異世界でも、人とのコミュニケーションは苦痛にも安堵にも変わる。(2)
起きると、屋根があった。
「…夢か…。」
そうだ。そもそも異世界なんてあるはずがないのだ。そんな夢物語、ある方が可笑しい。
と思ったが、現実にしてはやけに屋根が低い。
嫌な予感がして、起きるの嫌だなぁ…早く現実に戻って宅急便の荷物受け取りたいなぁ…と思いながら周りを恐る恐る見た。
すると、俺の横で白い髭を蓄えた渋い爺さんが薪を燃やしていた。
「…あの…。」
俺がそういうと、爺さんはこちらを向いた。
「…pljub^jz.」
ここでまた、異世界なのにやけに現実を見せられるのである。
言語が通じない。当たり前といえば当たり前なのだが、現状において言語が通じないのは大問題である。
すると、爺さんが何を言ってるのかは分からないが、続けて言った。
「…xb^jx^sbmhb, upsjbfav lpsfxplvf.」
そう言うと、爺さんは肉のスープを渡してきた。
その口調と行動から察するに、多分「とりあえずこれを食え」ということなのだろう。どうやら、俺はこのおじさんに助けてもらえたらしい。
俺はそのスープを受け取りながら周りを見回した。
どうやら今は簡易的な住居の中のようだ。そう、確か、北方騎馬民族のゲルとかいう住居に似ている。
とりあえず俺はそのスープを啜った。
「…うまい。」
その味は身に染みた。
少し塩味が濃いし、というか味付けは塩しか入ってないし、全然灰汁がとれてないし、肉とじゃがいもしか入っていないし、何なら何の肉かも分かっていないが、確かに生命を感じる味だった。
口から腹へ。腹から全身へ。命の炎が流れてくる。
気がつくと、俺は泣きながらスープを喰っていた。
「…j^h jzn rhxz^hbsv.」
そう言うと、爺さんは立ち上がって外に出ていった。
俺はそのスープを完食し、手を合わせて丁寧に感謝をし、外に出た。
改めて草原を見た。何だかwindowsでも立ち上げたような気分になる草原だ。
唯一違うのは、馬が数十頭いることぐらいだ。
すると、爺さんは縄を持って帰って来た。
「…npv^jtsszmnjz.kb,lpuuj sfsvebf.」
そう言うと、爺さんは縄を一匹の馬に括り付け、杭で縄を固定すると、簡易式の住居を片付け始めた。
俺はとりあえず、分からないなりに片付けを手伝った。
「…bsjhbuv^xn.」
片付けて、馬に住居を積ませ終えると、爺さんは他の馬に乗り、俺をその後ろに乗せた。
そのまま爺さんは馬を走らせた。
すると、他の馬は見事に爺さんの後ろを走り始めた。
「…なるほど…ついてくるのか…。」
俺達はそのまま南に向かった。
その後、俺達は暫く流浪の生活を続けた。
Tシャツとジーンズはいつの間にか脱がされていて、爺さんが代わりに毛皮の民族衣装のようなものを着せてくれていた。Tシャツに比べて大分暖かかった。
日を追うごとに爺さんとの会話も増えていった。まあ、会話といってもほとんどジェスチャーゲームなのだが。
その中で色々なことを爺さんから聞いた。
まず、方角を決めるには風の向きを使うと良いらしい。
この草原の辺りには、南には街、北には氷の大地が広がっており、北の大地が来る冷涼な風が街の方へ吹いている。なので、風が向かう方向に街があるそうだ。そしてその街には風車があるという話も聞いた。
草原では馬は必需品という話も聞いた。
馬の用途は多彩で、革は服や住居の壁に。肉は食用に。さらに血は飲料として活用できる。俺も初めて馬の生き血を飲んだが、味の感想を忘れるほど罪悪感が強かったことだけ覚えている。
また、当然のことながら、荷物運びや足がわりに使うなど、力仕事も大丈夫である。
衣服として。食料として。飲料として。足として。正に、この何もない草原で生き抜くためには欠かせない存在だ。
これは話で聞いたわけではないのだが、爺さんは馬を殺す時、念入りに感謝の祈りを捧げるのである。
まず、馬の毛を何度も何度も繕い、その後草を食ませる。いわゆる最後の晩餐だ。
そして、そのまま寝転がった馬にゆっくりと近づいていく。
爺さんはもう一度、その馬を優しく抱きしめ、別れの言葉を告げてから殺すのだ。馬にわざわざ別れの言葉をかけるのは爺さんのこだわりなのだろう。
俺はこの流浪の旅で、命について学んでいった。
そして逆に、唯一教えてくれないこともあった。それが魔法である。
爺さんは薪ストーブに火を付けるとき、火種のついていない薪に息を吹きかけて火を付けていた。やはりこの世界には魔法があったのである。
だが、俺が何度魔法のについて聞いても、何を言っているのか分からないという反応をされた。
恐らく、この世界では魔法は最早常識的なものであり、教えるようなことでもないのだろうと勝手に解釈した。
そんなことを学び、過ぎていった5日間。遂に、俺は街に辿り着いたのである。
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