第24話 参観日


      ◇


 全校朝礼で表彰された俺達は一躍時の人に。だが、元より『呪いの魔剣』として有名だったグレイと俺が今更人々に囲まれて質問攻めにされるなんてことは無かった。生徒たちの中には『見直したぜ!』なんて嬉しい言葉をかけてくれる奴もいたが、多くの者が『何故彼らにそんなことができたんだ?』という疑問と『よもや恐ろしい力が……』と恐れを抱いて俺達を見ていたのだ。


(まぁ、こういう視線は慣れっこだから別に構わないけど。それに、グレイに対する理解者が少しは増えたみたいだし、魔剣の良さを広めて『グレイを幸せにする』のが最終目標の俺的には、一歩前進……かな?)


そんなことを考えながら数日が過ぎ、いよいよ二次試験を迎えた当日。御園たちとの試合に向けて闘技場へ移動していた俺達は、不意に後ろから声を掛けられた。


「ああケント君、ここにいたのか」


(この声は――)


 そこには、品の良い色合いのスーツに身を包んだダーインスレイヴさんが立っていた。すらりとした等身、遠目に見てもわかる艶やかな黒髪に、不思議な光を灯す金の瞳。伝説の魔剣の一振りという『非日常』が学校にいることに、周囲の生徒たちはどよめいている。

 そんな外野の声は耳に入っていないのか、ダーインスレイヴさんはこちらに手を振りながらゆるりと近づいてきた。


「そろそろ出番な頃合いか?」


「パパっ――ええと、お父様!? どうしてここに!?」


 急な来訪者にびっくりして『んにゃっ!?』と肩を跳ねさせるグレイ。ダーインスレイヴさんはそんな娘の様子に『学校、楽しそうだな?』と目を細めながら俺に視線を向ける。


「目の具合はもう大丈夫なのかい?」


「あ、はい。おかげさまで。日頃から使わないように注意していれば痛みは引いていくみたいです。魔眼を使った後はぼんやりとしていた視力も、だいぶ戻ってきました」


「なら良かった。先日『目が痛い』と言っていたから、心配でつい声をかけてしまったよ。ケント君、余計なお世話かもしれないが……今日の試合、『覇滅の魔眼』は使わない方がいい。それを忠告したくてね」


(確かに、学校の闘技場を爆発させるわけにはいかないもんな……)


 『覇滅の魔眼』を使ったときのことを思い出して思わずごくりとつばを飲み込む俺に、ダーインスレイヴさんは声のトーンを落として続ける。


「あの魔眼の存在はできるだけ人には内緒にしておくべきだ。強大な力はときに差別と迫害を生むものだから。狭い社会集団である学校は、その傾向が特に顕著に出やすい」


「はい……」


 それは強大な力を持つ『呪いの魔剣』だからこその経験談なのだろうか。その眼差しからは俺を心配する優しさが滲み出ていた。


(ダーインスレイヴさん、俺のことを本当の息子みたいに心配してくれて……!)


 じーんと感動していると、遠慮がちに耳打ちをされる。


「だって……その……ビームが出るんだろう?」


 俺もひそひそ声で返す。


「はい、出ます。ギャグ漫画みたいに『ずぎゃーん!』って……」


「俄かには信じがたいが、君が出ると言うのだから出るのだろう。ビームが」


「はい。アレは、紛うことなきビームでした」


「……学校のみんなには、内緒にした方がいいと思うな?」


「……俺もそう思います」


「なになに~? ふたりして内緒話ずるいよぉ! お父様ってば、また研斗に余計なことを言うつもり!?」


「いや、そんなつもりでは――」


「大丈夫です、アレは使いません。魔眼の力を使わずとも、御園達と対等にやりあってみせますよ。それより、今日は何故学校に?」


 問いかけると、ダーインスレイヴさんはちらりと客席の一角を見やる。


「まぁ、平たく言うと授業参観だ。学院の進級試験は多くの教育、研究者や魔剣関係者が集まるこの国の催し物でもある。私は特殊上院の誅裁議員だから職業柄直接関係は無いのだが、知り合いのグラム校長にお願いをして席を用意してもらったのだよ、こんな機会は二度とないだろうから。多少の職権乱用は許してくれたまえ」


 そう言って大きな手さげから三脚やらカメラやらを取り出すダーインスレイヴさん。素人目に見てもわかる、授業参観ガチ装備だ。そうしてスーツの胸ポケットからスマホを取り出す。


「ああそうだ、ケント君、『パノラマ』というのはどうすればいいのかな?一応勉強はしてきたのだが、私のような古い魔剣にはどうにもこの手のモノはよくわからなくて……」


「ああ、パノラマ撮影は、ここを――」


「ほうほう……」


「ちょっとふたりとも! 恥ずかしいからやめて!? 初等部の運動会じゃないんだから!?」


「なんだグレイ、照れているのか? アルバムとスライドショーの作成は私の唯一の趣味なんだ、許せ。ケント君の両親が放浪の旅から帰ってきた際に楽しめるように、彼の分も用意している」


(うそっ……マジかよ)


「だからこれはケント君のためでもあるんだぞ? ああ、ふたりともそんな引きつった顔をするんじゃない。ほら、笑って――」


 そう言ってスマホを構えたダーインスレイヴさんから逃げるようにして、俺達は闘技場へと足を踏み入れた。

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