異世界でも、負の遺産は存在し、そしてそれに誰も触れない。(1)

朝はやけに寒かった。


「ん…?」


俺は今なぜ寒いと感じているのかを、横で爆睡している親子を見て理解した。


「…まだ寝てんのか…。」


朝の日差しは窓から鋭く入り込み、空中に浮かぶ埃を照らしていた。

俺は伸びをし、洗面所で顔を洗おうとしたが、昨日の夜に、水の使いすぎに注意するように言われたことを思いだした。


「…外に出るか…。」


俺は顔を洗う代わりに日光浴をすることにした。

扉を開けて外に出て家の前に立つと、俺は目を瞑って大きく息を吸い込んだ。

鼻から入った空気はその冷たさで嗅覚を刺激し、胸一杯に広がっていく。

まるで身体中の悪いものが全て浄化されるように、清々しい気分になった。


「この村の空気はうまいよな…。」


一息つき、空を見上げた。

驚くほどの快晴で、朝焼けのグラデーションが空を覆っていた。


「今日も頑張ろう。」


そう思い、ふと顔を正面に向けると、家の前の道に何やらデカイ生き物がいた。

毛が生えておらず、痩せていて、顔は犬のように垂れた耳と鋭い牙が、体は猿のように背中が曲がっていて、長い腕があり、四足歩行している。

体長は2メートルから2メートル半ほどで、犬にしても猿にしても大きかった。

俺はその迫力と唐突さで足が動かなかった。

やがて、その生き物は動き出した。鼻を使って地面を嗅ぎ、その足で立ち上がって周りを見渡していた。


「下がってください。」


後ろから急にシャルルが出て来て俺の前に立った。


「うぉー!うぉー!」


シャルルは、自分の出せる最も低い声であろう高い声をあげながら、鉈を掲げて威嚇した。

するとその生き物はこちらを向き、暫く睨み合った。

酷い緊張感であった。胃を掴まれるような、心臓を握られるような感覚がその刹那を永遠まで引き伸ばした。

すると、その生き物は少しジリッと後ずさりをした。

そこに、シャルルはすかさず間合いを詰め、目で牽制した。

すると、その生き物は途端に背中を向けて走って逃げた。


「…もう大丈夫です。危機一髪でしたね。」


そう言うと、シャルルは鉈を下ろし、ニコリと笑った。


「あの…さっきの生き物は?」


俺がそう言うとシャルルは表情を変え、複雑な表情をした。


「…あれは獣。キメラです。夜行性で、朝方でも歩き回ってることがしばしばあるんですよ。」

「…キメラって野生に生息しているんですか?」

「…彼らは確かに野に生きていますが…生息できているかは分かりません。」

「…?」

「…。」


すると、シャルルは無理矢理笑って見せた。


「…薪を割っている途中でした。戻らないと。」


そう言ってシャルルは振り向き、少し歩いたところで立ち止まった。


「…その辺りの話も含めて、今日はあなたにこの世界のことを教えてあげましょう。」


そう言うと、シャルルは家の裏に向かった。

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