こしてお湯を作ったりはできないってこと?」

「そうですね。でも、もしもお鍋があるのでしたら、薪を代償に水を作ってお鍋に入れて、別の薪を代償に火を起こしてお湯を作ることはできます。要は、プロセスの問題です。楽はできないってことですね。」

「なるほど。魔法は基本、『間接的』なんだな。」

「そうです!」


俺はシャルルの手を見た。


「…独特な数え方だな。」

「そうですか?」


中指以外が立っている。俺も真似してやってみたが、シャルルほど綺麗に曲がらない。

…いや、そんなの今はどうでもいいんだよ!と、心の中で自分にツッコミを入れた。


「…黒い人もそうやって間接的に戦ったのか?直接攻撃できないのに、凄いな。対策とかもされただろうに。」


すると、シャルルはビクッと反応した。


「…黒い人のことをご存知なんですね。」

「ああ、本で読んだんだ。この村を守った英雄だって書いてた。」

「…英雄ですか…。そうですね。そうかもしれません。」

「…?」


俺は何故そこで曖昧な表現になるのかが分からなかった。


「…ここに住むなら、その事についてもお話ししておく必要がありますね。…少し長くなります。お茶でも淹れましょうか。」

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