第16話 呪いの幼馴染
「ダーインスレイヴの奴、ボクが来るのを見越して『遺産』を逃がしていたなんて、してやられたよ。それはボクが彼に預けていたものだ。返してもらおうか?」
その問いに、グレイが声を上げた。
『――違う! お父様は、これを『再会の約束の証』として預かったと言っていた。決して人間を滅す一端を担うために、大切に預かっていたんじゃない!』
(……! そうだ、その通りだ!!)
俺は手元の魔剣を握りしめ、構え直す。
「ラスティ。お前に『遺産』は渡さない!」
俺の決意を悟ったように、
すると――
『研斗!! ちょっとだけ血をわけてくれる? 威力が上がる気がするの』
「え? いいけど、何する気――」
次の瞬間。
――スパンッ!
(……は?)
俺の腕が――切れた。
決して切断とかグロい状態ではなく、皮膚の表面が手首から肘くらいまで、一筋の線を描いてスパっと。
「痛っ……!?」
『ちょっと! ちょっとだけ我慢して! 痛いのは最初だけ! そのうち気持ちよくなるから!』
「はぁあ!?」
(なにそのヤバめな説明!?)
「意味わからないから!!」
『今度こそっ……再生が間に合わないくらいの連撃を!――【
グレイの詠唱と共に、俺の腕は下から上に弧を描いて空へと斬撃を飛ばした。
空を切ったかに思えた、俺の血を纏ったその一閃は、数秒後、数多の黒い十字杭となってラスティの頭上に降り注ぐ!
『あんたが再生するっていうなら、それ以上の手数で攻めるだけよ!』
「チッ。うじゃうじゃと……鬱陶しいなぁ!」
ラスティは、魔剣を構えることなくその攻撃を腕で弾いた。おそらくは、今後の為にエクス=キャリバーを温存させておきたいのだろう。だが、俺達の攻撃によってラスティの腕には無数の切り傷が付いている。
「このまま押し切るぞ! グレイ!!」
「無駄だって言ってるだろう? こんなかすり傷、すぐに再生するんだからさぁ!」
煙をあげて即座に修復していく腕。
『だったら、絞めあげる……!――【
グレイが叫ぶと、今度は地から這い出した闇の魔手がラスティに迫る。
そして――
『距離が足りない! 研斗、もう少し血をちょうだい!』
――スパンッ!
『――【形態変化・
俺の腕から血を吸収し、赤黒い鎖状に姿を変えたグレイの刀身が、まるで生き物のように自在にラスティの首を拘束した。
『捕まえたっ!!』
「よし! そのまま締めあげろ!!」
腕からだらだらと血を滴らせたまま、手元の魔剣だけは離さないように、柄を握りしめる。
「暗黒魔剣の形態変化か……器用な真似を――」
『絶対! 絶対に離さない!! 遺産は渡さないし、人間だって、滅ぼさせたりしないんだから!!』
「――ラスティ!!」
叫んだエクス=キャリバーが、咄嗟に黄金の剣に姿を変えた。
その眩い光が、貧血でぼやけた視界に映る。
「はぁ……はぁ……」
(なんだ、この感覚……?)
身体が熱く、息が、呼吸が、乱れて仕方がない。心なしか魔剣を持つ手が震えているのに、ソレを絶対に手放してはいけないと脳が警鐘を鳴らす。
「うっ……!」
(貧血? いや違う。身体中の血がぐるぐる回って脳みそがチカチカして……例えるならランナーズハイか? ……けどヤバい。コレはなんだか良くないやつだ。まるで麻薬みたいな……)
立っているだけで精一杯な俺に、
『研斗? 楽しくなってきた?』
「……え?」
『私が存分に力を使うには、契約者の血が必要なの。でも痛いのは嫌でしょう? だから、私が斬った切り口からは気持ちいい成分が出るようになってるんだよ?』
「は――?」
『この感覚が忘れられなくて、かつてお父様を手にした人達は幾度となく戦と殺戮を繰り返したとされている。そうして、お父様自身も生きる為に人の血を欲する、一度は封印された【呪われし魔剣】――それが私達、ダーインスレイヴの血族』
(ダーインスレイヴさんが高校進学を諦めるほどに『覚醒』を恐れた理由が、コレか……!)
「グレイ……お前は、お父さんの血を……」
『これでもかってくらいに色濃く継いだみたい。でも、研斗なら大丈夫って信じてる。かつて唯一、この狂気に呑まれないでお父様を使いこなしたラスティ……あいつ以上に、
「それは――」
『ねぇ……信じても、いいよね?』
縋るようなか細い声。それはいつもの元気なグレイからは想像もできないような声だった。
だが、幼馴染のそんな声を聞いて頷けない程、俺は卑屈で弱気な男じゃないつもりだ。だって、もし今グレイが魔剣でなくて人の姿をしていたら、その手を掴まなければ何処かへ行ってしまいそうな、そんな声だから。
(絶対、ひとりぼっちにはさせない――)
「ああ、大丈夫だ。グレイと一緒なら、俺はきっと大丈夫だよ」
想いを通じ合わせるように、俺達は叫んだ。
『「ラスティ!! お前だけは……許さない!! はぁあああ……!」』
鎖を絞めようと、ふたりで一緒に力を込める。
しかし――
――パリンッ。
黄金の刃が澄んだ音を響かせて、ひとりでにそれを断ち切った。
『ラスティを傷つけることは、許しません』
解放された首元を抑えながら、ラスティは手元の魔剣を見やる。
「……余計なお世話だよ、キャリバー。あの程度の拘束なら、たとえ首の肉が擦り切れたところで、骨から順に再生していけばいいんだから」
『しかし……』
「ほんと、お節介なんだから。キャリバーは――」
自身を気遣う優しい魔剣に、ラスティはゆったりと目を細める。そして、百年以上前、
(みんながみんな、魔剣たちのように心優しい存在だったらいいのに。なぁ、キミもそう思うだろう?)
――「フランベルジュ……」
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