第15話 白い悪魔
「つまりあんたは、人殺し……なのか?」
月を薄っすらと映し出す灰色の瞳。
ラスティは、肖像画そのままの優しげな顔に、見たことのない笑みを浮かべる。
「そうだねぇ。人を殺した経験があるのかどうかという意味では、ボクはたしかに人殺しだ」
「……!!」
「だって、魔剣のみんなを傷つけ利用しようとする悪い人間と同じ空気なんて、吸いたくないだろう?」
そう語る表情には、一点の曇りもない。
(く、狂ってる……!)
「なんで、どうして!? あんたはそんなに強いのに、どうしてそんな酷い真似を! そこまでして生き長らえて……いったい何が目的なんだ!?」
「う~ん、その辺は後でダーインスレイヴにでも聞いて欲しいんだけど……まぁいいや。簡単に言うと、今のボクはわけあって『寿命』と『戦力』を欲してるんだ。だからボクには、魔剣たちの持つ刃を食べて金属物質を体内に取り込む必要があるし、力を得るために『十剣』に預けた『遺産』を回収してるってわけ。それもこれも、全ては世界を滅ぼすために。正確には、人類を滅ぼして魔剣だけの新しい世界を作るために、ね」
「!?!?」
(こいつ、平然と何を言って……!?)
「あ~、その顔は『こいつが本当に“あの”ラスティ!?』って顔でしょ? それ、もう見飽きたよ? 良い機会だ、この際教えておくけれど。ボクが『白の英雄』と呼ばれていたのはもう百年も昔の話で、今では――『白い悪魔のラスティ』と。『外の人間』は、ボクをそう呼ぶんだよ……!」
「は……? 『白い悪魔』? 『外の人間』? 一体どういう……?」
次から次へと語られる途方もない話。その言葉を遮ったのは、一振りの魔剣だった。ラスティの腰に携えられた金色に輝く魔剣は、その身に蛍のような光を灯すと、金髪の美しい女性に姿を変えた。
「お話はそこまでにしたらどうですか、ラスティ?」
ゆったりとしたワンピースを夜風に靡かせ、女性は主の方を見やる。
「少し、話し過ぎなのではないですか? この少年たちにそこまで貴方のことを話してあげる義理は無いはずです」
「なんだ、出てきたのか、キャリバー」
「必要以上に真実を知られれば、次に動きにくくなるのは貴方なのでは?」
「別に構わないさ。ボクもさっきは久しぶりに本気を出したものだから、テンションが上がってるんだ、許してくれよ? それより、ダーインスレイヴとやりあった傷は癒えたのかい?キミにはこの後に頼みたい大仕事が残ってる。鞘に入って、少し休みなよ?」
「しかし、彼らはやる気なようです。貴方を守る魔剣はもう私しか残っていない……何かあってからでは、困ります」
主を心配する、優しい声。長い髪を耳にかけながらラスティの表情を伺う様子は、俺達と何も変わらない、仲のいい魔剣と契約者の姿だった。
しかし、その様子に手元のグレイは小刻みに震えだす。
『待って……あなたがあの、伝説の……エクス=キャリバーなの?』
問われた女性は、静かに頷く。
「はい、いかにも。私がエクス=キャリバーですが?」
『……!!』
グレイが驚くのも無理はない。だってエクス=キャリバーは、古くから最強と謳われ、多くの英雄と共に何度も世界を救った、全ての魔剣の憧れなのだから。
だが、もし彼女の話が本当なら。今、ラスティの隣にいるのがエクス=キャリバーなのだとしたら――
『じゃあ、あなたはまさか、人間を斬って――?』
「…………」
『なんで!? 魔剣は主を守るのが使命で、人を殺すことが存在意義ではないのに! どうしてそんな、ラスティみたいな人殺しと未だに契約をしているの!? だってあなたは、『希望を灯す魔剣』なんでしょう!?』
――そう。
ラスティの話したことが事実なら、その手元に居る最後の一振りであるエクス=キャリバーは、多くの人を手にかけていることになる。
信じたくない。
否定してくれと言わんばかりのグレイの問いに、エクス=キャリバーは――
「――それは違いますよ、若い魔剣さん」
真っ直ぐな目をして、答えた。
「
『……!!』
「たとえそれがどんな『願い』だとしても。主の願いを叶えることが、魔剣の――私の。喜びなのです」
「……だってさ?」
その答えを確かめたラスティは、今一度エクス=キャリバーに向き直る。
「キャリバー? 今までに集めた『遺産』の魔力で、どれくらいの威力が出せる?」
「南の童子切安綱、南西のクラウ・ソラス、北西のレーヴァテイン……三つ分ですか。それならば、世界の四分の一程度を滅ぼせるかと」
「それって、四分の一にあたるエリアを【
「いいえ。光の元素を纏った高エネルギー波の一閃で、大陸中央に位置する大火山と周辺の地脈を刺激し、天災を引き起こします。火山の爆発と熱風及び竜巻、それに伴う河川の汚濁で、人間程度の免疫力の生き物でしたら滅すことが可能かと」
「え~、火山爆発? それじゃあ、人間の生命活動や経済活動に打撃を与えることはできても、種を滅すことには至らないよねぇ? もっと、スパッと世界を真っ二つ! とかできなかったっけ?」
「ごめんなさい、ラスティ。現役を退いた今の私では、遺産三つではこれが限界かと」
「何も謝らなくてもいいさ。ボクはキミを責めているわけじゃあない。けど、そうなるとやっぱり、もっと『遺産』を集めないとダメってことか……」
狂気に満ちた灰色の瞳が、こちらを見やる。
「……持っているんだろう? ダーインスレイヴの分の『遺産』を」
「……!!」
「さぁ……返してもらおうか」
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