異世界でも、人とのコミュニケーションは苦痛にも安堵にも変わる。(3)
辿り着いた街は話に聞いていたように大きな風車があり、その側で人々が静かに暮らしていた。
爺さんは町外れに馬達を残し、何頭かだけ連れて街に入った。
爺さんは馬を置くと、古びた街並みの中で一際新しい建物の扉を開けてその中に入った。
中は居酒屋だった。まだ早朝なのにそれなりの人が集まり、酒を片手に色々と話をしている。
そんなことも構わず爺さんがマスターの所へ行く。
少し話し込んだ後に、マスターが奥に行ったかと思うと、今度は白髪のお婆さんが奥から出てきた。
その後、俺の前にやって来るとパパッと手を振り、そして話しかけてきた。
「どうだい?これで言葉が分かるかい?」
俺は急に相手の言うことが理解できるようになっていた。
少し予定調和感が否めない気もするが、今は生きるためだ。現状より良くなるのなら何でもいい。
「…はい。」
「そりゃよかった。」
自分で言っていて驚いたのだが、どうやら俺はこの国の言葉を聞き取るだけでなく、話せるようになったらしい。これも魔法のおかげなのだろうか。
「ホレ。話せるようにしたよ。」
「…助かる。」
すると、爺さんは代金をカウンターに置き、そのまま店を出ていった。俺もその後ろについていった。
馬を連れて歩くこと数分、今度はやけに賑やかな場所に来た。
市場である。道端には果実から野菜、穀物、肉や見たことのない工芸品まで様々だった。
その内の、動物を売っている店に爺さんは馬を連れていき、馬を渡して金貨を受け取っていた。
そのまま、爺さんはまた歩いていった。
「あの…」
「何だ。」
「今、何をしているんですか?」
「お前がこの街で暮らせるように金と場所を確保してやってるんだ。」
「…あの、別にそこまでして頂かなくても…」
「何だ。お前はこれからこの街で野垂れ死ぬ気か?…それともまさか、このままずっと俺に着いてくる気だったのか。」
「…すみません…。」
「…それに、まず街に拠点がないと、お前が元の世界に帰る方法も見つからんだろう。」
「…あ、なるほど。」
そう言うと、俺は少し疑問を感じて聞いた。
「…何で俺が違う世界から来たことを知ってるんです?俺は話したことないと思うんですが…。」
俺がそう言うと、爺さんの歩く速さが少し上がった。
「…お前が魔法を使ってないからだ。」
「ああ…。」
と、そこで爺さんの足が止まった。
「…お前は魔法を使いたいか。」
爺さんは少しこちら側を向いて言った。
「…元の世界に帰るために必要なら…。」
俺がそう言うと、爺さんは少し考えた後に、また前を向いて歩き出した。
「…ついてこい。」
その後ついたのはやたら古びた民家であった。
その民家の扉を叩くと、中からかなりの老人が出てきた。
「ありゃ、これまた懐かしい…。」
「ご無沙汰だな。」
「…そちらは?」
「拾った。こいつの魔法が何か見てやってくれ。」
そう爺さんが言うと、老人はあまり状況を飲み込めない様子を見せながらも、中に入れてくれた。
家の中は日当たりが悪いが、ストーブの暖かさが広がっており、その灰が宙を舞っていた。
俺と爺さんはストーブより離れた位置にあったソファーに座った。
少しの菓子と茶を俺達に出した後、老人は自分の分の茶を啜った。
そして一息つくと、話始めた。
「…で?どういう経緯で?」
「歩いてたら倒れてた。拾った。生き返らせた。こいつは魔法について知らない。だから何の魔法か見てくれ。」
「…まあ分からんが、分かったよ。古い付き合いだしな。」
そう言うと、その老人は目を瞑った。
「…銀の水…透明化…防御…回復…の直接魔法だ。…まあ、何というか、あいつに似とるね。こいつは。」
「…。」
「まあ、時代が時代だ。あいつみたいにはならんだろうよ。」
「…おいお前。」
「はい。」
「…力に溺れるなよ。」
「はい…。」
俺は二人の会話についていけず、ただ呆然と座っていた。
今度はそのまま市役所に行き、住民票を貰い、戸籍登録を済ませた。
その後は銀行へ行き、口座を作った。
その後、不動産屋ですぐに住める家を借り、その家に入った。
「…とりあえず俺ができることはこれまでだ 。後はお前の好きに生きろ。」
爺さんは新居の部屋の中でそう言い、出口に向かった。
「…あの。」
「…何だ。」
「ありがとうございました。」
「…人は生きてこそだ。また何かあれば言え。まあ、また会ったらの話だが。」
「はい。」
爺さんはそう言って部屋から出ていった。
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